4-7
「あ、五番街が見えてきた」
しばらく時間が経過して車窓より、五番街が見える。
市役所に警察署に学校など、行政において主要な施設が揃っている島の中心部。
陸島と鼠川は一番街の男子寮から五番街北西部の学校に。鼠川と相原たち女学生は二番街にある女子寮から学校に通っている。
「木下さん、今日はありがとうございました」
佐藤市長が木下に挨拶をする。
「いえいえ。何かありましたらまた連絡ください」
車は高校より手前にある市役所近くの通りにてハザードランプを光らせて止まる。
「あれ?市長さんは一緒じゃないんですか?」
「ええ。仕事残してますので。それから校長先生に『貴方はもう用済みです』って言われて……」
「わぁ……」
鼠川はその時の市長の悲しみに満ちた泣き顔にどこか共感する。
(市長ってのはそれなりの権力者だと思うんだが……それをこうも使い捨てとは。校長先生本当に強いんだな)
一方、陸島は市長と校長のやり取りを想像してどこか不敵にほほ笑んだ。
その笑みに相原は困惑する。
「陸島君。どうして笑っているの?」
「お前には関係――」
「鉄明さん」
「……誰かを使い捨てにできるのは力があるってことだ。それがいいもんだと思っただけだ」
「そ……そうね」
陸島の不敵な意見に相原はよく確認せずに同意。
――シオンちゃん、そこは否定して
流山、心の中でつっこむ。
市長は皆に挨拶をして、歩いて市役所を目指していった。去り行く寂しい背中もどこ吹く風のように、車はそのまま校舎を目指す。道中、トラブルもなく車は学校の駐車場につく。
「あ、皆さんおかえりなさい。ごめんなさいね。いきなり呼び出して」
五番街に入り、陸島たちは駐車場から学校のグラウンド近くに車から降りて歩いていた。
その近くに校長先生が近づいて挨拶をする。
「校長先生、話って何ですか?」
最初に校長に話しかけたのは陸島。
「それより島の方はどうでしたか?全部とまでは言いませんが良いところでしょう?」
「悪くなかったですよ。それで何があったのですか?」
「陸島君。せっかちはいけませんよ?早い男は何とやらです」
「はあ。それで何があったんですか?」
「もう……まあいいでしょう。単刀直入に言いましょう。来週、ウォーロックが来ます」
「……はい?」
「え?えぇーっ!?」
陸島は固まり、流山は大声で驚き叫ぶ。
「僕ら以外にもいたんですか?!」
「せ、先生。ウォーロックって珍しいはずじゃ?」
続けて鼠川と相原が校長先生に質問する。驚きの表情で。
「そうなんですがね……どうやら他にもいたみたいなんです。おそらくこれで最後かと」
「最後?何故そう言い切れるのですか?」
「陸島君と鼠川君二人の登場を機に、全国に調査を進めてみました。血液検査をもう一度段階的に行わせたのです。表向きにははしかの予防接種という名目でね」
「はしか……ああ、なんか言ってましたねニュースで」
今朝のニュースを陸島は思い返す。
「そうそう。その折に検査をしまして……結果として見つかったのですよ」
「それで明日には来ると?」
「いえ。恐らく再来週以降ですね。手続き諸々ありますので」
「再来週……六月以降か」
「ええ。先に貴方達だけに教えておこうかと」
「いいんですか?」
「大丈夫です。同じ男子が来るというのなら特に陸島君と鼠川君は知っておくべきでしょう」
「そ……そうですね。陸島君、先に知ってたんだっけ?僕が来るとき、最初に知らされたのは陸島君って聞いてるけど」
「ああ。前日にいきなり聞かされた」
「すみませんね。私たちも忙しいもので。でも仲間が増えるのはいいことでしょう?」
「いらん」
「え?」
陸島の即答に鼠川は固まる。
「まあまあそういわずに。貴方の目的のためにも、人手は多い方が――」
「余計なお世話だ。俺の問題なんだよ」
「……もう。バラバラに切り刻まれても文句は言えませんよ」
笑みを浮かべる校長の猟奇的な言葉の並びに陸島以外の学生が震えた。
その時確かに校長に何か恐ろしいものが宿っていた気がしたのだ。言われた本人である陸島はただ堂々としていた。
「陸島君。木下さんにも言われてる通り、仲良くしてあげてください。でないと三人の死は無駄ですよ?」
「なんだと!?」
「怒鳴らないで。生きていられるのは三人がいたからでしょう?」
校長の言葉には決して悪意があったわけじゃなかった。
しかしその言葉にわなわなと震える陸島。
(三人……?家族とかかな?多分誰かを、大切な人を亡くしたんだろうか?)
