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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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33-4

「クソがっ!!」


 飛び掛かってくるキメラを二人は避け、陸島はすぐに魔術を振るう。

 直後、キメラの足元に無数の蔦が伸びてきつく絡み始める。


(よし!)


 そのまま抜刀して渾身の突きを動けなくなったキメラの額へ。

 しかしキメラのしっぽの蛇は健在だった。


「キシャアアッ!!」


「ほう……そっちは動けるか」


 むき出しの牙でゴムのように伸ばしたその体はためらいなく迫りくる陸島に向かう。

 その牙で陸島の首を嚙み千切る。はずだった。


「甘い!」


 蛇の牙に口に向けて冷静に刃を平行に立てる。

 するとそのまま刃は大口を開けて向かってくる蛇を二つに綺麗に裂いた。


「そらよ!」


 そのまま刃をキメラに向けて、今度こそ渾身の突きを当てる。

 頭部を貫かれたキメラはそのまま悲鳴を上げることなく、地面に立っていた四つのたくましい足からは緩やかに力を抜けていき、ついに完全に動かなくなった。


「……で、なんだこいつは?」


 陸島が倒れた怪物の死体を奇妙な者を見る目で見る。

 相原がそれに答える。


「キメラよ。禁じられた魔術で作られる、超常の生命体。命をもてあそんで作られる悲しい生き物……」


 自身の周囲に血の池を作るキメラを相原は悲しい目で見ていた。


「多分だけど……この動物園は意図的に閉鎖されたんだわ」


「意図的に?どういうことだ?」


「それは――」


「閉鎖したんじゃないわよ」


 相原の言葉を遮った者がそこにいた。


「こんばんは。ウォーロックとその相方」


 動物園に設置された街灯に照らされて、緑のつば付き防止にこれまた緑の作業服を着た魔女が姿を見せる。

 彼女の手には一本の杖が握られていた。


「ああ、お前が殺していい魔女か」


「殺していいだなんてそんな物騒なこと言わないでよ」


「はん。こんなチンケなもん作ってよく言うぜ」


「チンケって……下品ねえ」


 作業服の魔女は呆れた顔を浮かべる。

 陸島は皮肉を垂れ流し続ける。


「ああ。無垢な生き物いじって遊んでる小さい連中がいるだなんて思ってなくてよ」


「そうでもないわ。その無垢な生き物だからよ。自然のエネルギーを体現したような存在。それを魔術で更なる存在へと昇華させていく。それが私の生きがいよ」


「二人とも無事ですか!?」


 そこに芽川を先頭に流山と鴉田が駆け寄る。


「シオンちゃん!!そいつが敵!?」


「どうやらヤバそうなのが来たな……」


「お前らはすっこんでろ」


「そうじゃねえぜ陸島さん。……見ろ」


「……ん?」


 その時だった。

 鴉田が指さした先。彼らの頭上よりその怪物が降り立ったのは。


「あれは……!?」


 陸島はそれを見上げ、固まった。


「あれこそ私達の最高傑作。とある古書に記された天使……それをベースに魔術によって作り上げたのよ!!」


 彼らの上で見下ろすモノ。

 その見た目は色合いは陶器のように白い肌を持ち、背中から羽の生えた人間とでもいうべきだろう。大きさは優に大人を超えている。さらに額から周囲には伸びた数本の針が一個の輪を支えていた。輪には三つの動物の首が通され、そのまま輪は回転していた。突き刺さっていた首は牛、鷲、ライオンである。


