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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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28-5


「どうです?この内装は?運転中でもあまり揺れないんですよ」


 動くキャンピングカーの中を逆奈義肇はその内装を嬉しそうに説明した。

 中央には長い新品のテーブルが設置されており、壁には大きな薄型テレビが設置されている。その奥には収納可能なキッチンが。さらにその奥にはシャワールームにトイレもあり、ひとしきり生活可能な空間がそこにあった。


「今皆さんが座っていただいているテーブルも畳んだり移動すればベッドも用意できます。人数次第じゃ何人かは屋上で寝てもらいますけど……」


「それはいいです。それより――」


 陸島は向かいのテーブルに座っていた二人を睨むように見た。


「ひっ」


 一人は声を上げて陸島の視線を恐れていた。

 少女の名は逆奈義未来。逆奈義肇の娘である。


「大丈夫です。何があってもお守りします」


 そんな彼女の手をぎゅっと握って落ち着かせようとするのは彼女の従者である鈴井。


「なぜあの二人がいるんです?それと――」


 現在、長テーブルには逆奈義肇、逆奈義未来、そして彼女の隣に鈴井が座っている。

 その反対側には順番に木下、陸島、そして相原の姿があった。さらにテーブルの端には燦央院が座っている。


「関係ない面々がいるのはなぜです?」


「え?ああ、木下さんは言わずもがな。燦央院さんは今回の話し合いで中立的な立場になってもらおうと思いまして。相原さんは陸島さんのパートナーとお聞きしてますが?」


「……名目上ですよ。こいつは途中のパーキングエリアでトラックの方に――」


「絶対に嫌」


「……ああもうめんどくせえ。それで用件は?」


 頬の膨れた相原を置いて、陸島は逆奈義肇を力のこもった目で見る。


「ああはい。陸島さんは組織に関してどこまで知ってます?」


「いきなりですね。あの仮面の魔術師がいるかもしれない組織。それと、外道の集いですかね?」


「ええ。それで概ね会ってます」


 逆奈義肇は首を縦に振って次のように説明する。


「組織の始まりは明治政府発足の頃になります。組織はその頃の政府を良く思わぬ者たちが集って形になりました。今日に至るまで、政府に仕える魔女機関と対峙しておりました。その中には魔女機関が禁止した人の道を外れた研究などを行う者達もいます」


