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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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202/212

32-1 魔術機関からの使者

「ごはん、おいしい?」


「うん!」


 いつかのうららかな晴れた日。

 暖かな日の差し込むお家にて、小さな子供とその母親が楽しそうに食事をしていた。


「いっぱい食べて大きくなってね。そうそう――」


 母親が何かを言いかけた。

 子供はそれをよく聞き取れなかった。


「いつかはお母さんだけじゃなくていろんな人の支えになってね。それが私のお願いだから」


「わかった!そうする!!」


 何かを言いかけた合間に母親は子供に願いを伝えた。

 子供は元気に答える。母親はその勢いのある元気な答えに微笑を隠せずにいた。







「……ん?」


 陸島はふと体を起こす。

 辺りを見渡すと自分の部屋。部屋の時計が示す時刻は朝の四時。


(なんだ?今の夢?最近母について調べたからそういう夢を見るようになったとかか?)


 博物館での任務から一日が経過した。

 体をベッドから降りて陸島は着替えだす。ジャージに着替え、外の天気を見る。まだ日が差し込めた朝焼けの空が見えた。


「……まあいいか。走るとしよう」


 部屋に設置された鏡を見て、自分の血色の良い顔を確認すると陸島は外に出た。

 いつも通りの日課で一日を始める。そしてそのまま時刻は昼を過ぎる。


「新人のサポーター?」


「はい。明日の午後に来られます」


 陸島は橘樹邸の食堂で昼食を取りつつ、木下から新しい来訪者の情報を聞かされていた。


「どういう人だ?魔女か?」


「ええ。魔女です。詳しい経歴は今度お話しますが……何か気になることでも?」


「急じゃないか?そんな話今日聞いたぞ」


「ええ。どうやら最近の皆さんの働きが良かったこともあってか、魔女機関から一名サポーターを送ると言ってきたんです。親父さんはこれを了承してます」


「……疑ってないのか?あの親父が?」


 陸島はざる蕎麦を食う手を止める。


「勿論話自体は前からあったようで、親父さんも機関と色々話をしたようです。吉川さんも話に立ち会ってたようですよ」


「ふむ……」


 考え込む中で、またざる蕎麦を食べながら陸島は木下からの話を聞く。


「もし不安でしたら、数日いてもらった後に帰ってもらうようにしておきますが?」


「基本はそれで頼む。魔女機関……どうにも胡散臭いんだよ」


「といいますと?」


 木下の目が光る。

 陸島は魔女機関について語る。


「以前俺が入院した時、魔女機関の連中は検査で色々と魔術道具で俺を調べただろ?結局は何もなかったが、その時の連中の態度は覚えてる。圧があったのがな」


「なるほど。確かにお上の連中はこぞってそういうものですが……やはり鉄明さんが珍しかったのでしょうかね。ウォーロックが」


「ああ、違いない。親父にもそう言っといてくれ」


「勿論です」


 黙々と進むランチミーティングの時間は過ぎていく。

 そして次の日の午後のその時間。一人の魔女が来訪する。


「ええっと……皆さん始めまして」


 橘樹邸の会議室に集った学生一行と龍弦、木下。

 彼らの正面には一人の女性が立っていた。


「本日からこちらでお仕事のお手伝いをします、芽川博恵めかわひろえと言います。よろしくお願いします」


 芽川はぺこりと頭を下げた。

 容姿はふんわりとした茶髪の髪を伸ばしており、青空のようなノースリーブのシャツに白のロングスカートを着用した若い女性。顔立ちは整った顔に眼鏡を掛けており、どこかおっとりとした雰囲気を醸し出している。


(ほう。おっとり系お姉さんですか。加えてスタイルも良い)