鼠川は二人のやり取りを見て勘ぐる。
「ああそうそう。燦央院さんも帰ってきますよ。二人を連れてね」
「あ?燦央院?」
首をひねる陸島に相原が説明する。
「えっと、燦央院さんはね……燦央院っていう由緒ある魔女の貴族の人なの。表向きは製菓を営む小さな会社で裏は長い歴史を持つ家の人。魔法も凄い使い慣れてて最近は中学を卒業する前後で本土の方で機関の人たちと任務にあたってるって」
「強いか?」
「え?」
「強いのかって聞いてるんだ。本土で任務を受けているんだろ?もしそうなら決闘申し込んででも実力が見たい。力ある者だっていうのならな」
「それはわからない。でも弱いとは思えない」
「あの~……校長先生」
陸島と相原が燦央院と呼ばれる女性についての会話をしている横で流山が手を挙げて校長に質問を繰り出す。
「今さっき二人って言いましたけど……ウォーロック、二人もいたんですか」
「……あ!忘れてました。今度はウォーロックが二人きます。恐らくそれで最後かと」
てへっとリアクションを繰り出す校長。
(……帰りてえ)
陸島はついていけなかった。
年を考えずに繰り出された校長のリアクションにも。希少なウォーロックがポンポン出てくる状況にも。
「それでは私はこの辺で失礼しますね。また用事があるので。帰りは木下さんにでも送ってもらってください」
そう言って校長はその場を後にした。
後にはグラウンドの中心に生徒四人がぽつんと立っていた。
「ど、どーしよーツバキちゃん。今度来るウォーロックがこいつより手に負えなかったら……」
震える流山の視線の先には陸島がいた。
「知らねえよタコ。誰であろうが邪魔なら潰しちまえばいいだろうが」
「もう……」
冷たい態度を見せる陸島に相原は呆れる。
「でもどんな人が来るんだろう?ちょっと気になるね」
「そーですね。鼠川君みたいに女装が似合ってたりするかもしれませんよ?」
「しないよ!?」
「くだらん……」
そう言って陸島はその場を後にした。
去っていく様子を相原が見ているとはっと気が付く。
「あれ?陸島君、そっちは駐車場じゃないよ?」
「知ってるよ。もう一つ門があるだろ。そっちから歩いて帰った方が早い」
「そうだけど……いいの?木下さんに送ってもらわなくて」
「結構。お前らだけで乗って帰ってろ」
「ひょっとして刀鍛冶さんの所に行くの?」
「今日は休みだそうだ。後日会いに行くさ」
相原の方を見ることなく、彼は反対側の門を目指す。
その始終を見て鼠川は苦笑いを浮かべる。
「……冷たいね。彼」
「うん。でもめげない」
「まだ彼に向き合うのですか……とゲンナリする所ですが、流石シオンちゃん。それでこそです」
「そうなの?」
「そーいうもんです」
残った三人は木下の乗る車まで歩き始める。
「うーん……それにしても彼、なかなか心を開かないね。僕も度々話すけど長くは会話続かないね」
「どっかのお坊ちゃまなんでしょ。だからあんなにワガママなんですよ!」
膨れた面で流山は怒る。
「そうかなあ……」
一方で相原は考え込む。その間に学校の駐車場に足を踏み入れ、木下の乗る車が見えた。
「あ、そうだ――」
相原は駆け寄って車近くで立って待機していた木下に近づくと木下は相原たちに気づいた。
「おや、皆さん……あれ?鉄明さんは?」
「歩いて帰るって言ってました」
「あらら……遠慮しなくてよかったのに」
「あの……聞きたいことがあるんですけど」
「ええ。なんでしょうか?」
神妙な顔つきで自分の手をぎゅっと握って、相原は木下に質問した。
「陸島君……過去に何かあったんですか?私、何も知らないんです。何かがあったのはわかるんです。でも詳しくは知らなくて」
「ああ、そうですよね。あの人が自分から何かを話すということはまずしないでしょう」
木下は頭を抱えた。
「それで、何かご存じなのですか?」
「そうですね。これはパートナーである貴方は知っておくべきでしょう」
知るべきこと。
それを話す前に木下は視線を通して相原に『覚悟は良いですか』と語り掛けているようであった。
相原は自然に首を縦に振った。
「もう五年以上前の話です。彼は……かけがえのない人達を失いました。彼にとっては家族同然の人達を。皆殺しと言ってもいいでしょう」
「み、皆殺し……?」
「ええ。ひどいものでした。その時も、その後も。今の彼を作った事件でしょう」
木下は俯いて話を続ける。夕日は現れ、空に静かに陰りを増していく。
「本当に突然でした。三人は殺されたのです。今でも覚えてます。雨の中で、血まみれになって泣きわめく幼い鉄明さんの姿を。そして、骨壺の前でひざを折って動かなくなった彼を。守ってくれた、育ててくれた人たちへの復讐に燃える彼を」
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