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「……もしかしてそれは何かにとりつかれてそう動いているというやつじゃないよな?ああ、強迫観念というやつか?」
「そうではないですよ」
木下は立ち上がり、陸島の方をじっと見る。
「何か気になったのですか?」
「……いや、いい」
陸島は墓前に背中を向け、その場を去っていく。
「帰り、送りましょうか?暑いですよ」
「結構だ」
一人足早に去っていく陸島の背中を木下は悲しそうに見ていた。
墓前に向き直り、木下はその者に申し訳なさそうに伝える。
「……すみません。いまだに鉄明さんの心、固く閉ざされたままのようです」
したる汗が頬より落ちる。
暑い夏の中、去っていった者達への静かな黙祷。木下はこれを毎年欠かさずに行っていた。
「そこ!!」
「うおっ!?」
一方、橘樹邸のトレーニングルーム。
併設された模擬戦の広間にて蛇島は吉川の指導を受けていた。
「一か所に止まらない!相手から目を背けない!攻撃を止めない!」
冷静な声で指導する吉川の手には演習用の薙刀が握られていた。
薙刀と言うのは長いリーチを生かした武器の一つで、平安時代に生まれたとされる。その長さは百五十センチから二メートル以上と実に差がある。
蛇島相手に彼女はそれを的確な距離で、自身の背丈よりも長いそれを軽々と使いこなす。ちなみに刃は鉄製の本物ではなく、木製の刃が付けられていた。
「ぐぅ……!」
圧倒的なリーチと刺突、振りまわしどちらに使っても問題のない武器。
それが薙刀である。
気づけば蛇島は広間の隅に追いやられていた。
「はぁっ!!」
勢いのある振りまわしが蛇島を襲う。
彼はそれをトンファーで受け止める。辺りに金属音が走る。
「な……」
ガードはしていた。
しかし鈍い衝撃がトンファーを通じて蛇島を襲う。
「はいっ!!」
一瞬で吉川は迫り、蛇島を突く。
薙刀の先端についていた木製の刃は彼の頬を掠める。
「相変わらず容赦ないですわね、吉川」
「ふふ。ちょっと本気になりすぎましたかね?」
薙刀を地面に置き、汗をタオルで拭いながら吉川は蛇島を見る。
蛇島は眼鏡についた汗を眼鏡拭きで丁寧に拭っていた。
「蛇島さん。そろそろ魔法を使っても良いのでは?」
「それは……」
蛇島は自身の右腕についていた籠手を見る。
この島に来てからしばらくずっとつけていた金色の籠手を。
「ああ、制限時間の事ですか?大事ですものね」
吉川はドリンク入りのボトルを手にしつつそれを見た。
「出来る事なら魔術なしであいつに勝ちたいが……そうも言ってられないんですよね」
「ええ。陸島さんは過去からこれまでの戦いを見たり聞いたりしてきましたが、やはり戦いが上手いのでしょうね」
「吉川にもそう見えますか」
蛇島にタオルを差し出しながら燦央院は吉川の話に耳を傾ける。
「魔術をどう使うか……自分の武器の扱い方。それに覚悟という意志の強さもありますね。ウォーロックという特性も考えたとしてもやはり手ごわいの一言に尽きます」
「俺だってウォーロックですよ」
きっぱりと蛇島は言い放つ。
「戦い方はともかく、魔術なら僕にもあるさ。この炎の魔術が……!」
蛇島は意識を集中させ、右手から炎を噴き起こす。
それを見て吉川と燦央院はしばらく考え込む。
「確かにこれがあればあの男をこんがり焼けるでしょう……しかし、ですわ」
燦央院は苦々しい顔で蛇島を見る。
「それ、訓練で使わなくては修行になりませんわよ」
「ぐ……」
「まあそういうわけです」
吉川は薙刀を持って広間の中央に立つ。
「さ、次は炎を使ってください。籠手を外して。時間はお嬢様が計測してくださいな」
「わかりましたわ。……そのジャージ破かないでくださいね?」
「わ、わかってるよ」
蛇島は魔力のコントロールが上手くいかない時がある。
するとどうなるか?全身から魔力が溢れ、その影響で服が破れるという現象が発生するのだ。何故そうなるのかというとこれは蛇島自身の魔力が高すぎるというのがある。これを制御するために籠手を普段から装備し、全身の魔力の流れを制御しているのだ。
