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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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201/211

31-7

「それにしても強いね君!お姉さん驚いちゃったよ!」


 妖しい笑みを浮かべて、久遠はそっと蛇島の顎に触れる。


――冷たい。恐ろしく


 顎に触れた久遠の手。

 それはまるで凍える冬の雪に触れたかのような感触。すべすべの指先が優しく丁寧に蛇島の顎から頬に上がる。


「ねえ。ウチに来ない?歓迎するわよ」


「離れなさい!!」


 久遠の言葉を遮るように燦央院が迫り、ハルベルトを勢いよく振り下ろす。

 久遠はひらりと体を動かし、ハルベルトは床を勢い良く叩き割った。


「アハハ!そんなんじゃ当たらないよ!!」


「なんて身軽な……」


 燦央院たちを嘲る久遠は楽しそうに口を開く。


「で、どうする?ここで死ぬ?」


 久遠の口からその言葉が出た時、蛇島は冷たい感触を全身で感じた。

 彼女の目もまた、冷たい色を宿していた。


(なんだ……今のは!?凄く嫌な感じだ……!凍り付くとかそういう……。だが――)


 足が震える中、蛇島は前に出る。


「断る!」


 先ほどの戦いのときと同じように、全身に力を、魔力の流れを流し込む。


「お前たちに屈する気はない!!たとえそれが――」


 びりっ。


「え?」


「え?」


 蛇島と久遠は固まった。

 その音は……なんと蛇島の衣服が裂ける音だったのだ!!


