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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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23/123

4-2

「ところで……邪険に扱うって話だがそんなことあったか?」


「うーん……ないね。ひょっとしたらそういう勢力からは無視されているだけなのかも」


「だろうな。いたとしても叩き潰せばいい」


「……相手が得体の知れないところがあるのによくそう言えるよね」


「動かなくなればみんな一緒だろ」


 陸島の尖った言動に鼠川は不快感こそ覚えなかったものの、どこか引いていた。


「あ、今日も魔法の練習するの?」


 ひきつった顔から一転、鼠川は陸島に質問する。


「そりゃあそうだが。なんだ? 地属性の魔法なら教える気はないぞ」


「そうじゃなくて。一人で?」


「当たり前だろ」


 陸島はさっと返答を返し、両手を合わせて食事を終える。そのまま空になった食器を流し台のところへ持っていき、そのまま洗い始める。


「えーっと……相原さんだっけ? パートナーって聞いてるけど。彼女には頼まないの?」


「ああ。図書館の資料と合わせて一人で静かにやりたいんだ」


「相原さん、寂しがってたよ?」


「知らねえよ」


 怒気を含む言葉で会話を切ると、陸島は洗い物を終えてその場を後にした。その場には鼠川が一人残される。


「なにもあんなに嫌悪感出さなくても……」


 これまでの陸島。


(うーん……言ったほうがいいのかなあこれ。でも陸島君、相原さんのことあまり興味ないというか。むしろ嫌ってるのかな? 誰かが近づこうとするとピリピリしだすみたいだ)


 その時、チャイムの音がラウンジに響く。


「なんだ? チャイム? 誰が来やがった……」


 部屋に戻る途中、陸島は気だるげな態度で部屋までの道から一転して男子寮の玄関に向かう。すると入り口の前には先ほどテレビで見たスーツを着た初老の男性の姿が。


「ああ、突然押しかけてすみません。私、この玉之江市の市長を務めております佐藤正彦と申します」


 玄関にて佐藤は丁寧なお辞儀をして陸島に挨拶をする。


「はあ。どうも」


 陸島にもこれは予想外だった。

 市長というこの島でもリーダーといっても過言じゃない存在が男子寮を訪ねてくるとは思わなかったのだ。


「それで……いったい何の用です?」


「ああ、実はお時間あればお二人に島の案内でもしようと思いまして。……実のところは多忙な校長先生に代わって私が引き受けただけなのですがね。午前十時から、どうでしょうか?」


「島の案内?」


「ええ。お二人がまだそういうのを受けていないと聞きまして。島の学生さん達はだいたい入学してからひと月位を経て全体の案内を受けるのですよ。この島、農業に畜産や漁業と色々とやってますので。ああ、警察とか病院の場所やショッピングモールに見晴らしのいい場所も含めて案内しますよ」


「へえ、いきなりですね」


「ハハハ……連絡が来たの、昨日の夜なんですよ」


「はい?」


 陸島は興味がなさそうな顔をしていたが、にこやかな表情でそれまでいた市長の態度が一変して暗くなったのを見て不安になる。


――市長さんこんばんは。突然で悪いんだけど明日、ウォーロックの二人を案内してあげられないかしら? そう、入りたての女学生にやってるアレね。鼠川君はともかく陸島君そういうの興味ないっていいそうだから貴方にお願いしてるの。それじゃあ


「っていう電話がありまして。しかも深夜に……」


 シクシクと泣きながら当時の状況を振り返る。


「なるほど。そりゃあ気の毒だ。では私たちは自分らで調べるというから断ったということにして――」


「それだと私が〆られ……ああいえ校長先生が困るのでどうか案内させていただけないでしょうか!?」


 佐藤正彦、突然の土下座!

