31-4
「どこだ!?どこにいる!?」
博物館内に突入した陸島は入り口を抜けて、そのまま中央のホールへ。
非常口、火災報知器がかすかに見せる光以外は何も見えなかった。
鼻につく臭いが陸島に届く。
「そこか!」
瞬時に右手から蔦を伸ばし、臭いを出して動くものの方へとからめとろうとする。
しかし蔦は間に合わず、何者かは暗闇の中で息を潜め、まるで消えて見せた。
「おや、これはこれは……歓迎しますよ」
何者かの声がしたその時、周囲の光が一斉に照らされる。
暗闇から強い光が目に入り込んできたせいで、陸島は思わず一度目を閉じた。
「……これは」
瞼を開く。
二階が見える吹き抜けのホールに光が戻り、豪華なシャンデリアの元で展示品の数々と共にその者たちが姿を見せた。
私服、スーツ、作業服……。実に様々な衣装を着たグールたちの群れが。
「こいつらがグールか」
「陸島さん!」
駆け寄る吉川たちもまた、グールを視界に捉える。
いつの間にか陸島の周囲を取り囲んでいたグールはいずれもよだれを垂らし、息を乱れさせて何かを待ちわびているようだった。
「ようこそ、ウォーロック。それと……おまけの方々」
「おまけとは失礼しますわね」
ハルベルトを片手に燦央院は自身の扱いにため息を吐く。
「それとも……さぞ名のある魔女なのかしら?」
「ふふふ。どうでしょう?」
二階の方から陸島たちを見下ろすようにその魔女はいた。
服装はところどころ血にまみれた白衣に半袖のシャツ、そして黒のロングスカート。
「お前、ドレッサー・ドレッドか?」
陸島の直球の質問に白衣の魔女は思わず笑う。
「そうだとしたら?」
「生かしといてやるよ。ただし指は全部折る」
「まあ、怖いこと。でも残念。私、ドレッサー・ドレッドじゃないわ」
「おいおい。それじゃ殺してくれって言ってるようなもんだぜ?」
「そうは言ってもドレッサー・ドレッドは組織でも有数の強く、認められた者たち。みだりに語るのはご法度ですので」
「ははは。そりゃあご丁寧にどうも。殺してやるよ」
言葉の終わりに陸島は飛んだ。
「え?!」
相原は目を丸くした。
よく見ればいつの間にか陸島の体には蔦が巻き付いており、ハーネスのように巻かれていた。そのまま蔦の先がある二階の廊下に着地しようとしたその時。
「グオワァァァっ!!」
「あ?」
着地先にいた一体のグールが陸島を待ち構えていた。
不敵に笑うグールに陸島はすぐに迎撃に出る。
「はっ!」
蔦の勢いに魔力はもう必要なく、そのまま陸島はグールに向けて手より鉄の魔術を放つ。
勢いよく吹き出る黒く細いうねりはグールが避けるよりも前に命中した。
「グアアアアッ!!」
狂気と憎悪の記憶がグールを襲う。
うずくまり、グールは縮こまる。
「ふん」
陸島が着地したその時。
「にぃぃ……」
「な!?」
攻撃を受けたグールは既に陸島に向けてその鋭い爪を振りかざす。
咄嗟に回避するも、かすかに左肩に傷を受ける。
「ぐぅっ!?」
「陸島君!?」
相原は驚き叫ぶ。
痛みを感じながらも陸島は反撃にでる。
グールの足を蔦で絡め、そのまま抜刀。
「こいつ!!」
居合斬りの一閃がグールの首を斬り落とした。
首の落ちたグールは倒れ、辺りに血の池を作る。
(どうなってる……!?確かに命中したはずだ!?)
「ふふふ。説明しましょう」
白衣の魔女は得意げに語りだす。
「鉄の魔術。確かに危険ではあります。狂気の悪意によって対象の精神を蝕むのは確かに魔女にとっては詠唱の邪魔でもあり、精神的な傷は中々拭えないものです。そこでグールですよ」
にかりと歯を見せて魔女は笑う。
「グール。それは忌み嫌われる怪物。人々にとっては獣のごとき鋭い爪と牙で人を食らうものとして、魔女から見れば作った割にはコストの高さと維持費で頭を抱える存在」
両手を空に広げ魔女は笑う。
「だがポテンシャルは確かにある。鉄の魔術への抵抗性。不死という人類が夢見た希望!これを作れるとはなんと素晴らしいことか!!」
「御託はいい。お前には死んでもらう」
「ふふ。どうでしょう?」
魔女は指をぱちんと鳴らす。
すると二階の閉じたいくつかの展示室のドアが開き、さらなるグールたちが姿を見せた。
「まだいるのか……!?」
蛇島はわらわらと出たグールに目を丸くする。
「上等だよ。来な!」
刀を前に突き出し、陸島はグールたちを煽る。
グールたちはそのあおりを待っていたかのように笑い、一斉に襲い掛かる。
(数が多いなら――)
陸島が刀を構え、意識を集中させる。
グール達は集中する彼にお構いなしに襲い掛かる。
「はあっ!!」
足を強く踏んで大地の魔術による振動を起こす。
周囲のグールは走っていたせいで突然の揺れに対応できず、転んでバランスを崩す。
(ここだ!)