「……行きますよ?」
「どうぞ」
蛇島は吉川に確認を取った上で籠手を外し、訓練に臨む。
果たして彼の修行の成果や如何に。そうしていく内に日付は明後日を迎えていた。
「……あれ?」
ある日の昼。
男は目を覚ます。冷たい床の上で上半身を起こしながら。
「ここ……どこだ?」
黒いジャケットを着た若い男は周囲を見渡す。
そこは明かりのついた吹き抜けの建物。三階建ての空間の中心に男はいた。
「なんで俺、ここにいるんだ?」
男にはそれがわからなかった。
不安が噴き出し、足を動かすエンジンとなってとにかく歩き出す。
「ここは……あれ?」
男の足は止まる。
一つの展示物が錨となって男の足を止めたのだ。
「これって、うちの町の職人が作ったやつだよな?え?ってことはここ博物館?」
男は博物館のある地元の住人だったが、博物館には入ったことはなかった。
「俺、なんでここにいるんだ?」
壺の入ったガラスケースに近づく。
自分と誰かが写っている。
「え?」
後ろを向く。
しかし人の姿はなかった。
「なんだ……?気のせい?」
再度正面の壺を見る。
横に着いた説明文をじっと見ながら、男は首を捻った。
「おかしいな。ここって確か大分前から――」
閉鎖されている。
そう言いかけたときだった。
「グオワァァァッ!!」
叫び声が響き、男は後ろを向いた。
だが遅かった。
「うわあああっ!!」
絶叫と共に男は引き裂かれる。
辺りを血の海が覆い始める。
「では任務の説明です」
任務のある日の橘樹邸の会議室。
学生一同が集い、木下より説明を受けていた。木下は目の前のモニターに写真を写しながら説明をする。
「今回の任務ですが、吉川さんから伺っていますが場所はここから車で二時間のある町の博物館です」
モニターには一つの施設が映っていた。
白色の建物で駐車場が近くにあり、後ろには木々が映っている。
「なんでまたそんなところに魔女が?」
陸島が目を細めながら疑問を投げる。
「ごもっともですね。表向きですがこの博物館、施設の老朽化と言う名目で先週から閉鎖してるようです。そこに魔女が住み着いてるようで……恐らく組織の手の者が事前に手を回したのでしょう。内部には組織の兵と……どうやらグールがいるようです」
「グールですって!?」
燦央院が驚きの声を上げる。
グールと言う単語に陸島は眉を潜める。
「おい、グールってのは伝承にある人食いで不死の怪物の事か?」
「はい。鉄明さんの言う通りです。どうやら組織の魔女が人間を改造して作ったようで……こうした改造人間をためらいなく作れるのが奴らの恐ろしいところなんですよ」
木下は溜息を吐いてモニターに映ったグールの写真を見る。
その写真には鉄の檻の中で歯をむき出しにし、手を檻の向こうにある肉へと手を伸ばしていた。その肉が何かは先ほど陸島の言った通り……ということは流石になく、牛の生肉であった。
「ひ、人食いってことは食べるの!?僕らを!?」
青ざめた顔で鼠川が震える。
吉川が彼の問いに答える。
「ええ。昔はある程度作られていたようですが……。管理やコストなどの問題で見なくなったのです。なぜ急にこれらが作られたのかは不明ですが……野放しにしておくのは危険です」
「ちょっといいか?」
陸島が問いかけ、周囲の視線を集める。
「この写真、どっから来た?」
「博物館内部は竹月組の部下が。グールの写真は魔女機関の資料ですよ?」
「……ご丁寧にどうも」
博物館内部の写真のみを聞きたかった陸島だったが吉川の丁寧な返しに少々驚きながらも礼を言う。
「どうかしたの?」
「なんでもねえ」
相原の心配そうな声を相変わらず陸島は冷たく返す。
それからは吉川の説明がしばらく続いた。
「さて、皆さん。出発は夕方になります。各々準備をお願いします」
任務説明が終わり、各々は準備にかかる。
なお、流山椿に関しては医者からの指示で橘樹邸に待機との事。




