33-1 天使降臨
「あ、おはようございます皆さん」
夏の日差しが差し込む朝。
芽川が入った食堂には流山と鼠川が先に座って朝食を食べていた。
「おはようございます芽川さん!」
最初に元気よくあいさつしたのは流山。
彼女は芽川の姿を見た時、嬉しそうに笑っていた。
「おはようございます」
流山に続いて鼠川も挨拶をする。
芽川は受け取り口で朝食の乗ったお盆を貰うとそのまま流山の隣に座る。
「いやあ昨日は凄かったですよ!芽川さんあんなに強いだなんて!」
「え?でも……私、結局勝ててなくて――」
「いえいえ。それでも凄いですって!あのクソインケンに引き分けに持ち込んだだけでも十分ですよ!」
屈託のない笑顔で汚さ含む言葉を流山は口にする。
「そ、そうですかね……?私もつい勢いで申し込んじゃいましたけど。あの、陸島君は今どうしてます?」
「さあ?墓の下じゃないですかね?」
「流山さん怖いよ!」
カミソリのような言葉に鼠川は委縮する。
「私が目を覚ました時には宿舎の方にある医務室にいましたけど……。ひょっとして橘樹邸本館の医務室でまだ寝てます?」
「そうみたいです」
芽川の質問に答えたのは相原だった。
彼女も朝食を持ってテーブルに座る。
「黒田さんが言うには今日は一人にしてくれって言ってて……。機嫌悪そうでした。ああでも、もう一人で食事を終えて今は自分の部屋にいると思います」
「ざまあ」
しょんぼりとした相原の言葉に流山がぼやく。
「そう言う事言っちゃダメだよ」
相原は右手で流山の口をぎゅっとつまむ。
ほっぺを膨らませながら。
「ほおひてれふか?」
「どうしてじゃないの」
「いいひゃないれふかへふに」
その場に広がるのほほんとした雰囲気に芽川の顔が綻ぶ。
「いいですねえ。友達ってのは」
「ツバキちゃんはいつも陸島君のことになるとこうでして……」
「まあ……あの尖った性格じゃあ仕方ないですよ」
芽川はそう言いながら焼き鮭をほぐし、口に運ぶ。
焼きたての鮭は塩の加減が良く、芽川はそれににっこりと笑う。
「そういえば、陸島君に関して芽川さんは魔女機関から事前に何か聞かされていましたか?」
相原の質問に芽川は食事を止め、少し思い出してからこう述べた。
「そうですねえ。大地の魔術を使い、貴重な鉄の魔術を使うとは聞かされています。後、戦闘に関しても慣れているとの事で……。そうそう。鉄の精霊に憑かれていたって話もありました」
「精霊……」
鉄の精霊と言う言葉に相原はハッとなる。
「でも、決闘して私が見た限りではそのような存在は認識できなかったというか……。精霊に憑かれている人ならばもっと凄いことできそうですけどね」
「凄い事……というと?」
凄い事。
自分で言っておきながら、芽川は言葉を詰まらせてしまう。
「そりゃあアレでしょ。ビームとか」
「うげ。アホの鴉田登場ですか」
「そんなこと言わないでよちびっこくのいちちゃん」
「よし。食事が終わったらお前をぶちのめします」
鴉田がテーブルについた。
その近くには外崎もおり、風の魔術を使う二人に芽川は挨拶をする。
「二人とも、おはようございます」
「おはようございます。いやあ今日も眼鏡が良くお似合いで」
「そ、そうですか……?」
照れる芽川の近くで外崎がまたかという顔を浮かべる。
鴉田はそれに気づく。
「おおっと。しょんぼりしなくても外崎さんも綺麗だぜ?」
「死にたい?」
「すみません」
あほらしいやり取りに芽川は吹き出さずにはいられなかった。
「まったく。貴様と言うやつは」
さらにさらに蛇島が登場。
「もうちょっと静かにお食事できませんの?」
燦央院も登場。
「やーすまん。男眼鏡より美人の眼鏡。そういうもんだろ?鼠川」
「ええ!?」
思わぬキラーパスに鼠川はたじろぐ。
その隣で流山が怖い目つきで鼠川を見ていた。
「何その目!?怖!!」
「さー。返答次第じゃどうしようかなーって」
にじるよる流山の瞳に鼠川は後ろに下がりだす。
周囲のその様子に芽川は微笑む。
「……いいですね」
「え?」
「いや、青春しているなって思って。私の時はウォーロックなんていなかったから、男子はいなかったんです」
「……そーですかね?」
