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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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19/102

3-4

 鼠川が初めて魔法の授業を受けたその日の夕方、彼は男子寮一階のラウンジにて寛いでいた。


(さて、ご飯どうしよう……)


 夕ご飯を考えていると、一件のメッセージが鼠川のスマートフォンに入る。


 送信者の欄には流山椿の名前があった。


――今日この後時間ありますか? レストランAMAMIアマミまで来ていただけますか? ささやかな歓迎会とお話を兼ねて一緒に夕ご飯どうです? 費用なら問題ないですよ。島の学生なら食費はタダですので


「え? タダなの!?」


 驚愕の声を上げた。その声に近くにいた陸島の視線が鋭く向けられる。その時の彼は本を読んで過ごしていた。


「……あ、いやえっと……昨今の事情考えるとレストランの代金がタダって凄いなって思って」


「そうかい」


 無表情で返して、彼は手元の本に視線を戻す。


(……うーん。彼の性格というかなんというか。これって誰とでも距離を置くタイプなのかな? 多分簡単な質疑応答とかなら大丈夫なんだろうけど。他人と距離を置くってことは過去に人間関係で何かあったのかな? それにしても読書って渋い趣味してるな……)


「今度は何だ?」


 思案して見つめる鼠川に溜息を吐いて陸島が問う。


「ああ……門限について何処かに書いてたりしないかなって」


「それなら二十三時だ」


「あ、ありがとう」


 すっと立ち上がると彼は部屋に戻って私服に着替え、しわを整えて指定されたレストランへと向かうために彼は寮を出た。


「あら? 鼠川君は?」


 少ししてラウンジに三田川がやってきた。


「知りません。出かけたと思いますが」


「そう……。彼、場所とかわかるのかしら?」


「スマートフォンあれば大丈夫でしょう。地図アプリありますし」


「そうねえ。あ、陸島君。夕飯はどうするの?」


「ひらさき行きますので今日は料理しません」


「ひらさき? あら、いいところ選ぶじゃない。あそこはね、裏メニューがあるのよ」


「……裏メニュー?」


 その単語に陸島は目を細める。


「えーっと……四番街の近くにあるって話だけど……この辺のはず」


 一方その頃、鼠川は男子寮のある一番街を抜けて四番街に足を踏み入れていた。

 時刻は夕方六時を過ぎていて周囲には買い物帰りやレストランで食事をする人達で溢れていた。


(おお……こうしてみると本当に本州というか住んでいたところとは遜色ないんだな。町もきれいだ。だけど孤島の中っていうのが信じられないな。東京とか大都会ほどじゃないけど、確かに街がある)


 鼠川の視界に広がる風景は自分が孤島というそれまでいた場所とは違うという事実が受け入れられずにいた。


 喧噪、煌めき、華やかさの集う都会にいる。そんな気分だった。


「あ、おーい! こっちですよ!」


 声がした方を向く。

 するとそこには爽やかな青と白の縞模様のワンピースを着た流山と、ベージュの上着にジーンズを履いた萩野がいた。


「え? ……確かあの人って」


「こんにちは。自己紹介がまだだったね。私は萩野玲。よろしくね」


――え、でかい(背丈が)


 萩野玲。流山、相原と一緒のクラスメイトで背の高い女性。


「あ、ええっと……こんばんは」


「ふふ。こうしてちゃんと話すのは初めてだね」


 近づいてくる萩野を見上げる。


 その時に自分の背の低さを痛感する。


「それじゃあ彼も来たし行こうか」


「そうしましょう。シオンちゃん先に行って席取ってますから。こっちですよ」


 二人に案内され、鼠川はレストランAMAMIへと向かう。

 レストランAMAMI。主なジャンルはイタリアンで国内にある人気ファミレスをベースにした料理を提供している。魔女達にも人気で、特にデザート系のジャンルは一日の売り上げの大半を占める。


(ここがアマミ……。うーん、おしゃれだな)


