32-3
「それでは……はじめい!」
龍弦の合図と同時に最初に動いたのは陸島。
(速い!)
芽川はその速さに構える。
陸島は抜刀した刀を構え、睨んだ瞳でそのまま勢いよく距離を詰める。
(だけど、私だって!!)
俊敏に動く陸島のスピードに芽川の体は自然と構えていた。
握りしめた杖を陸島に向け、彼女は魔術を解き放つ。
「えいっ!!」
杖の先端から光が溢れる。
同時に彼女の周囲の地面が杖の光に呼応して脈動を始める。
「なんだ?」
陸島はすぐに止まり距離をとる。
危険を察知していた。それは当たっていた。次の瞬間には芽川の周囲に異変が起きる。
「こいつは……!?」
陸島は目を見開く。
芽川の周囲に溢れ出たのはまるで命の宿った茶色の泥のうねり。一本の太い根っこ、あるいは複数の線のように様々な形をとり、波打つそれらは芽川を囲って彼女を守る守護者となる。
「これが私の魔術です!」
「ああ、泥んこ遊びか!ガキみてぇだな!!」
「そう思ってると痛い目見ますよ!」
陸島の煽りに負けん気を示さんと芽川は泥の勢いを強める。
彼女の周囲を巡る泥はさらに回転を増し、太さを増し、そして広がっていく。
(なんだ……?何する気だ?)
陸島が警戒する次の瞬間、彼の正面へ高速で何かが飛んできた。
気づいた瞬間、即座に横に飛んで回避する。
(今のは……?)
芽川の周囲を巡る泥のうねりが攻撃を仕掛けた。
蛇のように蠢くそれは自身の体の一部を射出し、弾丸のように放ったのだ。
(こいつは……思ったより厄介だな)
更に放たれる泥の弾丸を回避、加えて大地の壁を展開しつつ防御を行いながら陸島は分析を始める。
(成程。攻撃は今の泥の弾丸。防御は既に周囲に展開しているあの蛇のようにうねる泥で行う。おまけにアイツの足元……半径数メートルは泥に覆われてる。下手に近づけば死ぬな)
生成した壁の後ろで陸島は刀を一度収め、十手を手に取る。
(さて……どうやって攻撃をしかける?あの泥の魔術をどうやってかいくぐるか。やはり遠距離攻撃か?となると、弓か)
十手に魔力を込め、弓の用具一式を生み出し慣れた手つきで作成する。
後ろに魔力の流れを陸島は感じ取る。
(何?)
泥の蛇とでもいうべきだろう。
陸島の後方に静かに忍び寄っていたそれは、噛みつくように襲い掛かる。
「おおっと!」
作った弓を離さず陸島は攻撃をよける。
壁の範囲から、体ははみ出していた。
「そこ!」
泥のうねりは蛇の形を取り、頭に当たる個所から横に裂ける。
それはまるで蛇が獲物を喰らうような大口を形成した。
「いけえっ!!」
その大口より放たれるのは圧縮された水。
獲物を射ぬかんとするレーザーのごとき勢いで陸島に迫る。
「当たるかよ!!」
陸島はこれを回避。
水流によって地面が抉れる。だがそれで終わりではなかった。
「もらった!」
芽川の狙いはそこだった。
回避した陸島のポイントに既に攻撃は、泥の弾丸は放たれていた。
「なにっ!?」
命中する複数の弾丸は陸島の体に衝撃を与え、彼を吹き飛ばす。
転がる陸島のその手から弓は落ちる。
「どうです!?二属性同時攻撃。思ったより効くでしょ!」
芽川のガッツポーズに周囲はおおと声を上げた。
「凄いです!芽川さん!!二属性同時に操れるなんて!!」
流山は目を光らせて芽川を褒めた。
「そしてざまーみろですインケン!」
地面に転がる陸島を見て流山は下種な笑みを浮かべる。
「ツバキちゃん!女の子がそういう顔しちゃまずいよ……」
「ええー?でもアイツが負けそうなんですよ?」
「まあまあ。流山さんおちついて」
流山の態度に鼠川が注意する。
(それにしても……二属性同時ってそんなに凄いのかな?)
