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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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27/112

4-6

「お待たせしました。今日は街巡りですので施設に向かわれるのはまた今度でお願いします。次は八番街ですね」


 市長の案内のもと、木下が運転する車は七番街から八番街に向けて走り出す。

 車内ではまた鼠川が流山に質問を投げる。


「ねえ、八番街って何があるの?」


「えーっと宿泊施設やクラブにプールがあるって聞いてます。正直言えば大人というかそういう人たち向けの施設が多い印象ですね。七番街が若い世代で、八番街はどっちかといえば大人向けの施設が多いというか……バーとかもあるんですよね。正直、大人の世界って感じが強いので、以前私たちが歩いた時には中央のタワーに上ったくらいです」


「タワー?」


「はい。ホテル『ヴィクトリア』っていうのがあるんです。主に本土で仕事している人たちがこちらに泊まりで来る際に使っているホテルですね」


「本土……か」


「どうしたんです?」


「ああいや……えっとね」


 鼠川が何か言おうとして口をつぐむ。それが気になったのか流山は話を切り出す。


「ひょっとして本土に帰りたくないとか?」


「いいや。将来の事なんだけど」


「将来?」


「うん。魔女……僕の場合は魔法使いかな? ほら、魔法使いの将来って例えば悪い人たちを倒すとか、他にどんな道があるのかなって」


 鼠川は流山に将来についての悩みを吐露した。

 自分がどうなるべきなのか。どうあればいいのか。それがわからずにいたのだ。疑問に対し、流山が答える。


「ああ、それですか。それだと主に三つの道がありますね。一つ目には組織や悪い魔女を倒すという機関直属の部隊に参加する。二つ目に魔女として公的機関で仕事をする。三つ目に機関に協力的な団体や一家などに所属して仕事を続ける。私の場合は三つ目ですね」


「三つ目? ってことはどこかの組織に所属するの?」


「はい。本土連合封魔忍者会っていうんですけどね。忍者の家系に連なる者たちの団体です」


「ほ、本土……何?」


「忍者連合で覚えてください。基本、忍者の団体って言われたらそこくらいなので」


「そうなんだ……流山さん、凄いところにいるんだね」


「私なんてまだ平社員ってレベルですよ」


 謙遜してはいるが、その表情はどこか嬉しそうだった。


(かわいい)


 相原は親友の隠しきれぬ喜びに微笑む。


「部隊か……」


 一方で陸島は部隊という言葉を気に掛けていた。


「鉄明さん、部隊に入りたいのなら実力だけじゃダメです」


「なんだと?」


 運転しながら木下は陸島に話しかける。

 真面目な顔つきで木下は続ける。


「高校生活の三年間の合間に研修や訓練などがあるんですがね、ここで成績を残さないとだめです。ある程度実力があるなら著名な一家や団体から声がかかると思います。でも学校で訓練を積んで強くなっただけじゃ駄目ですよ」