「ああ、廃病院の倉庫見てればわかりますよ」


「ああ、アレですか。資料が出来てたので拝見しましたが……やはり悍ましいですね」


 逆奈義肇の顔が曇る頃、陸島は机を指でつつきながら問う。


「で?組織の話が本題ですか?」


「ああすみません。こちらですね」


 逆奈義肇はそれに動じず、一つの封筒をテーブルの上で開き、その中身をテーブルに広げた。


「これは……!」


 広げられたのは数枚の写真と文書。

 写真の内の一枚を陸島は手に取った。


「こいつは!!」


 そこに写っていたのは森を背景に四角い幾何学模様の仮面をつけた魔術師が佇んでいた。


「それは一か月以上前に取られた写真ですね。こちらの写真も見ていただければわかりますが、どうやら組織の関係者であることは間違いありません」


 そう言って逆奈義肇は一枚の写真を手に取って陸島に見せてきた。

 そこに写っていたのは組織の部下と何かやり取りをしている仮面の魔術師の姿だった。

 陸島はその写真を乱暴に手に取り、声を荒げる。


「どこでこれを!?今こいつはどこにいる!?」


「すみません。写真はこれで全部で……。どうやら場所とつなぎ合わせると、日本各地を転々と回っているようです」


 興奮する陸島の隣で冷静な瞳で木下が写真と文書を見比べながら、逆奈義肇に問いかける。

 写真の裏には文書と紐づける番号が割り振られていた。


「なぜこの写真をあなたたちが持っているのですか?我々も追っているはずなのですがね……?」


「……実はお恥ずかしい話なのですが、我々逆奈義家は組織とかつて繋がりがあったのです」


「何?」


 興奮しながら文書を読み進めていた陸島がぴたりと止まる。

 そして次の瞬間には刀に手を伸ばしていた。


「説明しろ。返答次第じゃ叩き斬る」


「ああ、待ってください。それも私の代で終わらせると決意したので……どうか冷静に!」


「お願い陸島君待って!!」


 今にも切りかかりそうな陸島の鬼の形相と構えに逆奈義肇と相原が抑えに入る。

 逆奈義未来の隣にいた鈴井もスーツの下に忍ばせていた拳銃に手を伸ばしていた。


「お待ちなさい陸島」


 そう言って燦央院が止めに加わる。


「これはチャンスかもしれませんわよ?そうですよね木下さん」


「ええ。渡りに船です」


「あ?」


 怒りが沈みかけている陸島を見て、逆奈義肇は汗を拭いながら陸島に話す。


「我ら逆奈義家は今は組織から離れている身です。理由としては本来は家の当主である逆奈義安見子さかなぎあみこが十年前に亡くなり、その際に私が理由をつけて組織から離れているのです。次期当主が確かな力をつけるまで仕事はある程度待ってほしいと。むこうもこれまでの逆奈義家の実績を見て、十五年は待ってくれるといいました。つまりはあと五年は組織と無理にかかわらない状態でいられるのです」


「ほう。それで?」


 未だに怒りが漏れている陸島がさらに続きを伺う。


「私もこの家に婿入りする前は魔女機関にいた人間です。だから婿入りしてこの事実を知った時に何とかして縁を断ち切れないかと思い、組織を裏切る決断をしたのですよ」


「……お、お父様。待ってください」


 震えた声で、青ざめた表情で逆奈義未来が父に問う。


「組織に関わっていたってどういうことです?嘘ですよね?ねえ鈴井?」


 鈴井は黙って首を横に振ってこたえた。

 その時、逆奈義未来は茫然と固まってしまった。


「今の私にできるのはこれくらいです。文書の方は写真の場所と何をしている施設なのかをまとめたものです。一か月かそこらで移動しているようなので場合によっては待ち伏せをすれば――」


「待ってください」


 逆奈義肇の提案に待ったをかけたのは木下。


「確かにこの資料を見た通りでは次に出る場所は都内の大聖堂やもしれません。しかし百歩譲ってその者が出たとしても、鉄明さんが勝てる保証がありませんよ」


「木下。それは俺が――」


「ええ。弱いです」


 陸島が問う前に木下が返す。

 その額に汗を流しながら。


「牙谷たちをまとめて葬った連中だ。今のままでは危険ですよ」


「じゃあこのまま指を加えて見てろというのか!?」


 再び怒る陸島に逆奈義肇が提案する。


「そのことですが機関に掛け合うつもりです」


「あ?どういうことだ?」


「この仮面の魔術師が何者かはわかりません。しかしお二人の話やこれまでの記録を見るに手練れなのは間違いないでしょう。そこで私から提案があります」


「何をする気だ?」


「記録によれば、今からおそらく二週間後に魔女は都内の大聖堂に姿を見せるはずです。陸島さんには申し訳ないですが、この魔女は機関の精鋭部隊を呼んで捕縛作戦を行ってもらうよう機関に提示するつもりです」


「捕縛……?」


「ええ」


 陸島の疑念の目をよそに逆奈義は一枚の写真を手に取った。


「この仮面の魔術師はどうやら何か取引を各地でしているようです。それが何かはわかりませんが、おそらく重要な魔術道具の可能性がある。素性を隠し、各地を回る。そうして各地にある組織を見張ったり道具を提供するともなれば重要人物の可能性があります。そこをアピールして精鋭部隊を編成してもらって動いてもらうのです」


「そんな簡単にいくか?」


 陸島の疑いに逆奈義は自信ありげに答える。


「可能ですよ。ここ最近の組織の動向は間者を、つまりはスパイを私の家から派遣しています」


 その情報に慌てながら燦央院が会話に割り入る。


「そ、そんな貴重な情報しゃべっていいんですの?」


「大丈夫ですよ。ここの人たちは皆、組織に恨みがあるか嫌ってる。相原さんもそうですよね?」


「あ、はい」


「それにここから調査が進めば更なる情報が掴めるかもしれません」


「更なる情報?それは一体何です?」


 相原が首を傾げる。


「和泉島麗華ですよ。十年前、魔女機関を裏切った最悪の魔女です」


「和泉島……麗華……!」


 その名前を聞いたとき、相原の体にまるで電気が走るような感覚が襲った。

 相原紫苑の父、相原健吾の死に深く関わる魔女である。


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