33-8
「ありがとうございます。ご飯はおかわりしますか?」
「ああそうだな……じゃあくたばってくれ」
言動のおかしい相手に余裕どりながらも戦いをしようとする陸島。
そして天使二号二体と陸島の合間に一枚の羽根が落ちる。絹のように白く、キラキラと輝く羽根が。
(ん?)
それは天使二号の物ではない。
直感でそれはわかっていた。
「お客様、お客様――」
支離滅裂な言動の天使二号の上から、それは舞い降りた。
数発の炎の弾が二体を焦がしながら貫き、その者は姿を見せる。
「見つけたわ」
次の瞬間にはその手に持つ燃え盛る刃で片方の天使二号の脳天を貫き、すぐさまもう一体の腹部を切り裂いた。
脳を切り裂かれたもの、腹を裂かれたもの。共に灼熱を噴出して地面に倒れ、二度と動くことはなかった。
「な!?」
陸島が驚愕するほどの煌びやかなる羽。
天使一号、二号とも違う輝きをその背に背負うのは小型化された天使二号よりもさらに小さく、肌色は綺麗な色合いの女性。ベージュのビジネススーツを着ていたその者に陸島は見覚えがあった。
「お前……何でここにいる?」
陸島は怒りと笑いの混じった表情で降り立ったその者を見ていた。
豊野儀茜。かつて陸島を襲った魔女である。もっともその裏では魔女機関が動いていたが。
「そうね、助けに来たのよ。今にも死にそうな貴方を」
豊野儀は周囲を見渡して敵影がないことを確認すると、陸島に近づいて微笑んだ。
混迷渦巻く廃動物園の戦いは大詰めを迎えていた。
「豊野儀先輩?」
「はい。私の先輩にあたる人で、とにかく強いんです!!」
一方、芽川達の方はというとミルメコレオの群れを撃退して陸島のさらわられた方角を目指していた。
その際に流山は芽川に、豊野儀茜という魔女について質問していた。
「単独で任務をこなすその実力は本物で、かつては組織が誇っていたクランをたった一人で壊滅にまで追いやった魔女。二つ名は『紅の天使』。炎も使えますが、ドグマの影響で風の魔術も使えるというとんでもない人なんです!」
「え?ちょっと待ってください。芽川さんも二つ使えるじゃないですか?」
流山の率直な問いに芽川は慌てた声を上げる。
「いやあの人はもっとやばいんです!私も確かにそうなんですが、あの人は最初は炎だけで戦っててそれで学年トップに成り上がったかと思ったら、それからあのドグマに目覚めてさらにそれを磨いて風の魔術まで手を伸ばして――」
「つ、つまり簡潔に言うと、どういうことなんです!?」
芽川の開きっぱなしの蛇口のように絶えない説明に流山は短い説明を求めた。
「えーっと……レベルが違うんです!私は二属性まぜてぺーぺーまで。あの人は尖りに尖らせて恐ろしい領域まで磨いてるんです!炎の精霊だって憑いてるし!」
「精霊!?まじですかそれ?!」
走る流山は信じられないという顔を浮かべる。
「はい!炎を出せば、精霊と共に全てを焼き払い、風の翼で大空を自在に飛び回る。その戦いぶりに組織から恐れられているんですよ!」
「凄いですね。そんな人が来てるなんて!ねえシオンちゃん――」
ウキウキの流山が相原の方を見るとがっくりとうなだれていた。
その顔をよく見れば、明日に月曜日を迎える社会人のような顔だった。
「え?シオンちゃん?どうしたんです?」
「よ、よりによってその人が……」
「ど、どーしたんですか?」
「あーっとだな」
流山と相原の合間に鴉田が割って入って、説明する。
玉之江島にいた頃、陸島と豊野儀が接触して戦っていたことを。その後に陸島が豊野儀にキスされた事を。
「おおう……それは……なんというか」
「まあその後に陸島もキレて殴ったんだがな」
「うへー。怖いですねえ」
「皆止まって!」
前方を走っていた芽川が止まるように呼び掛ける。
動物たちのいたコーナーに挟まれたアスファルト上の道路周囲を見渡すと、何かがいる気配がした。
「これ、魔力か?」
鴉田が銃を構え、辺りを見渡す。
流山はフロウの上に乗って構える。