「何が言いたい」


「仲間ですよ。大半は誰かとともに任務をこなすものです。危険なんですよ、やはり。牙谷さん達もそうでしたから」


 会話の合間に、車はいつの間にか八番街の中心に差し掛かろうとしていた。

 八番街、大きなタワーのホテルを中心にバーやクラブにプールなどの施設が多く建ち並んでいる。

 歩いている人たちも成人から老人までが多く、学生はあまり見受けられない。


「おお、なんというか大人な雰囲気……」


「でしょう? 昼はそうでもないんですが夜になるとタワーからの夜景がスゴイんです」


「確かにすごそうだね」


 走り抜ける通りを見つつ鼠川と流山は辺りを見渡す。


「さ、そろそろ着きますよ。鉄明さん。ゆっくり考えてください。貴方になら見つけられますよ」


「どうだろうな」


 木下の意見にあまり関心を示さず、陸島は言葉を返す。

 その間に車は先ほど流山が説明したホテル『ヴィクトリア』近くの駐車場に止まる。


「おーでかっ!」


 ホテルのその高さに思わず声が出る鼠川。


「確か六十階建て……でしたっけ?」


「そうですね。六十階建て。屋上はスイートルームで、豪華な仕様になってます。建物の中にもいくつか施設があって、来客用にいろんな娯楽が提供されてますね」


 流山の質問に市長が答える。

 その時、市長が何かを思いついた。


「あ、見学可能ならできますが見てみますか?」


「え!? 入れるんですか? 中学の時は誰かいたから入れなかったから興味あるんです!」


「誰もいなければの話ですがね」


「スイートルーム……プールに景色を一望できるテラスと豪華仕様で凄いって聞いてますよ!」


「ええ。一度泊まった事がありますから確信があります。本当に凄いですよ」


「おぉ~……」


 市長の話に流山だけでなく鼠川も目をキラキラとさせる。


「ダメでしたら予定通り、四十階にある展望エリアまでになりますが良いですかね?」


「四十階でもいいですよ。ていうか四十階でも凄いんじゃ?」


「ええ。海を一望できます」


「いいですねそれ!!」


 鼠川は終始ワクワクしていた。

 それをよそに相原は陸島に話しかける。陸島は辺りを見渡してスマートフォンを眺めていた。


「陸島君はどう? 興味ある?」


 陸島はこれに返答をしなかった。意図的に。


「……うぅ」


「鉄明さん。どうかお願いしますよ」


 木下の残念そうな声で溜息を吐きつつ、ようやく彼はぼやく。


「四十階でいいだろ」


「えぇー? それでいいの?」


「そーです!! ロマンを理解できてないです!!」


「ロマンってなんだよ……だいたい行きたきゃ金を払えばいいだろうが」


 呆れる陸島に流山はさらにそれ以上に呆れていた。


「はあ、お前バカですか? スイートルームですよ? うん十万もするような部屋ですよ。こういうのは自分たちみたいな平民には一生入れないかもしれないんですよ?」


「ああそう。だから見学だけでもとケチくさい言い分か」


「なんだとこんにゃろー!!」


 ぷんすかキレる流山。

 その後、彼らは四十階からの景色を見てその場を離れた。


「うー……まさか立て続けに人がいたとは」


「予約、意外と入ってるんですよね。設備といい景色といい人気ですから。まあまたの機会にということで」


「ですよねー」


 助手席から振り返った市長の視界には、がっくりとした流山、鼠川の二人の姿。


「まあ仕方ありません。またの機会にということで」


 慰める市長に陸島が口を開く。


「で、次は? 今は午後三時回ろうとしてるけどいつまで続くんです?」


「ああ、五番街……ここで最後ですよ。通常だと五番街の学校からスタートしてまた学校に戻るという予定なんですがね」


「なるほど。なら学校で降ろしていただければそれで終わりでいいです」


「その事なんですがね。校長先生から貴方達にお話があるとかで」


「話……?」


 陸島は首を傾げる。


「なんだろう? 僕たちに大事な用事かな?」


「うーん……校長先生、どこか掴みどころがないというか。最強故なんでしょうかね?」


「最強? あの人がか?」


「え? 知らないんですか?」


 陸島の真偽を問うぼやきに流山はしたり顔を見せる。


「かつては本土の魔女達に恐れられた人で、ありとあらゆる魔法が使え、狙った獲物は逃がさない。その実力は現代において最強の一角とされてるんですよ」


「へえ。戦ったらそんなに強いのか?」


「そーですよ。お前なんてあっという間にこっぱみじんです!」


「こ、木っ端微塵って……」


「四肢をバラバラに切り刻むのか、爆発起こして肉体が粉みじんか……あるいはその両方か」


「陸島君もさらっと怖いこと言わないで!? 僕もうあの人普通に見れないよ!?」


「ふふ……」


 三人のやりとりを相原は笑って見ていた。

 車は五番街へと進んでいく。


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