31-3
任務のある、その日の夕方。
車は目的地である魔女の潜む博物館へと向かう。
「到着まで時間がかかりますので皆さん、休憩してお過ごしください」
吉川の事前の指示で学生一同はそれぞれ休憩しつつ過ごしていた。
二台のマイクロバスを使って移動する一同。
一台目には主に木下、陸島、相原、鴉田、外崎が。二台目には吉川、燦央院、蛇島、鼠川が乗っていた。
なお、運転手は竹月組の部下が担当しており、それ以外には医療スタッフが同乗していた。
「ねえ、陸島君」
相原は肘乗せを挟んで自分の席の隣に座っている陸島に声を掛ける。
しかし、当の陸島は眠りについていた。
「……あれ?寝てる?」
「狸寝入りじゃないね」
外崎は陸島の寝息を聞いて確信していた。
「疲れてるっぽいし、用事があるなら後にすれば?」
「うん」
「キスとかしちゃだめよ?」
「えっ」
キスと言ったのは外崎ではなく、鴉田。
この男、相変わらずである。
「ああ、気にしなくていいよ」
外崎のアイアンクロー。
鴉田の頭がみしみしと音を立ててへこみ始める。
「オイ、お前のせいで関係こじれたらぶち殺すぞ?」
「ず、ずびばぜあ”あ”あ”あ”あ”っ……」
「ふふふ、元気そうですね」
助手席から木下がのぞき込んで笑う。
外崎が彼の方を見て申し訳なさそうに言う。
「すみません。この馬鹿、沈めておきますんで」
「や、やめて……くだ……ガクッ」
鴉田春一、ここに眠る。
「そういえば、陸島君はずっと一人でいたんですか?」
相原の問いに木下は沈んだ気分で答える。
「ええ。以前にもお話しましたが、家族同然の三人が亡くなってからずっと一人でした。小学校では暴力沙汰を起こしてから一人になり、中学に入ってからでも友達を作らず静かに過ごしていたようです。急ぎ家に帰れば修行を。邪魔をした者達もいたようですが一回喧嘩になってからは静かになったようです」
「ずっと……戦いに身を置こうとしてたんですね」
「ええ。外の世界の本を読むのがつかの間の趣味だったようですが、最近は魔術関連を読み漁っているようで」
「……それでいいの?」
「ん?」
相原は呟く。
「お父さん達はずっと陸島君に幸せに生きてほしいからそうしたと思ってんです。でもこれじゃ違う。死にに行こうとしてる」
「……言えてますね。それ」
怪訝そうな周囲の視線が陸島に集まる。
その間、陸島はその視線に気づくことなくただただ次の任務のために眠っていた。
一方、吉川たちが乗っていたバスの方では談話が繰り広げられていた。
「鼠川君はそれで修行をしていたのか」
「うん。振りまわしてみたりと色々いやってみてるんだ。上手く使えるかはわからないけど……これ、凄いらしいんだ」
二台目のバスでは鼠川が一同にそれを見せていた。
見せていたのは黒く、薄い箱の中に丸まって収められていた一本の黒い鞭。蛇島は鼠川の持ってきた鞭をじっと見ていた。ちなみに見るのは二度目になる。
「これは……どうやら中々の品物のようですね」
『失礼』といいつつ、吉川はそれを手に取る。
触れることで改めてそれが普通じゃないとわかる。
「鼠川さん、これをどこで?」
「ええっと……塩野さんから頂いたんですが」
「ああ、あの変態ですか」
「変態!?」
どうやら塩野の悪名は島の外まで届いていたようです。
「よ、吉川……。それは一体どういう?」
「ああ、塩野さんは美少年に目がないことで有名で……。若い男相手にハッスルしかねないんですよ」
燦央院はその説明で納得した。
顔を青ざめながら。
「節操なしとか色々あるんですが……まあそれはそれとして。この鞭、恐らく魔術道具に入る代物でしょう」
「やはり、ですか?」
「ええ。というか塩野さんから何か話を聞いてないんですか?」
「ええっと……怖くて聞けなくて」
「ああ、成程。では私の部下たちに詳細を問い合わせておきましょう」
