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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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18/102

3-3

 それからしばらくして。


「……あ!今動き始めていました!」


「本当!?」


 練習に次ぐ練習。水は微かにだが鼠川の声に、魔力に答え始めてはいた。本当にわずかではあるが。

 先ほどまでの野次馬だった学生たちもそれぞれ散り散りになって魔法の練習をし始めている。


「うーん……やっぱだめだな」


 数回の挑戦にてある程度は水面に影響を与えるレベルまでは進んだ。

 しかしそこからが上手くいかずにいた。


「流山さん。もう一回やってもらってもいい?」


「勿論ですよ。えいっ」


 頼られて機嫌のよい流山は杖を勢いよく振るう。

 水流はそれに答えて姿を現す。


「おお……凄いな。こうしてみると本当に」


「えへへ。褒めすぎですよ」


 まっすぐな賞賛の言葉に嬉しさを隠せない流山。


「本当に何がいけないんだろう?皆と同じようにやっているのに」


 彼女の放った水流が弱くなるころにもう一度と鼠川は杖を振るおうとする。


「あ、鼠川君。力を籠めると駄目ですよ?」


「え?そうなの?先生何も言わなかったけど」


「ああ、それは『言わなかっただけ』ですから」


「ど、どういうこと?」


「生徒同士……あるいは自己の魔法の振るい方による研究をしろということですよ。振るい方。筋肉へ力を込めたのか?掛け声といったそうした細かい動作の中に魔法を振るうためのコツがあるんです」


「そう……なんだ」


「そういうことですから――」


 流山は鼠川に近づくと、そっと彼の杖を持っている右手に手を伸ばした。


「あ、あのちょっと?」


 突然の異性に触れられる感覚に戸惑いを隠せずにいた。

 頬は赤く染まり、じっと自分の右手を見る彼女への動揺は高まる。


「まずは手の力を杖をすっぽ抜けないくらいの力で。それでいて振るう際にはまず全身の力を抜く」


 呟く彼女の意見にあわせて握られている手をゆっくり川に向ける。

 その間、彼女は鼠川の一挙一動をじっと見つめていた。


「そうして杖に魔力が集うイメージを持たせ、そして水流の召喚を願えば――」


 彼女に言われるがままに魔法を振るう。

 その時だった。川より水流が現れたのは。


「え?嘘!?出来た!?」


「バッチリですよ!すごい!コツを教えるだけでこんなに――」


 鼠川の呼び起こした水流は流山の水流よりも太くて勢いがあり、それは彼の意のままに操られる。


(おお……本当に僕は魔法使いなんだ!すごいや)


 ヒーローを見た幼い少年のようにその瞳は輝く。


「あら、調子よさそうじゃない」


 勢いのついた水の流れの近くに見知らぬ三人の女生徒がにやけ面でやってくる。


「流石、流山さんね。教えも上手いとは」


「……あなた達ですか」


 並んで出た三人。


「この人たち、誰?」


「左から上田さん、中本さん、下村さん。中学の時から仲良しこよしでよく私のところに来てた人たちですよ。まあ……一人では来ることはないですね」


 冷ややかな流山の視線で鼠川は気づく。


――ああ、これ女性特有のあのピリピリしてえげつないやつだ


「二年時のころでしたっけ?私の下駄箱に吐き捨てたガムを入れて、にやついて。そしたら『偶然にも』大量のカエルが襲ってきてギャン泣きしてたのは?」


「ぐ……」


 経緯としては最初にこの三人が嫌がらせを流山椿にした。だがすぐに報復が待っていた。

 流山の放ったカエルの群れにあっという間に彼女たちはパニックを起こして気絶。情けない姿を他の生徒に見せる羽目になった。


「ああそういえば修学旅行の時、私の財布盗んでましたよね?先生にばれて大目玉食らってこれまたギャン泣きで――」


――もう聞きたくなーい!!


 鼠川にとってこういう雰囲気は慣れておらず耐え難いものがあった。

 要するに色々あって彼女たちは流山に対して距離を置くようにしていた。


「そうね。忍者の末裔だか何だか知らないけど、入学してから間もなく一人で大抵こなせちゃって……逆奈義家にも一目置かれているもんね!おまけにその逆奈義家に気に入られている相原紫苑と仲がいいってなに?二人ともあの家の魔女にでもなるの?」


 三人組のリーダー格、中本がぐちぐちと話す。


「誰があんなヤバイ家で働くもんですか」


「さ……逆奈義家って?」


「ざっくり言うなら陰険さなら彼女達以上ですよ。もし勧誘があっても断るか逃げてください。いい噂、聞きませんから」


 その時ばかりは流山も彼女たちに向けた態度を改めて鼠川に丁寧に忠告をする。


「あれ?でも先月の一件、おまえのせいじゃねーの?」


 三人の中で背の高い上田が口を開く。


「先月の一件?」


「とぼけんじゃねーよ。逆奈義未来を病気……というか大けがさせたとかって噂。どうなのよ?」


「知りませんよ。あの日はあの男の……ああもう思い出したくない!」


「……なに一人でキレてんの?」


 三人の中で物静かな下村が変人を見る目を向ける。


「陸島ですよ陸島。一人で寂しくご飯食べてるから一緒に食事でもってシオンちゃんの好意を無駄にしたあのバカ……!」


 ギリギリと歯ぎしりを立て、沸騰しそうな様子を見せる流山。

 噴火待ったなしのその姿に一同は引く。


「あの……いったい何が?」


 恐る恐る聞き出したのは鼠川。


「何がってアイツ人の親切を無下にして怒鳴るやつで……食事の時もピリピリしてておまけに――」


 静かに怒りをみせながら当時の出来事を語っていると、突然怒りが収まり、その口が止まる。


「……あれ?確かあの日って――」


「はいはいなにやってるの?」


 流山、鼠川と三人組の合間に割って入ったのは教師の早瀬。


「あ、先生」


「どう?鼠川君。魔法の方は」


「ああ、えっと――」


 杖を振るって今日の成果を先生に見せつけた。

 振るう杖に合わせ、踊る水流に先生も『おぉ』と声を漏らす。


「大したもんね。これは……!陸島君と言い、ウォーロックって魔術の取得が早いのかしら?」


「あはは……流山さんに教えてもらった成果ですよ」


「ほほう。流石ね流山さん。忍者の末裔ってことは教えも得意ってこと?」


「いや忍者と教えの上手さに何の因果関係があるんですか?」


 流山は突っ込まずにはいられなかった。

 その日の授業は静かに終わりを告げる。


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