数体のグールに向けて、刀に魔力を込めて斬撃を叩き込む。
ある者は首を裂かれ、ある者は落とされる。
(よし、次!)
血にまみれた刀を構え、まだ残るグール達の群れに向き合う。
だがその時、陸島の後ろで斬られたグールの一部がゆらりと立ち上がる。
「な――」
グール。
魔女機関曰く、危険視されるのは腕を落とされても、足をなくしても動き回れる高い耐久性と鋭い爪と牙による攻撃性である。
「ウゥ……」
「アア……」
陸島の後方より数体のグールがゆらりと迫る。
ある者は足を引きずりながら。またある者は這いつくばりながら。
「成程。不死性は伊達じゃないか」
両サイドからグールが迫る刹那、彼と無傷のグール達の合間に勢いよく吉川が飛び込んできた。
同時に、轟音が一階の方から響く。
「失礼します。陸島さんは後方を!」
周囲に炎を溢れさせ、次の瞬間には吉川はグール達の群れに飛び込む。
「はあっ!!」
いつの間にか持っていた薙刀に炎を宿し、勢いよくそれをグール達の中心で振りまわす。
「グアアアアッ!!」
炎の刃はその場にいたグールを焼いて裂いた。
辺りには焼け焦げた匂いと何かべとつく感触が広がる。
「……いきなりですね」
陸島は刀を収める。
傷を負ったグールの群れに難なく彼は勝ってみせた。
「ええ、すみません」
吉川は彼の方を向き、事情を説明する。
「先ほど通信があって、この中に竹月組の魔女が一人取り残されているようなのです」
「何?」
――まだ……中、に仲間が
「ああ、確かそんなことをさっき助けた者が言ってましたね」
「陸島君!無事!?」
相原が蔦を伸ばして二階に飛び込んで来る。
心配そうな表情で陸島を見る。
「無事も何も――」
「左肩、血が出てます」
「あ?」
吉川の指摘で陸島が自身の左肩を見ると確かに血が流れていた。
三つの爪によって裂かれた傷は浅かったがそれでも血が流れる程の深さはあった。
「待って、手当てするから――」
「結構」
陸島は刀を鞘に納めると、十手を取って大地の魔術によって治療を開始する。
先ほど白衣の魔女がいた方を見るが、どうやら既に姿を隠したようだ。
「それより一階の方はどうなってます?」
陸島が駆け寄ると、そこには落ちたシャンデリアの下に数体のグールが下敷きになっていた。
シャンデリアを中心にヒビと血の海が広がっている。
「こいつは……?」
「えっと、吉川さんがやったの」
陸島は驚いた顔で吉川を見る。
吉川は笑みを浮かべながら説明する。
「グールが多いので先ほど、シャンデリアを使わせていただきました。ちょうど周囲に集められましたので相原さんに指示して蔦で集めてもらい、集まったところを落としました」
「成程。素晴らしいタクティクスだ」
「ええ。思ったよりグールの数が多いので」
吉川の手際の良さに陸島は感心した。
その後、一階にいた燦央院、蛇島とその場で合流。
「まず、生存者の救出を優先しましょう」
吉川の意見に一同は首を縦に振った。
「ええ。構いません。それで救助対象はどこにいます?」
「この博物館内なのは間違いないのですが――」
吉川が何か言いかけたその時、蛇島が後ろを向く。
視線の先には展示室や化粧室、倉庫のある廊下を見ていた。
「どうしましたの?」
「……今、何か聞こえたぞ」
蛇島の言葉に燦央院は武器を構えて廊下を歩く。
歩む速度は遅く、慎重に。燦央院は胸の鼓動を感じながら、展示室の扉を一つ、二つ横に抜けて廊下を進む。
(確かに……何かいますわね?グール?それとも――)
鼓動が否応なしに高まる。
蛍光灯の光る廊下はただ無音で、血の匂いが辺りに立ち込めていた。




