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アーケード街の観光をひとしきり終えて一同が車に乗り込む時の事である。
「おっと、電話が。ちょっとすみません」
市長はそう言ってスーツのポケットからスマートフォンを取り出すと、電話向こうの相手と会話を始める。
「市長さん、忙しそうだね」
「ええ。島と本土の人達のそれぞれのお偉いさんとの架け橋をやってたりしますからね。そういえばこれに加えて島の人達の意見を聞いて部下とどう対応するかをやり取りしてますね」
「うわぁ……大変だ」
鼠川と流山は車窓の向こうではきはきと喋る市長の姿をどこかつらそうな目で見る。
「……どうして校長先生、市長さんに僕たちの案内頼んだんだろ?」
「そりゃあ――」
流山は視線を変える。
その先には本を読む陸島がいた。
「な、なるほど。一理あるかもね。ところで七番街は人気なの?」
「はい、若者向けの娯楽施設が多いんですよ。こないだもシオンちゃんに萩野さんと一緒に出掛けたんですが色んな施設があるんです。ボウリングにプールに他にも映画館とか体を動かすものからゆったりとしたものまであるんですよ」
「レストランとかも多いの?」
「多いですよ。和食から中華に洋食。そうそう、デザートだってあります」
「歓楽街ってやつかな?」
「はい! デートスポットにも悪くない場所なんです!!」
眼鏡越しに流山の目はきらきらとしていた。
一方、陸島は本の世界に飛び込んで、文字の海を泳いでいた。そんな彼を相原はじっと見ていた。
「……何を読んでるの?」
相原のそっとした質問には目もくれず、陸島はただ本を読んでいた。
本には紺色のブックカバーが付けられており、それが何なのかは外からはわからなかった。無関心の返しに相原の表情は暗くなった。
「シオンちゃん。こいつのことはもう放っておいた方がいいですよ……」
げんなりとした態度で流山は相原に呼びかける。
――どうして彼はこんなに冷たいんだ? どうして彼女はこんなに気にかけるんだ?
鼠川は二人のやりとりに疑問を抱いていた。
(好きとかそういうのならわかるけど。でもそれにしたって……陸島君も陸島君だよ。そんなんじゃ将来苦労するよ?)
やれやれといった顔で鼠川は陸島を見る。
その間も彼は本から目を離さない。
「お待たせしました……あれ? 大丈夫ですか?」
「ああ。気にしないでください。彼にとってはいつものことですから」
市長が助手席に乗り込んだ時、周囲の空気がどことなく重かった。それを気にして市長が問いかけたとき、返答をしたのは流山でも鼠川でもなく、運転席にいたサングラスの男性。サングラスを外して車内の人間を見る。
「な――」
陸島は思わず釘付けになっていた本から視線を外し、その男を見る。
スーツを着た五十代の男性。サングラスを外して陸島を見ていた。
「お前、何でここにいる!?」
驚愕の声を上げたのは陸島だった。どうやらその人物に見覚えがあったようだ。
「どうも、お久しぶりです」
「え……え!?」
それまで見せたことのない表情と声を見せる陸島に、鼠川もつられて驚く。
「あの……貴方は? 陸島君の知り合いみたいですけど」
「ああ、私は木下といいます。彼が幼少期からの知り合いでしてね」
「ええーっ!?」
昔からの知り合いという言葉が出るまでに少しばかり間が開いたが、流山、鼠川は大きな声で驚きを上げて彼に詰め寄る。
「どういうこと? 陸島君? この人とはどういう関係なの?」
「わかりました! こいつ、貴族なんです! 上級国民とかってやつです。それで木下さんをアゴで使うろくでなしなんだ!!」
「違うわ馬鹿ども。木下、なんでここにいる?」
「ああ、ちゃんと許可や手続きはしておりますよ」
「あいつの差し金か?」
「差し金って……いやまあそうかもしれませんが。貴方も薄々気づいておられるのでしょう?」
「……ああ、そういうことか。察しがついたわ。アイツらも同じか」
(えっと……要するにどういうことなの?)
不敵に笑う陸島と木下のやり取りについていけず、運転手の正体が発覚したあたりから終始固まっている相原は困惑した。
「ということは……いたんだな? あの中に魔女が」
「え? 魔女? それって――」
「そうとわかれば俺は降りる。案内は此処まででいい。聞きたいことがある」
「お待ちください、鉄明坊ちゃ――」
「その呼び名やめろ!!」
車内に怒声が響く。
市長も、学生三人もそれには思わず震える。
「あいつに聞きたいことがある。あの家、何かがおかしいんだよ!」
「知りたいのであれば今日のツアーを最後まで受けることです」
「そんなのどうでもいい!! 今すぐ下ろせ!!」
「ダメです。鉄明さん、今のあなたに必要なのは静養です。最近ずっと修行ばっかりだったでしょ? それにこのツアー続けないと――」
落ち着いた態度で木下は助手席の市長を見る。
見れば青ざめた顔で窓の外の虚空を見つめていた。
「……ゴミっていくらなんだろう」
(あ、これやべーやつだ)
鼠川はその表情に何かヤバイものを見た。
「そういうわけです。貴方にとっても悪い話じゃないですよ? 聞きたいこと、あるんですよね?」
「……チッ」
舌を打って席に座りなおす。
相原は始終を見て思案を巡らせる。
(あの家……魔女の眷属……まさか。いや、だとしても――)
心当たりを一つ引きずり出そうとしたところで車は七番街を目指した。
車内はその間、静かだった。