 靴の泥土が微かに残るその場所にて見せたそれは中々見ごたえがあるもので――


「いやそこまでされても……」


「いいんじゃない? 別に」


 いつの間にか隣には鼠川がいた。


「それに陸島君にとっても悪い話じゃないんじゃない?」


「あ? どういう意味だ?」


「こないだ噂で聞いたんだけど、この島の何処かに刀鍛冶いるって話だよ?」


「刀鍛冶?」


「え? ああ、私の親戚にいますね。良ければ紹介しますよ?」


「……ならいいか」


「本当ですか!? これで沈められずに済む」


 ガッツポーズを決めてはしゃぐその姿に二人は困惑した。


(校長先生……もしかしてああ見えてカタギじゃないのか?)


 陸島の脳裏に浮かんだ校長先生の姿に暗い影が差し込む。


(まあどうでもいいか。いずれ事件に協力してくれるというのなら)


「それじゃあ準備ができましたら表の車までどうぞ」


「準備しよう。陸島君」


「まあいいか。たまには」


 しばらくして二人は佐藤市長が所有する黒色の車に乗る。


 運転席には市長ではなくサングラスをかけた中年の男性が座っていた。


(運転席の人、市長さんの部下かな?)


 鼠川は少し気になった。一方、陸島はスマートフォンを手にして今日のニュースを見ていた。

 やがて車は走り出す。こうして彼らは今日、島の案内を受けるのであった。






「さて、お二人はこの島についてどこまで知っておりますか?」


 ミニバンの車中にて、市長と陸島、鼠川の二人は互いに向き合うように座っていた。

 車の後部座席が対面シートの構成になっており、市長と学生の合間には小さなテーブルが一つ。なお、運転は市長の部下が行っており助手席には誰もいない。


「魔女を育てて兵士にする場所だとか」


「え!? そうなの!?」


 陸島の回答にギョッとする鼠川。


「あはは……それはまあ半分は合ってますね。でもそれだけじゃあないんですよ? 中には普通に働いてる人たちもいるんですから」


「そ、そうなんですか?」


「はい。魔女はこの島で教育を受けながら将来に進むのですが……大きく分けて二つあります。一つ目に一般の社会人として溶け込んで生活をすること。二つ目が陸島君が言っていたもので魔女機関やグループなどに入って組織という恐ろしい敵と戦う道ですね。もちろんそれ以外にもいろいろありますが今はこの二つが多いですかね」


「組織……!」


 その単語が出たとき、陸島の顔が一気にこわばる。


「り、陸島君?」


 鼠川はその様変わりに驚きを隠せずにいた。市長は話を続ける。


「実力は今の段階から順当に成長していったのであれば陸島君であれば機関から直接雇われると思いますよ。眷属である私が言うのもなんですが」


「直接? 基本はそうじゃないと?」


「ええ。そもそも魔女機関というのはですね、国が立ち上げた魔女の派閥やグループというべきですかね。国が有用な魔女をいの一番に保護するというのが名目ですが」


「本音は使える駒が欲しいってことか?」


「まあそうですね」


 陸島の歯に衣着せぬ物言いに苦笑いで市長は回答する。


「でも日本ではなく世界的に見てもやはりそうした姿勢は必要ですよ。魔女狩りとか聞いたことありません?」


「ああ、中世にあったっていう?」


 鼠川が眉をひそめて魔女狩りという単語に反応した。


「……とてもむごいものだったと聞いてます。国としてもやはりそうした悲劇からどうにか魔女達を守れないかと検討し、ついには国家を主軸として魔女の保護に打って出たのです。これも百年……いえ二百年以上前でしょうか。とにかく歴史は古いんですよ」


「じゃあ派閥やグループというのは?」


「派閥というのは……そうですね。たとえるなら不老不死を求める集団がいるとしましょう。彼女らにとって組織というのは敵ではあるが戦うつもりはない。むろん協力する気もない。そこで派閥として魔女機関に登録をしてそこで研究やら発表やらに勤しむのですよ。そこでの成果によっては国に、ひいては将来の魔女に恩恵がありえるかもしれないので」


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