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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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26/118

4-5

「これが七番街ですか?」


 七番街中心のビル近くに止められた車から降りて鼠川は辺りを見渡す。

 その周囲には映画、ゲームセンター、ボウリング場等の娯楽施設の詰まった明るい色合いのビルやそれらを囲うレストラン街に動物園など。遠くには遊園地があり、観覧車に加えてその周囲にはジェットコースターやコーヒーカップなどおなじみのアトラクションも見える。歩く人々も若い人が多く、よく見れば学生が多い。


「動物園あるの? なんか意外……」


「そうなんです。中学生時代にシオンちゃんや萩野さんと一緒に行ったことあるんですけど、可愛い生き物とか色々いますよ! 水族館もあるんです!」


 流山が鼠川に昔の思い出を語る。


「おお……そりゃ凄いな。動物も魔術に関係するの?」


「なくはないですよ。私の使う蛙とか。でも大体はペットですね。癒しですから」


「癒しかあ。犬とか猫とかいいよね」


 鼠川のその意見に流山は首を縦にブンブン振った。


「ああそうそう。お昼ご飯はここで自由にとってもらって構いません。スマートフォンは皆さんお持ちですか?」


 三人がそれぞれスマートフォンを手に取る。


「あれ? 彼は?」


「ほっときましょうよ」


「あ、陸島君ならさっきの……木下さんって人と話をしに別の場所に出たみたい」


「あーもう! どうしてアイツはこーなんですかー!」


「大丈夫ですよきっと。あの木下さんなら陸島君もちゃんと話すでしょうし……おや――」


 スマートフォンを手に取り、映った画面を見る。


「おや、あの二人は別で食事をとるようですね。皆さんも好きな場所でどうぞ」


「あれ? 市長さんは?」


「すみません。私はちょっと用事がありますので……一時間後にここに集合でよいでしょうか?」


「あ、はい大丈夫です」


 市長と別れ、三人はレストラン街を歩く。

 どこもかしこも人でにぎわっていた。


「……で、一体どういうことだ?」


「そうですね、あなたの住んでいた場所は言ってしまえば魔女とかかわりのある場所です。でも全部じゃないんですよ」


 一方、陸島と木下は料亭『つくど』にて食事を取りながら会話をしていた。周囲の客が黙々と食事を取る中で重くもなく、軽くもない雰囲気の中でテーブル席に向かい合って座っていた。


「木下、この際聞かせろ。三人は……牙谷も爪島も羽田も魔女機関の人間か?」


「ええ。そうです」


「……まじかよ」


「羽田さんは魔女ですね。残りの二人はウォーロックではないです」


「そうか。じゃあ眷属か」


「はい。そうそう、大事なことを一つ」


「なんだ?」


 運ばれてきた料理を口にしつつ、木下は真剣な眼差しで話す。


「三人とも、手練れでしたよ。羽田と爪島は魔女と眷属としては良きコンビネーションで良い間柄で……牙谷はリーダーとして二人を、そして皆を支えていました」


「そうか。ずいぶん恵まれたもんだな俺も」


「それを踏まえて貴方に話があります」


「なんだよ」


「その三人があの日に一度に討たれた。それが何を意味するのか分かりますか?」


「……敵は強大ってことか? それとも俺の為に死んだからその分働けってことか?」


「強大ですよ。それと……三人の死の原因は貴方じゃない」


 沈痛な表情を見せたのは木下だった。


「もう一つ。今日みたいな態度、本当に勘弁してください。特に相原さんに関しては。貴方と一緒までとはいきませんが彼女もつらい経験をお持ちですから」


「聞いてる。校長先生も言っていた。両親を亡くしたそうだな」


「ええ。十年ほど前に父親を任務で亡くし、母親を一年近く前に病で亡くしています。彼女もかけがえのない物を亡くしているのです」


「何度も聞いてる。だけどそれで俺が優しくして何になる?」


「……どうにかできませんか?」


 木下は重い表情で陸島をじっと見た。


「大切な人や友達。相原さんにとっては貴方もそのうちの一人なのです。ええ、きっと出会って間もないのにそんなこと言うのかと思うかもしれませんね。それでも彼女には――」


「一人でも多くの友人を作りたい。何故ならそれなら一人いなくなってもまだいるからと?」


「それは違いますよ」


 ねじくれた陸島の回答に木下はバッサリと返す。


「鉄明さん。そろそろ一歩を踏み出す気はないですか?」


「何の一歩だ?」


「復讐ではなく、日の当たる世界に――」


「断る」


「何故です?」


 今度は陸島がバッサリと木下の意見を切り捨てた。


「先にけじめだろ。それから日の当たる世界に向かうかどうかを考える。それからでも遅くはないだろ」


「そうかもしれませんが高校生活終わってしまいますよ?」


「それでいい。そもそも俺自身が生きてるのがおかしいんだよ」


 生きているのがおかしい。

 その言葉に木下はまるで雷に打たれたかのように黙ってしまった。


「木下、そういうことだ。俺にはここで力をつけて三人の仇を討つという大切な目的があるんだ。友達だのなれ合いだのしていたらそれこそ復讐の機会を逃す……ん?」


 不意に電話が鳴る。陸島のスマートフォンだった。


「なんだ?」


「ああ、どうぞ出てください」


 木下の確認を得て電話に出る。


「もしもし……なんだ一体? 木下? 目の前にいるけど?……ああわかった」


 差し出されたスマートフォンを手に取ると木下はそれを耳に当てる。


「ああ、すみません……ええ。そうです。やはり、親父さんの予想通りでした……え? ああ、はい」


 木下は電話の向こうの人物に申し訳なさそうに会話をしていた。


(つーか電話番号、いつ教えたっけ俺? 多分教えていないはずだが……早瀬先生辺りが教えたのか?)


 ふと沸き起こった疑問。

 それについて思案していると木下は電話を返してきた。


「ああ、伝言です。やはり相原さんだけでも……二人きりとかで良いからどうにか会話して――」


「くどい」


 すっと椅子から立ち上がって陸島は木下を見る。その目は疲れているように見えた。


「復讐は俺一人でやる。いいな?」


「……ああ、じゃあ……校長先生に頼んで市長の首を跳ね飛ばしてもらうしかないですかね」


「何故そこで市長!?」


 突然の市長への解雇通知予告に陸島も声を大きくせずにはいられなかった。

 そりゃそうだ。


「冗談ですよ。市長に恨みなんてないですから」


「解雇したいならそうすればいい。好都合だっていうんならな」


「もう、冗談が通じないんですから。とにかく彼女の事、お願いしますね」


「……ところで質問いいか?」


「なんでしょうか?」


「何故揃いも揃ってあの相原って女に気を遣えって言うんだよ? あいつの周り、別に寂しいようには見えんぞ?」


「まあそうなんですがね。その、校長とあの人に言われているので」


「校長とあの人?……どういう組み合わせだ?」


 木下の『あの人』というのが誰を指しているのかは陸島にとっておおむね見当はついていた。


「私も詳しくは存じていません。他にどんな理由があるのかなどと。ただ、とにかくお願いします。本当にお願いします」


「ああもうわかったよ。考えてはやる。ほら、そろそろ行くぞ」


 そのまま二人は店を後にした。

 会話の前後で変わらぬ態度であり続ける陸島が果たして本当に相原紫苑に対して心を開いてくれるのか……木下は不安であった。


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