 鴉田の言う事はもっともであった。

 細い腰つきにすらっとした手足。胸元も同世代の女性から見れば成長している方でそれは鴉田から見て明白だった。


「あの……。そこの生徒の方?どうかしましたか?」


「いえ、お気になさらず」


 鴉田の熱意(?)ある視線に気づいたのか芽川は彼を困惑した目で見た。


「おじいさんから何も話がなかったので、いきなり来たものですからちょっと驚いてるだけですよ」


「な、なるほど……?」


 芽川はとりあえず納得した。


――そんなわけない


 外崎は鴉田の卑しい視線に気づいていた。


「ああうむ。確かに突然じゃったな」


 微笑みながら龍弦は答える。


「魔女機関が君たちの活躍を見て支援係をよこしてくれたのじゃよ」


「へえ、こちらの意思を確認せずにか?」


 棘のある物言いで陸島が龍弦にかみつく。

 クーラーとは違う冷やし方で周囲の空気が冷え込む。


「え、ええっと……?」


 冷やされた空気の中で、芽川はあたふたしながら周囲の顔を見る。


「こほん。気にしなくていいですよ。そこのインケンの言う事なんて」


「あ?」


 流山の言葉に陸島は青筋を浮かべる。


「まあ待て。儂も説明するのが遅れた。それは悪かった。じゃがこちらも来る者の精査をする必要があっての」


「それで……何をしに来たんです?」


 棘のある物言い、ぎらつく視線。

 その二つが芽川を射抜く。


「え、ええっとですね。私は……魔女機関から皆さんを支えてほしいとご指示がありまして、それで今日からしばらくお世話になります」


 早口気味にぎこちない言い方は陸島の視線をさらに細めた。

 かかるプレッシャーに芽川は思わず委縮する。


「あ、あの!」


 声を上げたのは相原だった。


「ひょっとしてこれからの戦いとか任務とかを支えてくれるという事でしょうか?」


「え、ええ。そうです。吉川さんのように前線で戦うのではなく、後方での支援が主ですが……何分これからの戦いに回復などの支援はあった方が良いかと思いまして!」


 ぎこちなさに高い声が混じる。

 陸島は姿勢を変えずにいる。


「いつまでそうしているんですか?鉄明さん」


 やれやれと声を上げたのは木下。

 陸島の疑り深い態度に呆れたようだ。


「魔女機関だぞ?親父が目を凝らしたとはいえ、もうちっとだな――」


「ああもう鉄明、わかったから!」


 龍弦は慌てながら鉄明の疑念を晴らそうとする。

 だって、芽川が泣きかけてたもん。


「うう……ぐすん」


 落ちた雫に鴉田が反応する。


「先生ー!陸島君が芽川さん泣かせましたー!」


「インケンこのやろー!!」


 流山の飛び蹴りを交わし、陸島は流山の頭を目いっぱいの力で掴む。


「あのな。こっちは一度わけわからん検査だの刺客を送られてんだよ。疑って何が悪い!」


「あだだ……し、刺客ってあだだだだ!!」


「やめて陸島君!」


 陸島と流山の合間に相原が急ぎ割り入る。

 へこんだ頭を押さえながら流山は苦しんでいる。


「気持ちはわかるけど……その、いつまでもそういうわけにはいかないから」


「ああわかったよ好きにしろ」


 陸島は席を立ちあがって会議室を出ようとする。

 そのときだった。


「わかりました」


 涙をぬぐいながら芽川が陸島の前に立つ。


「陸島さん。今日この後、時間ありますか?」


「何ですか一体?」


「魔女決闘を申し込みます」


 魔女決闘の申請。

 芽川のその言葉に、一同はどよめく。

 魔女決闘。それは古来より魔女同士が戦いによって何かを決断したり奪い合ったり、あるいは自分の実力を証明するという単純な目的を果たすために行われるものである。


「勝ったらしばらくここにいさせてください」


「負けたら?」


「……ここを去ります」


「ちょ、ちょっと待つんじゃ!」


 とんとん拍子に進む会話に龍弦が慌てふためいて割り込む。


「芽川さん。いくら何でもそこまでしなくても。第一、お前さんは別に魔女機関に深く忠義を誓っているわけではないじゃろ?」


「そうですけど……頼りないと思われるくらいならここでしっかり実力を皆さんに示すべきだと思うんです!」


 迷いなき彼女の回答に龍弦はどうしたもんかと困惑を深める。


「わかりました。いつにします?」


 陸島は決闘を了承した。


「……一時間後で。場所は確か、修練場があると聞いてますが」


「ありますよ」


 芽川の声に木下が答える。


「ここから少し離れた場所に魔女に開いている修練場があります。そこで戦っていただくのが良いでしょう」


「木下、お前……」


 龍弦は木下の対応に驚きを隠せなかった。

 まさか、決闘に賛成するとは思っていなかったのだ。


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