「……随分変わった生き物だな。このクソみてえな動物園の目玉か?」


「ふふ。流石にこの子は見せられないわよ。お年寄りにお迎えが来たって誤解されちゃうわ」


 陸島はその怪物が降り立つのをただ見ていた。

 巨体を誇る怪物は静かに降り立つと、作業服の魔女に視線を向ける。


「ええ。そうよ。今回のターゲットはあの二人。他は殺して食べていいわ」


「……りょう、かい」


「しゃべった!?」


 鴉田は驚愕の表情を浮かべる。

 魔女はその反応に満足したのか、笑っていた。


「凄いでしょ。それにね――」


 魔女は杖に力を籠める。

 次の瞬間、怪物は陸島達を見てその大きな口を開く。直後、光弾が地上に放たれる。


「しまっ――」


 とっさの攻撃に陸島達は回避しようとするが間に合わず、周囲に強い衝撃が走る。

 攻撃の命中した地面周囲がめくりあがる。


「うおわっ!?」


「きゃあっ!!」


 衝撃によって鴉田が吹っ飛び、相原が後方に転がる。

 陸島は地面に伏していた。


「り……陸島君!?」


 光線の衝撃が一番近かったのか、ゆらりと立ち上がる彼の額からは血が流れていた。

 手に持った刀はふらついていた。


「攻撃だってお手のもの……ってあら?ウォーロックっていうから気合の入った者を呼んだんだけど……拍子抜けね」


「はっ。言ってろ。その天使もどきで俺の首を刎ねてみろや」


 直後、天使もどきは血を吐いて地べたに蹲る。


「え?」


 作業服の魔女は何が起きたのか理解できていなかった。

 会話の合間、固まった泥の弾丸がその天使もどきの腹を貫いた。


「今のは……」


 陸島は理解していた。

 それが誰の攻撃なのかを。

 陸島達の後ろにいた芽川は既に杖を構え、自身の周囲に泥の蛇を展開。そして生成した泥の弾丸を射出し、天使もどきを打ち抜いて見せた。さらに陸島が気づいたのは、彼女には傷一つついていなかったのだ。


「皆さん怪我は!?ごめん、私が前に出るべきだった!!」


 申し訳なさそうに陸島達の前に出る芽川。


「気にしなくていいですよ!!男の子は元気が取り柄なもんでね!」


 軽口と共に鴉田が立ち上がる。


「こっちもへーきです。こんなの想定内ってやつですよ!!」


「皆!」


 立ち上がる仲間たちを見て相原は安堵の笑みを浮かべる。

 魔女は芽川を見て恐れはしなかったものの、後ろに下がる。


「ふふ……やるわね貴方」


「降参したらどうです?切り札はもう倒しましたよ」


「そうでもないわ」


 魔女は杖を膝を折った天使もどきに向けた。

 天使もどきは立ち上がると、流れる血を気にすることなく叫びながら足で跳んだ。


「げ!まだ動けるのか?」


「みんな離れて!!」


 天使もどきがが陸島達の中心に向かって勢いをつけて落下する。

 一同はそれぞれ離散して回避する。陸島は天使もどきのその攻撃を嘲りながら避ける。


「ふん。単純な攻撃――」


――そうそう。連続攻撃を仕掛けてきた時は気を付けな。軽いヤツとか舐めたヤツとかな。裏で何かくるぞ


(いや待てまさか)


 思い出した言葉に周囲を見渡す。

 その時、自分の体に何かが巻き付いているのがわかった。


「これは――」


 一瞬の出来事だった。

 近くにいた鳥の羽が生えた長い舌の怪物。

 陸島は宙に浮いた……というより腰に巻き付いたカメレオンの面を持つ怪物の舌に吊り上げられていた。


「あっ!?」


 相原が気づくが遅かった。


「こいつ……うおわっ!?」


 陸島は宙に浮いた後、その舌より走る電撃に撃たれ気絶する。

 刀がその手から落ち、地面に刃が突き刺さる。


「ああっ!!」


 相原が急ぎ蔦の魔術で舌の怪物を捕えようとするが飛翔するその翼の高さに間に合わず、彼は連れていかれる。


「待って!!」


「あ、シオンちゃんダメ!!」


 駆けだそうとする相原の足を流山が止めようと彼女に近寄る。

 天使もどきは自分から注意のそれた相原へ容赦なく狙いを定める。


「殺せ」


 低い魔女の声が響く。

 天使もどきは冷たい視線を相原に向けた。


「あ――」


 大岩のごとき重さと、勢いのある怪物の鉄拳が相原を襲う。


「させるかーっ!!」


 両手の印を瞬時に結び、流山は呼び出す。

 溢れた煙より彼女の相棒こと大蒲の『フロウ』は姿を見せ、天使もどきに張り手を叩き込んだ。


「げろーっ!!」


「んな!?」


 突然の大蒲に魔女は驚かざるを得なかった。


「か……カエルとはこれまた珍妙なモノを」


「なーにが珍妙ですか!!魔女といえばカエルでしょうが!!」


「その考えは古いわ!!」


 魔女との問答の合間に相原は天使もどきを蔦で縛り上げ、そこに芽川の泥による攻撃が混じる。


「あ!?」


 魔女は呆気にとられ、天使もどきはほどなくして動かなくなった。

 今度こそ、その禍々しき命の活動を止めたのだ。静止した怪物の姿に相原は安堵の息を吐く。


「よかった……やっとだけど倒せた」


 そして芽川は正面の魔女に射るような視線を向ける。


「さあ、どうしますか?」


 杖を向け、泥を向け、芽川は問う。

 魔女は動かなくなった天使もどきと芽川達を見てしばらく考え込むが、すぐにニヤリと笑った。


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