時は決闘から少し前に戻る。
「え?芽川さん二属性を同時に扱えるんですか!?」
目を見開いて吉川は驚愕の表情を浮かべた。
芽川と学生一同、そして吉川は橘樹邸の会議室にいた。
「は、はい。大地の魔術と水の魔術を扱えます。それを混ぜて戦うこともできます。というかそれが基本ですが……」
「凄いというか、珍しいですね……」
「あの、ちょっといいですか?」
二人の会話の合間に鼠川が入る。
「二属性の魔術を使えるってそんなに凄いんですか?」
「ええ、まあ。単純に手札が二倍になりますし、内容によってはとんでもない戦闘力を秘めてることになります。それにさっきも言いましたが結構、珍しいんですよ」
吉川は少し興奮気味に説明する。
「それで……戦いの方はどのくらい経験があります?」
「あ、実は……模擬戦が殆どで。魔女機関の直属で、しかも裏方が基本ですからあまり表で戦いはしないんです」
「それでどうなんです?どのくらい戦いを積んでます?」
「うーん……同じ魔女機関の魔女相手に月一回とかですね」
「それならば勝機はあります。相手はウォーロックという慣れない相手ですが、情報さえ積んでいればまだケアもしやすいはずです」
「情報ですか?」
芽川は学生の方をふと見る。
最初にその中で声を上げたのは流山だった。
「ハイ!まずあいつは戦いが姑息です!」
「こ……姑息って?」
「えーっとですね。まず刀を持ってます。それでチンパンジーみたいに叫びます」
「……猿叫ですね。要するに――」
流山の説明を鼠川が補足し、さらに追加で説明をする。
「な、なるほど。刀と魔術による戦闘を得意とするわけですね?」
「そのとーりです!おまけに男だから割と乱暴です!」
「流山さん、それは偏見だよ……」
流山の曲がった説明に鼠川は少々引いていた。
「わたくしからもよろしいでしょうか?」
次に手を挙げたのは燦央院。
彼女が陸島の戦い方について説明する。
「大地の魔術を学んでいるのであればご存じでしょうが……肉体の強化に加え、蔦による拘束がっ厄介ですわ。肉弾戦もさることながら、魔術の腕も……というよりは戦い慣れているのです」
「ああ、僕もそう思うよ」
燦央院の意見に蛇島が同意する。
「以前、彼と模擬戦を行いまして……。容赦なく攻めてきましたよ。視線誘導に多種多彩な戦い方。おまけにそれができる体力と魔力。油断はできません」
「えーっと……ひとまず、まとめるとですね――」
芽川は生徒たちからの意見をホワイトボードにまとめる。
そして以下の内容が書き出された。
――使用魔術:大地の魔術
――戦闘スタイル:刀による近接戦と大地の魔術による遠距離攻撃
――対策:あるとすれば攻撃の後。大振りや魔術の後に仕掛けるか、こちらから油断を誘って狙う
――備考:鉄の魔術に注意
「鉄の……魔術」
ボードに書かれた最後の文字に相原は気づく。
「ええ。私も資料を見たのですが、陸島君が使う鉄の魔術については詳しいことは載っていないのです。過去の資料に乗っている方の鉄の魔術なら知っているのですが……どう違うのか?振るわれたとしたら?そのあたりが読めないのです」
芽川は持っていたペンをそっとボード下に置き、考え込む。
そこに外崎が口を開いた。
「対象の精神に干渉するのはあると思いますよ」
「え?精神?」
外崎の意見に芽川が首をかしげる。
外崎はそのまま自分の意見を続けて述べる。
「とどのつまりは精神攻撃ですよ。湾岸倉庫での任務で直に見たんですが……あれは食らった相手に何か良くない影響を与えて……ええ、相手が苦しんでいたのは間違いありません。過去の文献によれば、鉄の魔術ってのは使用者の精神を蝕む症状を与える。だけど陸島が使う場合、それを他人に向けて放てる。食らい方次第じゃ危険かもしれません」
「精神攻撃ですか……。思ったより厄介ですね」
外崎の意見を耳にした芽川は面倒臭いものを見たかのように顔を歪めた。
続いて鴉田が芽川に対し、口を開く。
「はいはい!ってことは鉄の魔術本来の鉄の生成はできなくなったんですか?俺も鉄の魔術について調べたけど、そっちはどうなんですか?」
「うーん……どうでしょう。これまでの任務からそうした記録は届いてませんね」




