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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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20/102

3-5

「また貴方たちですか」


 『はぁ』とため息を吐いて流山は彼女たちを呆れた目で見る。


「何がまた貴方たちよ。パートナーだか何だか知らないけど随分調子に乗っているわね」


「貴方たちもガムの一件から随分成長しているようで」


「こいつ……!」


――すごく……帰りたいです


 この場の雰囲気に終始、嫌気を覚えるようになる鼠川。

 上田、中本、下村の三人組は流山の呆れる表情に怒りを覚える。


「ねえ鼠川君、この女どう思う?」


 声をかけてきたのは上田。


「どうって……何か問題あるの?」


「あるわよ。コイツ、陰険で相原のそばにべったりで……おまけに忍者の家系なのか何なのか知らんけど私らのリーダー気取りで……。気に食わないのよ」


「そうそう。真面目でいい子ぶってキモイのよ」


――きもい?真面目で?


 彼女たちトリオの感覚というのが鼠川には理解できなかった。


「ねえ……こっちにつかない? そんな真面目チビなんざほっといてさ」


 気だるげに下村が鼠川に話しかける。


「女装とかはごめんだよ」


「え? ダメ?」


「下村、貴方は黙ってて。ねえ、こっちにつく気はない? 上田と下村だけじゃないわ。私の周囲にはそれなりに強い魔女がいるわよ?」


「こっち……? さっきから何の話なの?」


「派閥……というかクランですね」


 流山が鼠川の疑問に答える。


「魔女というのはクランとかギルドとか派閥を作ってるんです。各々の目的を達成するために。例えば魔術のさらなる向上とか。彼女たちも家系の都合でもう殆どクランにいるようなもんなんです。彼女たちのクランは自分の持つ魔法の技術で組織の魔女の討伐をするのが主な目的なんですが……まあ問題ありまくりですね」


「問題? さっきの話に出ていた逆奈義家とか?」


 ポツリと出たその単語にその場にいた鼠川以外が表情を険しくした。


「あれはもっとやばいですよ。下手にしゃべっちゃダメです」


「逆奈義家は今はいいでしょ。で、鼠川君どうする?」


「どうするって……急に言われても」


 困惑する鼠川に流山が答える。


「やめた方がいいですよ。彼女たちのグループ、『青釜』っていうんですがね。こないだ機関からのお金を水増しで要求してたんですよ。あと組織との戦いで討伐した敵の報奨金を一部、上層部がピンハネしてたんですよねー」


「お前ベラベラしゃべってんじゃねーよ! ぶっとばすぞ!!」


 キレる上田に流山は溜息を吐く。


「あら? 別に鼠川君には悪い話じゃないでしょう? これからの自分の事を考えるというのは。何も知らないで飛び込んで馬鹿を見るのは貴方たちにとっても嫌でしょ? なにより彼だって組織との戦いに身を投じるというわけじゃない。機関補助部隊として表向きは公務員としてこの国で働くかもしれないじゃないですか。鼠川君、貴方はどうしたいです?」


「そ……それは……」


 自分の将来。


 学生なら誰もが抱える悩みや目標。というにはとてもあやふやな存在。


「ああ、今すぐでなくてもいいですよ。さ、帰りましょ」


「待ちなさいよ」


 その場から離れようとする鼠川と流山を止めるのは中本。


「なんです?」


「いらんことしゃべりやがって……」


 いつの間にか中本の手には杖が握られていた。

 握る手には必要以上に力が籠っており、そして勢いよくそれは振るわれる。


「えいっ!」


「はあっ!」


「そいっ!」


 中本に続いて上田、下村も振るうと周囲に水が巻き起こり、水流の槍が群れをなして加速して流山を狙う。


「これでどうだ!!」


「はあ……」


 杖を握っていたのは三人だけじゃなかった。


「どーしてこれで勝てるって思うんですか?」


 流山も構えて杖を振るう……その前に彼女は鼠川の前から姿を消した。

 一斉に向かった攻撃は道の向こう側に消える。


「え?! あれ!?」


 周囲を見渡すが彼女の姿はない。


「こっちですよ」


 その場にいた全員が上を見た。

 月明りを背景に舞う少女は杖を三人に向ける。


(嘘……飛んでる!?)