 店内は洋風のデザインで、電球色の光に照らされた店の中には既に多くの客が入っていた。

 店内の奥にあるボックス席に向かうと、そこには一人の少女が椅子に座っていた。


「あ、こんばんは鼠川君」


「あ……ええっと確か……相原さん?」


「うん。二人とも、ここでいい?」


「ばっちりですよ。シオンちゃん」


「ああ。ここでいいよ」


 席に座って四人はメニュー表を広げる。


(おお……どれもおいしそう)


 メニュー表に並んだ料理たちは、いずれも鼠川の腹を、食欲を刺激する。


「……本当にタダなの?」


「あ、学生証は……ってスマホ持ってますよね?」


「ああうん。どっちもあるよ」


 鼠川は流山の前にスマートフォンを見せる。


「そうそう。これを見せればダイジョーブですよ」


「ありがとう。……あれ?」


「どうしたんです?」


「皆はいつからここにいるの? 僕ら高校一年だよね?」


「ああ、中等部の話って聞いてませんか?」


「中等部? 中学生からいるってこと?」


「そーなんですよ」


 メニュー表から『私はこれで』と言いつつ、萩野はテーブルに設置された端末に入力を行う。


 選んだのはボンゴレパスタ。具材に主に貝を使ったパスタである。


「鼠川君も決まったかい?」


「え? ああ、僕は……このハンバーグセットで」


「ほほう。見る目がありますね。これとボロネーゼはおすすめですよ!」


「ツバキちゃんその二つ好きだね。私はこのサラダとドリアのセットで」


「まあ今日はボロネーゼですけどね」


 微笑む相原もそれらを端末に入力する。


 それからしばらくして料理がテーブルに並んだ。


「それじゃあ三人は……というか殆どが中学から魔法を学んでいるんだね」


「そーです! 特にツバキちゃんは凄いんですよ!!」


「そ……そうかな?」


 料理を食べつつ、各々は会話に花を咲かせていた。


「大地の魔法として学年でもトップクラスで、それで学業でも優秀なんです。運動は普通ですがそれでも凄いんですよ」


「も、もう……そのくらいでいいよ」


 褒めまくりの言葉に慣れていないのか、相原の頬は赤く染まる。


「実際凄いことだよ。相原さん」


 流山に続いて萩野も彼女を褒めつつ、すらっとしたその右手をそっと相原の頬に当てる。


「ふえ?」


 突然のスキンシップに相原は固まる。


「愛らしさの中にある確かな芯……本当に可憐でいてそれで――」


「わーっ!! ちょっとー!?」


 萩野の口説きにパニックを起こしたのは相原……ではなく流山。


 口説かれた相原はというと赤面のまま、硬直している。


「ダメですってそういうの! 鼠川君もいるんですよ!?」


「え? そういう問題?」


「フフフ。流山さんにはちょっと刺激が強かったかな?」


「もー……」


「ハハハ……そう言えば進路とかはどうなるの? 皆は決まってるの? ちょっと早い話かもしれないけど」


「あ、ああ進路ですか? それは……また今度で」


 そうして楽しい時間は過ぎていく。


 食後、帰りにつく道でグループは二つに分かれた。鼠川と流山。相原と萩野。


「あの……別についてこなくても良かったんじゃ?」


「そーいうわけにはいきません。不遜な輩から守るためにも……というか道、わかります? アプリあるとはいえ」


「あ、そっちか。暗いしそうだね。ちょっとわからないかも」


 二人は四番街を抜けて一番街に差し掛かる。


 通りの両脇には一軒家、アパートといった住宅が立ち並んでいた。


「……ところで女装に興味は――」


「ないよ!?」


 素早い突っ込みに流山は不服そうであった。


「なんで不服そうなの?」


「ハテナンノコトヤラ」


「こっち向いて話して?」


「でも女装似合うかもってみんな話題にしてましたよ?」


「そんな話題どぶに捨ててしまえ!!」


「あら奇遇ね」


 騒ぐ二人の道を阻むように三人の女子が姿を現す。

 その三人は昼間の授業で鼠川が遭遇した上田、中本、下村だった。

 三人の顔はいずれもよこしまな笑みを見せていた。


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