「……上か!」
鴉田が気づくと同時に、空を飛んでいた天使二号が光線を放つ。
フロウがそれを間一髪でかわし、流山がクナイを数本投げた。魚の群れのように投げられたクナイを天使二号はその羽を広げて回避する。
「え?さっきより小さい?」
「ふむ。別の固体ってところか?」
流山と鴉田がその違和感に気付き、その間に天使は勢い良く地面に降り立って芽川達を見る。
天使は自身の肌に負けないほどの白さを持つ歯を見せて笑うと言葉を発した。
「ようこそ!今日はおいしいケーキができています!」
「うえ?なんですかこいつ?」
「……人で作ったキメラね」
芽川が杖に力を握りしめて、天使二号を見る。
「さっきのもそうだけど、多分ここのいかれた連中が作った最悪の代物。多分攫った人や機関の関係者とかで作ったんでしょうね」
「それって――」
流山の脳裏に浮かんだのは廃病院地下での記憶。
首だけにされた見知った者の無残な末路。
「う……」
フラッシュバックする記憶が流山の腹をかき乱し、吐き気を催す。
こらえ、みっともない醜態をさらすことはなかった。
「ツバキちゃん!!」
「うえ?」
直後、天使は高速で飛び上がって流山に接近。
「撃てーっ!!」
遠くから無数の雷撃が迫る天使二号を貫いた。
そして雷撃は天使二号を焦がしながら、流山の前から横に吹っ飛ばす。
「これは!?」
芽川の振り向いた先には規則正しく並ぶ数名のスーツを着た魔女。
そこから一人の魔女がその手に身の丈に近い長さの大剣を手に飛び出した。
「はあっ!!」
振り下ろされる一閃が焦げた匂いと共に天使二号を切り裂いた。
切り裂かれた天使は血を噴出して地面に転がる。
「んな!?魔力なしか!?」
「ああ、これはでかいからね。力技でもいけるのさ」
振り下ろした大剣を背中に仕舞い、その魔女は驚く鴉田の方を向いた。
「あんた、風のウォーロックでしょ?私は金田。エメラルド・ナイフのサブリーダー。よろしくね」
「あ、ああどうも。鴉田です。お姉さん背が高いですね」
「はは。よく言われるよ」
金田と呼ばれた女性は鴉田よりも少し背が高かった。
黒のスーツを着こなす彼女のその背に背負う大剣は彼女の背丈ほど長く、刃も広かった。
「で、芽川さんですね?吉川さんに頼まれて増援に来ました」
「増援ですか。助かります」
直後、芽川の通信機に吉川より通信が入る。
「芽川さん、合流できたようですね」
「はい。ところで、リーダーの根岸さんは?」
「ああ、うちのリーダーの根岸でしたら、さらわれた人たちの救援に向かってます。この騒動ですからね。急いだほうがいいかと」
「騒動?それって――」
芽川が訪ねようとした直後、彼女の後方から爆発が起きた。
「今のは!?」
「多分、豊野儀さんじゃないですかね?うちのリーダー、あんな派手な魔術使いませんから。ああそうそう。ここを仕切っていたボス、死んだみたいですよ」
「え?さらっと凄い事言いませんでした?」
「ああ、えっとですね。数分前にここのボスが殺されたみたいで、ここで飼っていたキメラたちが暴走してるみたいです。さっき死んだ組織の魔女がそう言ってました。今、組織の魔女と兵もそのキメラと交戦中ですね」
金田の説明に芽川は耳を疑った。
芽川の耳にもこの廃動物園のボスである魔女、八木島がそれなりの実力者であることを知っていたからだ。
「それ、豊野儀先輩がやったんですかね?」
「いや、確かそん時はこっちにいて――」
「金田さん!」
エメラルド・ナイフの魔女が金田に呼び掛ける。
その方を向くと、天使二号とミルメコレオに加え、腐敗集のする犬の群れがこちらに向かっていた。
「うげ。犬まで改造ですか」
流山は顔を歪ませながらもクナイを構える。
「とりあえずこいつらを片します。芽川さんと学生組は下がって!!」
金田の指示でエメラルド・ナイフの魔女達が前に出る。
そして一方的に怪物たちは放たれた風の魔術によってその身を切り刻まれ、崩れ落ちていった。