「……クク。アッハッハッハ!!面白いよ君!!」


「イヤアアアァッ!!」


 腹を抱えて笑う久遠。

 顔を真っ赤にして両手で抑える燦央院。

 茫然として立ち尽くす全裸の男。

 そして薙刀を構えて一直線に走る吉川。


「え?ちょマ――」


 吉川の表情は岩のように固く、ただ相手を斬る意思以外、何も見せずにいた。

 振り下ろされる連撃を久遠は必死に避けながら、態勢を直そうとする。


「まって、まって!そんなんで死にたくない!」


「お黙りなさい」


 真剣に敵を捉えた瞳で吉川は薙刀を振りまわし続ける。

 焦る久遠もその間、周囲を見渡していた。


「あーもう!」


 回避の中で久遠は勢いよく飛び、同時に周囲に魔法を解き放った。


「これは!?」


 吉川が焦りを覚える。

 尋常でない自然の物ではない冷気が辺りを包もうとしていた。


「とーう!!」


 久遠はジャンプした勢いでホールの上にある窓に水の魔術を放ち、その窓を破る。


「いやあ今日は面倒になっちゃったから見逃してあげるよ。そこのウォーロ……ハハハハ!!だめだもう!!じゃあね!グレート・ネストで待ってるよー!!」


 久遠はそう言って笑いながら去っていった。

 燦央院達のいた周囲にはいまだ冷気が立ち込めていた。


「お嬢様!!」


「わかってますわ!」


 吉川が薙刀を、燦央院がハルベルトを床にそれぞれ突き立てる。

 直後、二人を中心に炎が舞う。周囲の冷気を振り払わんとするが為に。


「ふう。まさか冷気を使うとは」


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「ええ。吉川のおかげで」


 周囲の冷たさが振り払われ、炎もまた虚空に消えた。


「なんだったんだ?今のは……!?」


 先ほどの来訪者と一連の行動を不可解に蛇島は思い返していた。

 全裸で。


「貴方は服を着なさいな!!」


「いやそうは言われても……その」


 赤面を浮かべる燦央院にどうしたらいいのかわからない蛇島。

 予備の服など持ってきているわけがないのだ。


「あーもう!吉川!!」


「はいただいま」


 そっぽを向きつつ、真っ赤な顔で燦央院は吉川に指示をする。

 すると吉川は両手でボールを持つ動作を見せる。


「あの……なにを?」


 全裸で困惑する蛇島が彼女の両手の間を気にして見ていると、次の瞬間にはそこにスリットが生まれ、そこに外崎は手を伸ばす。するとそこから学ラン一式が取り出される。


「こんなこともあろうかと、予備の制服をお持ちしました」


「え!?これは一体……!?」


「……吉川のドグマですわ。物を亜空間に仕舞う魔術。色々隠し持てるんですのよ」


 蛇島に背中を見せつつ、耳の赤い燦央院は説明した。

 吉川のドグマ。それはある程度の物なら自分の持つドグマで亜空間に仕舞うことができるのだ。


「凄いな……ドグマってこんなこともできるのか」


 制服を受け取りながら蛇島は彼女のドグマに感心する。


「はい。先ほど薙刀を出したのもこの魔術のおかげです」


「便利な魔術をお持ちで――」


 受け取った服を確認したとき、なぜかそこには白のブリーフが。


「……本当にすみません」


「あら?ブリーフ派ではないんでしたっけ?」


「お構いなく!」


 その後、急いで蛇島は着替える。

 慌てて着替える彼を見て、吉川は考え込む。


(それにしても蛇島さん……。魔力の勢いで服が全て破けるとは……。これはもしかしたら、とんでもない切り札になるやもしれませんわね)







 しばらくして、博物館の外。

 蛇島達は館内の確認をしてから外に出た。


「おっ、ドレッサー・ドレッドに全裸を晒した蛇島さんじゃないっすか!!」


 鴉田の煽り。

 蛇島のグー。


「なんで!!お前は!!そういつもいつも!!」


「あの……治すの僕なんだけど……」


 殴りすぎて変形する鴉田の横にふらふらと鼠川が姿を見せる。


「ああ、すまない。ここに埋めていくから大丈夫だ」


「よくないよ!?」


「あー、いいんじゃない?」


 肯定したのは外崎。

 相も変わらず鴉田に呆れた声を上げる。


「はあ……まったくこいつは。ところで、陸島は?」


「陸島君ならあっちの車にいるよ。負傷した竹月組の人達に話を聞いてるみたい」


「そうか……」


 蛇島が聞いたタイミングで駐車場に数台の車が到来する。

 一台は救急車両でそれが来たと同時に、陸島の乗っていた車から二名の負傷者がその車に運び込まれる。先ほど館内で助けられた二名だった。一名は男性で歩きながらで、もう一名は女性で簡易ベッドに寝たままで。


「そうか……なら話は今度でいい。とにかく治せ」


「すみません、鉄明さん。恩に着ます!」


 男性の負傷者がお辞儀をしながら車に乗る。

 そのまま車は急ぎ先に出た。


「何か聞けたのか?」


 蛇島は車を見送っていた陸島に問う。


「さあな。グレート・ネストがどうこう言っていたが」


「グレート・ネスト……」


 蛇島はその言葉に聞き覚えがあった。


――じゃあね!グレート・ネストで待ってるよー!!


「それ、あの魔女が言っていたな……。どこだ?」


「グレート・ネストは組織の魔女の拠点の一つです」


 そう伝えたのは吉川。

 表情は怪訝そうであった。


「数ある組織の魔女の拠点。その中でとりわけ大きな拠点です。恐らくですが……あの二人は敵から何か情報を得たのかもしれません」


「ふむ……拠点ですか」


 しばらく考え込む陸島。

 グレート・ネスト、組織の魔女の拠点。悪意ある者達の住処。


「……仮面の魔術師か?それとも何か危険な情報でも掴んだか?」


「場所かもしれませんね。グレート・ネストは魔女機関にもその詳細が掴めておらず、本土のどこかにあると言われています。随分前からあるわけではないので……まあ今はあの人たちの回復を待ちましょう」


 吉川の意見に陸島は従うしかなかった。

 外の月は怪しく輝いているばかりで、雲が覆ってもその光は見えているようだった。


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