『失礼します』と言って吉川は鞭の入った箱の写真をスマートフォンで撮影。
その後、スマートフォンを通じて鞭についての調査を自身の部下たちに依頼した。
「もし不明なことがありましたらこの私に相談してくださいね」
「ありがとうございます。助かります」
吉川の頼りがいに鼠川は感心した。
車はそのまま目的地の博物館へと走っていく。
「鉄明さん、着きましたよ」
「ん?」
陸島は瞼を開く。
バスのドアが開き、各々が外に降り立つ。陸島も彼らに続いてバスを降りる。
「ここか……」
陸島は周囲を見渡す。
駐車場の隣には一つの大きな建物があった。
赤レンガのような色合いをしたその建物が今回の任務の舞台となる郷土博物館である。町の中心から離れた場所に建てられた博物館には当然ながら窓ガラスが設置されており、内部の様子はそこから見ることも可能だった。だが今は広げられた黒いカーテンのせいで見えず、しかも隙間のある個所から見ても内部に明かりがついていないのは明白だった。
「作戦の方ですが……まず潜入は五名で。吉川さんと鉄明さん、それから相原さんと燦央院さんと蛇島さんでお願いします。内部に潜入して魔女と兵を奇襲、これをせん滅するのが今回の作戦です」
木下が作戦の概要を説明する。
「ただし、先行した調査グループの話によればグールがいるとの事です。私も見たことがないので実力は未知数ですが……戦闘力や機動性は決して侮れないでしょう。もちろん、伝承通りの不死性が備わっているのならなおさらです。指揮は吉川さん、あなたにお願いします」
「了解しました。木下さんと鼠川さんと外崎さんと鴉田さんは待機ですね?」
「ええ。運転手の部下、医療スタッフもこちらに待たせます。何かありましたら駆けつけますので」
「で?どこから入る?正面じゃないよな?」
木下と吉川の間に陸島が割って入る。
心なしか今回の任務に待ちきれないという態度を見せていた。
「ええ。いつも通りであれば二階から――」
――うわあああああっ!!
一同の目は悲鳴の上がった博物館に向いた。
目が向いた直後、閉められていた入り口のドアが鈍い音を立てて開く。
「なんだ!?」
陸島は急ぎ、入り口に近づく。
「鉄明さん、待って!」
彼を慌てて止めようとする木下。
その直後、ドアの方から何者かが姿を現す。
「う……うう」
「こいつは……!」
血にまみれたサングラスとスーツの出で立ちをした者が苦悶の声を上げて姿を見せる。
「あ……が……」
「おい!どうした!?しっかりしろ!!」
「ああ……鉄明さん、ですか」
ふらふらと近づきながら血まみれの者は陸島に気付く。
それで陸島はその者が自分を知っている者だとわかる。
「すみません……しくじりました。まさか……やつらここまでとは。まだ……中、に」
陸島に話す途中でその者は倒れた。
倒れた体を陸島は急ぎ支える。
(なんだ!?まだいるのか?!)
急ぎ駆け寄った木下に陸島は倒れた者をそっと渡す。
「救護は!?」
「いますぐに!!」
車中の救護スタッフと鼠川が駆けつけ、彼に治療を行う。
息も絶え絶えになっていることから、内部で激しい戦闘に見舞われたものと見える。陸島が入り口の方を見ると、ドアは開いたままで奥からは何か普通じゃない気配が漏れていた。
「……はん。いいだろう!」
博物館の入り口は開いたままだった。
内部は暗く、詳細はわからずにいた。それでも陸島は博物館の方へと駆け出す。
「あ、鉄明さん!」
木下が止める間もなく、陸島は走る。
「木下さんはスタッフの手当てを鼠川さんと!先ほどの三名は私に続いて!」
吉川が周囲に指示を出し、木下は鼠川と医療スタッフの元に彼を運ぶ。
「急ぎましょう!」
「はい!」
吉川の声に相原は強く返事し、潜入班……というより突入班になってしまったが吉川たちはそのまま内部へと駆け込む。
血にまみれた者たちの夜が今、始まる。