宙に浮く鴉田を見上げながら流山は疑問に思った。
またコイツは失言かましたのかと。
(というか前にもこんなことあったよーな)
「ああ……それに比べて私は」
突然うなだれる芽川に流山はぎょっとする。
「ど、どーしたんです!?」
「……なんでもないです。忘れてください。男って本当は……ぐすん」
負のオーラ満ちる彼女の周囲。
そこに彼は来る。
「あ、おはようございます皆さん!!」
ジャージ姿にて登場、橘樹隼人。
いつものように彼は数人前の食事をその手に持つお盆に乗っけていた。
「ふえ!?な、なんですそれ!?」
芽川の負のオーラは隼人スペシャルこと、超大盛メニューにて消し飛ばされていく。
「ああ、そういえば芽川さんは初めて見ますよね……アレ」
いつの間にか食事を終えていた流山は遠い目でお茶を啜っていた。
「皆さん……あれ?義兄さんは?」
「陸島君、食堂の人の話だともう食べちゃったみたい」
隼人の問いに暗い表情で相原がそう伝える。
「義兄さんはいつも通りでしたか」
「に……義兄さんって?」
「えーっとですね」
困惑する芽川に流山が橘樹隼人について説明する。
説明を聞き終えたとき、彼女は何度か隼人を見てぼやく。
「超中学生ってことですか?」
「それであってます。というか人かすら怪しいです」
「そ、そこまで言いますか……?!」
明らかに中学生どころか大人を優に超えた肉体に一同は視線を固定する。
「あれ?そういえば隼人君は陸島君と一緒じゃないの?」
「え?ああ、自分は鍛錬の前に夏休みの宿題をやらないといけなくて――」
「「夏休みの宿題!?」」
思わぬ単語に一同は驚く。
繰り返しになりますが、橘樹隼人は中学二年生です。
「ええ。ドリルはもう少しなんですが、レポート課題と図画工作がそれぞれ残ってまして」
「へ、へえ。ちなみにレポートって?」
「ああ、やはり……伊達政宗について調べようかと」
「伊達政宗!?」
伊達政宗。
知ってる人も多いが戦国時代にいた武将の一人で、独眼竜などの異名を持っていたりする。
「というかそれレポート課題になるんですか?」
流山は目を細める。
「担任の先生が戦国時代好きみたいで……。なんか昔そういう、戦国時代をテーマにしたゲームにはまってたとか」
「げ、ゲームって……」
「ええ。でも決まってそのゲームの話をすると、だいたい遠い目をするんですよね。あの作品がもう二十年前なのかと。それはもう哀愁がありました」
「……時の流れと言うやつですかね」
お茶を飲み終えて、流山は外を見る。
今日は快晴だった。
「ふむ……やはり進展はそう簡単には進んでいないか」
一方、先に食事を終えていた陸島は自室にてこれまで送られてきた母親に関する資料を眺めていた。
さらに母親に関する資料を逆奈義肇から受け取った後に、逆奈義肇には依頼をしていた。依頼していた者は二つ。母親に関する情報と仮面の魔術師に関する資料である。
(一か月経過した訳じゃない。そう簡単に貰えるわけが――)
資料とにらめっこしていると、机の隅に置いたスマートフォンが震えだす。
何かと思って確認してみれば、逆奈義肇からの電話だった。
「……もしもし?」
「お疲れ様です。逆奈義です」
「お疲れ様です。ご用件をどうぞ」
淡々と陸島は電話の応対を始める。
「ええ。その前に……任務の方はどうですか?滞りなく進んでいますか?」
「……怪我無くやれてますよ」
「それは良いことです」
「なんです?一体」
「ええ。実はある情報を入手したのですが……」
「何の情報です?」
逆奈義のある情報と言う言葉に陸島の声は低くなる。
「仮面の魔術師についてですが……どうやらグレート・ネストにも姿を見せるようですよ」
「グレート・ネスト?それって確か……」
「ええ。組織が持つ隠れ家の中でもひときわ大きな隠れ家ですね」
グレート・ネスト。
陸島が吉川に聞いた話によれば、そこは組織の魔女や兵隊が集う隠れ家。その規模は最大で、上位の魔女も多数在籍しているのだという。
「陸島さん。グレート・ネスト奇襲任務を受けたいですか?」
「奇襲任務?」
「ええ。悪党どもを一網打尽にする最大の作戦ですよ。近々あるようです……」




