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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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209/212

33-3

 楽しい時間を過ごしていると時間は過ぎるもの。

 鼠川、流山、芽川、鴉田をその場に残し、それぞれ稽古やら修行やらに向かった。


「あ、そういえば……芽川さんに見てほしいものがあったんですよね。吉川さんにも調べてもらってはいますけど」


 そこに残っていた鼠川は何かを思い出し、テーブルの上にそれを置いた。

 芽川の前に桐の箱に収められた鞭が姿を見せた。


「これは……え?ええ!?」


「ど、どうしたんです?」


「……鼠川君。これをどこで?」


「ええっとですね――」


「あ、ここにおりましたか」


 驚愕の表情を浮かべる芽川の近くに吉川が姿を見せる。


「あ、吉川さん。お疲れ様です」


「その鞭の調査結果が出たのですが……中々の代物ですよそれ」


 鼠川は玉之江島での塩野との一件を嫌な顔をしながらも説明する。そうして説明が終わり、吉川は鞭の方を見てそれを手に取った。


「これは魔女の髪とも呼ばれる代物で、魔女が使う事によってその真価を発揮すると言われています。この鞭の丈夫さとつややかさを見るに、かなり良い品です」


「そうなんですか?」


 吉川の調査結果に芽川が首を縦に振ってじっとその鞭を見る。


「ええ、間違いありません。私も魔女機関で魔術道具の点検やらに駆り出されたときに見たことがありますが……。塩野さんもいいもの持ってましたね」


「これで戦えって事なんでしょうか?」


「そうかもしれませんが……。使い方わかりますか?」


「うーん……ちょっとわからないですね」


「では後で私が教えますよ。こういう武器なら少しは慣れてますので」


 芽川は親指を立ててアピールした。


「ほほう。芽川さんはどういう経緯で鞭を?」


 問いを投げてきたのは鴉田だった。

 その目は興味津々だった。


「え?ああ、私も元々組織との戦いで任務を受けていたんですよ。しばらくして魔女機関で働くことになって……。その時に護身用で鞭を使っていたんです」


「陸島との戦いで使わなかったのは何故です?」


「単に手元になかっただけですよ。でも、魔術のみに絞って戦うのなら持つ必要ないかなって」


「成程。そうでしたか」


 鴉田は合点がいったのか腕を組んで納得していた。


「……お前、何を想像してました?」


 流山の冷たい視線が鴉田を襲う。


「いいえ。流山さんのやらしい想像とは違う事ですわよ」


 鴉田臆することなく返す。

 妙な口調で。


「や、やらしいってなんですか?!私がSMだのとくだらない事考えているとでも!?」


「うん。今、口にしてたもんね」


「違いますよ!!……ああ芽川さん違うんです!!」


「え、ええわかってますよ」


「ちなみにSMやる時は専用のローソクと鞭を使わないと駄目だぞ?ルールとマナーを守って楽しくSMだ!!」


「そんな豆知識はどぶに捨ててしまえ!!」


 食堂に響く流山のツッコミ。

 彼らがまた恐ろしい組織の魔女に出くわすまでそう時間はかからなかった。







「で、なんだここは?」


 空の色が暗くなり、星々の輝きと月が見えるようになった頃。

 移動用の車を近くに置いて来た陸島達は少し歩いた先にある廃墟と化した動物園にいた。かわいい動物のマークのエンブレムやイラストが辺りに描かれていたが、長年放置された汚れと錆によって暗く不気味に仕上がっていた。当然入り口にあたる箇所も寂れており、本来なら客を迎えるはずの受付はぴしゃりと閉じている。だが入り口ゲートだけは開いていた。

 一同の前に立って芽川が説明を始める。


「今回の任務ですが……逆奈義家の方の推薦もありまして、魔女に囚われた人たちの救出作戦ですね」


「逆奈義家ですって?」


 燦央院が目を細くした。


――陸島さん。次回の任務ですがこちらで一つ推薦も可能です。グレート・ネストへの奇襲任務に参加するのであれば、ある程度の実力と実績は必要でしょう。いかがいたします?