 鼠川があっけに取られていた。彼女は攻撃の瞬間、勢いよく上に飛んだ。

 杖を振るう刹那、ひざを曲げてそのまま跳び上がったのである。


「それじゃあこれで」


 杖から振るわれて生まれた蛇のごとき水流が三本生まれ、勢いよく三人に命中した。


「きゃあっ!!」


 勢いのある水流が直撃し、彼女たちは後ろに吹き飛ばされる。

 地面に難なくついた彼女は膝を折る中本達に杖を向けた。冷たい表情で。


「確かに貴方たちの言う通り、私は小さいし世間知らずなところも子供っぽいところもあるかもしれません」


(そんなこと言ってたっけ……?)


 鼠川の疑問はもっともである。


「だけど、そこがどういう場所か知っているのに彼を渡すとでも?」


 流山は杖をしまう。

 そして両手を合わせる。


「悪いけど鼠川君は渡しません。帰ってください」


「な……なんだとぉ!?」


(うわぁ。僕ってばヒロインになってるなあ……)


 怒りに満ちた目で流山を睨む中本。

 一方、鼠川が遠い目で今の状況を振り返る。


「調子に乗りやがって!!」


 中本は杖を流山に向ける。

 すると今度は水流ではなく、彼女の周囲にはいくつものビー玉サイズの水の球が浮かぶ。

 魔力の影響か、それらは淡く光っていた。


「ほう。それで?」


「くらえっ!!」


 水の球の群れはまるで弾丸のように射出された。


「圧縮された水流弾だ! 全部避けられるものなら避けてみな!!」


 数にして十数発。

 それらは流山の方にまっすぐに向かうのだが――


「馬鹿の一つ覚えとはよくいったもんです」


「は?」


 先ほどの水流とほとんど同じだと彼女は言いたかったのだろう。

 流山はまた勢いよく飛んで避けて見せた。


「早ければ当たるとでも?」


「ああ! くそ!! そんな簡単によけやがって!!」


 弾丸の群れは道路の向こうに飛んでいく。


(……確かに)


 魔女たちの戦いを観客のように見ていた鼠川は首を縦に振った。

 水流による攻撃も、水の弾丸による攻撃も本質的には似てるものがある。

 ただ真っすぐに向かって攻撃を仕掛ける。それだけなのだ。


(でもそれをひょいひょいと避けられる流山さんって何者? 忍者というのはわかる。でもそれにしても身体能力といい魔法の実力といい……これに早々勝てる人なんて――)


「おいこら」


「え?」


 鼠川が考え込んでいると、彼女たちの戦いに向かってくる人影が一つ。


「あ……お前は?」


「ゲーッ!! なんでここにいるんです?!」


 陸島鉄明。先日の決闘にて流山椿の顔に泥を塗った男。

 その表情は青筋を浮かべ、今にも爆発しそうな雰囲気であった。

 顔は水に濡れ、その手にはぐっしょりと濡れた紙袋が一つ提げられている。


「あ……やばくね?」


 上田は怒り心頭の彼を見て冷や汗を流しながら、中本を見る。

 中本は彼に臆することなく話を始める。


「ああ、陸島君? 今取り込んでて――」


 だがこれがいけなかった。一気に詰め寄った陸島に強烈な拳を顔面に叩きこまれる。

 中本は言葉を誤った。そして先ほどの流山よりも遠くに、そして荒々しく吹き飛ばされて地面に転がる。


「が……あぁ」


「う……」


 鼠川は思わず口を覆った。

 先ほどまでその整った顔立ちは一発の拳で完全に崩れ、鼻からはボタボタと血を流しているではないか。


「先にごめんなさいだろうがゴラァ!!」


「ヒィィッ!!」


 鬼のような表情で怒声を上げた陸島を見て上田と下村は一目散にその場から慌てて逃げ出す。

 陸島はその場にうずくまる中本に近寄ると蹴りをかまそうとした。


「ハイそこまで。十分でしょう?」


「あ?」


 陸島の後ろに杖を構えて流山が睨む。


「それ以上やったら先生方も黙っていませんよ?」


「は、センコーに頼るか」


「ええ。ここまでの暴れ馬とは思ってませんでしたので」


 冷や汗を流しながらも流山は態度は変えずにいた。


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