 実はその日のうちにもう一回だけ陸島に再度、逆奈義肇から連絡があった。

 陸島はしばらく考えた後にこの任務への参加を希望した。


「それ、大丈夫ですの?」


「ええ。逆奈義家が魔女機関を通して他のクランの魔女に呼び掛けているみたいでもう少しすれば味方も増えるかと」


「ふむ……吉川、どう思います?」


「大丈夫でしょう。それに、魔女機関もこちらにウォーロックがいると知っているのであれば無下にはしませんよ」


 吉川の言葉に燦央院は納得した。

 芽川は説明を再開する。


「それで任務の方ですが、この動物園に組織の魔女とその兵隊が民間人を捕えて潜伏しているとの情報があって。皆さんにはこれを発見、もしくは討伐してほしいとの事です」


 その説明に違和感を覚えた陸島は彼女に視線を向ける。


「もしくは討伐……?どういう意味だ?」


「今回の相手ですが、どうやら手ごわい可能性があるようでして。救助後に撤退も視野に入れろとの事です」


「なるほど。怖かったら逃げろと言う事ですか」


「そう言う事です」


 陸島の嫌味ある物言いに芽川は毅然と返す。

 初日に見せた頼りなさはほとんど見えなかった。鴉田と外崎は心でその成長に感心する。


(おお。芽川さんしゃっきりとしてる)


(どこぞのちゃらんぽらんとは違うわね)


(え?誰よそれ?蛇島?)


(あんただよ)


 鴉田は不服そうな顔を浮かべる。


「それから、誘拐されて捕まっている者がいたら前回の任務のように保護をお願いしたいと木下さんから連絡を受けています」


「あれ?そういえば木下さんはどこに?」


 流山が周囲を見る。

 しかし学生一同と吉川、芽川に加えて竹月組の部下が二、三人いたが木下の姿は見えなかった。


「あいつなら別の任務に行ってる」


 答えたのは陸島。


「え?そんな話聞いてませんよ?」


「話してないからな」


「……殴っていいですか?」


「いいぜ。ウォーミングアップは大事だ」


 苛立つ流山の前で刀を引き抜く陸島。

 一触即発の状況に芽川が割り入る。


「やめてくださいよ二人とも!我々の任務はあくまで組織の魔女を倒すことで――」


 その時だった。

 園内から悲鳴が聞こえたのは。


「なんだ!?」


 陸島を始め一同が入り口の向こうを見る。

 シャッターが開いたままのゲートの向こうから何かが駆けてこちらを向っていた。


「あれは……?」


 陸島はじっと見やる。

 暗闇より姿が見えたのは二人の子供。同い年くらいの男女。


「うわああああん!」


 女子の方が陸島の方に飛び込む。

 泣きじゃくった顔を陸島に埋め込むように彼女は泣いていた。


「おい、どうした?」


 突然の出来事だったが、陸島は焦ることなく少女に声をかける。


「かいぶつ!!かいぶつがでたの!!」


「怪物?あっちからか?」


「うん。おにいちゃんと一緒に逃げ出したの」


 妹が兄を見る。

 兄もまた顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしていた。


「でも、ママがまだ……」


 陸島は視線を園内の方に向ける。

 意識を集中してみれば、確かにゲートの向こうに何かがいるような気配を感じた。


「はあ……わかった。ここにいろ」


 陸島は周囲にいた竹月組の部下に子供二人の保護を要請すると、一人園内に向かって走り出した。


「あ、ちょっと!!」


 芽川の制止も聞かず陸島の足は一番に駆けだしていた。その場の誰よりも速く園内へと突入する。


「陸島君待って!」


 相原が走りながら大声で陸島に待つように言ったがそんなことは彼の性格からして受け入れられるわけもない。


「お前は入り口で待機してろ!」


「絶対に嫌!」


 園内の入り口から最初の猿がいたであろうエリアに入る。

 左手にはさびれた人の手で作った猿山があり、当然そこには猿はいなかった。猿は。


「……なんだあれ」


 陸島は緩やかに足を止めた。

 彼に続いて相原も驚愕の表情で猿山を見た。


「グルルルル……!」


「……あれは、まさか」


 二人の視界にいたのは体は獅子、しっぽが蛇という普通じゃ考えられない生物、キメラ。

 猿山にいたそれは二人を見るとその獅子の瞳で睨みつけ、いきなり飛び掛かって来た。


「グアアアッ!!」


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