28-4
「え?」
「聞きましたよ。何やら移送の任務があるとかで。物資とか運ぶんでしょうけど。行くんですよね?」
「……それは」
「大丈夫ですよ」
ベッドの上で起き上がった流山は相原に微笑んだ。
弱っていた流山の笑みは相原の心にとげのように刺さる。
「私なら大丈夫です。それよりあのバカ……放っておいたらまた逆奈義さんとトラブル起こしそうですからね」
ここでいうあのバカとは陸島を指す。
「そこまで知ってたの?」
「鼠川君が言ってましたからね。難しくない任務とはいえ、私はまだ本調子じゃないので今回はやめておきます」
「なら私も――」
「どっちです?」
相原の言葉を遮り、流山は問いかける。
「どっちっていうと……?」
「あのバカが心配なのか、私が心配なのか。私はここにいるから安全です。でもあのバカはどうでしょうね」
「ええと……それは」
「行ってきていいですよ」
流山ははにかんで答える。
「というか行った方が良いです。前回はうまくいったとはいえ、何かこう……不安というか」
胸のざわつきを流山はどうにか外に、相原に伝えたかった。
相原はしばらく考え込んだ。親友の容態、陸島の動き。そしてこれからそれがどう影響するか。
そして答えを彼女は出した。
「……うん。行ってくるね」
「シオンちゃんなら大丈夫ですよ。ああそうそう。鼠川君はこっちに残るみたいなので」
「あ、ひょっとして二人きりを狙ってたの?」
「もー!そんなんじゃないですって!」
そんな風にじゃれあって笑って、しばらくした後に相原は医務室を後にした。
一人残った流山はため息を吐いてベッドに沈んだ。
(うぐ……思ったより体の重い感触が残ってますね)
彼女の体中にはいまだに重い感覚がたまに現れていた。
治療を受けたとはいえ、まだ完全には回復していない。
(あのバカに頼むというのはシャクですが……まあ大丈夫でしょう。シオンちゃんだって強いから)
「あれ?寝てる?」
部屋に一人の少年が入って来た。
その声を流山の耳に入った時、自然と彼女は起き上がっていた。
「ああ、淳吾君ですか。起きてますよ」
「体の具合はどう?お医者さん達はもう少し休んだ方がいいって……」
「ええ。お言葉に甘えます。修行はしばらく付き合えませんので……その」
「ああ。大丈夫だよ」
鼠川は近くの椅子に座って申し訳なさそうにしてった流山の頭を撫でた。
「ふえ……!?」
「僕もたくさん学んだからね。自分から歩いて見せるさ」
「……ええ。でも唐突に頭を撫でられるとドキマギします」
真っ赤な顔で流山は頬を膨らませる。
「え?嫌だった!?ごめん!!」
「もう……女装決定ですね」
「うそぉ!?」
「じょーだんです。少し横になります。淳吾君はもうちょっとデリカシーを持ってください。でないと鴉田君と一緒ですよ?」
「ええ……」
その時の鼠川の浮かべた表情が中々に酷く、思わず流山は吹き出した。
鴉田みたいな奴と一緒。流石にそれは酷と言う事なのでしょうね。
「全く……少し寝ます」
「あ、うん」
部屋の外に出た鼠川を確認して、今度は自分と向き合う。
いまだ感じる重い感触に終わらぬ気配を感じていた時もあったが、親友やパートナーの存在が彼女にとって薬のような存在だった。
「……意外と広くて、硬かったなあ」
撫でられたときの感触を思い出す。
すると医務室のドアが開き、彼女の体がびくりとなる。
「ああそうだ。外崎さんからもらったアイス、元気になるまで食べちゃダメだよ?」
「……淳吾君、お母さんみたいなこと言いますね」
夜。移送任務開始地点の場所にて。
そこは周囲が木々に覆われた森で近くには広い道路が一本。
そこには陸島たち学生数名と竹月組の部下数名とトパーズ・グラスの一部メンバーが揃っていた。
流山と鼠川に関しては治療中とその看病のため、今回は欠席である。
「ええとそれじゃあ確認ですが」
布塚が中心になって任務について周囲と認識合わせを行う。
「今回の任務はここから離れた地方にある魔女機関へ物資の移送。内容もそこまで重要じゃないから危険度も低い。万が一に備え、トラック二台にそれぞれ私たちが荷物に紛れて待機。木下さん、それでいいですかね?」
「はい。ああそれで、逆奈義家の現当主が来られますね」
「それね……まあ信用しても大丈夫でしょうけど」
布塚はどこか胸騒ぎを感じていた。
「陸島君。一応言っておくけど、殺しはなしね?」
「わかってますよ。向こうがヘマしたら……ですよね」
「……ソーデスネー」
呆れながら返答する布塚に学生たちは不安だった。
「陸島君……なにかあったとしても喧嘩はダメだよ」
「黙れ」
「……ぐすん」
「陸島……お前なあ」
相原を冷たくあしらう陸島に内心怒りが込みあがっていた蛇島。
そこにエンジン音が響く。
「あ、来たわね」
布塚の視界に入って来たのは二台のトラック。
そして見慣れない白く四角い、マイクロバスほどの大きな車。
「こいつは……」
――キャンピングカーだと?
思わぬ車種の登場に陸島どころか一同が驚いた。
大きさは周囲のトラックよりも少し小さいほど。見た目は居住スペースの箇所に複数の窓とドアが一つついており、これといった特徴はなかった。
「ふむ……どうやらここに乗っているようですね」
驚きながらも木下がつぶやく。
後部のドアががらりと開く。
「皆さん、お待たせしました」
そう言って一人の男が姿を見せた。
黒い髪に全体に白色の目立つスーツ。顔つきは四十後半の木下よりも若く、十代半ばの陸島よりも年を取っている。首には紫色の宝石が飾られたペンダントをかけていた。
「ええっと……木下さんと布塚さんはいますか?」
「はい、こちらに」
木下が一歩前に出て、その男性に近づく。
しばらくして布塚も姿を見せ三人で話を始める。
(あいつが……逆奈義肇か?思ったより若いな)
陸島が逆奈義肇を見て最初に思った感想は若い見た目だった。
(優男に見えなくもない。だが逆奈義家の人間なら人畜無害というわけではないだろう……さて――)
自然と腰に差した刀にそっと手を添える。
会話の最中、逆奈義肇がその時の陸島を見て困った顔を浮かべる。
「うーん……思ったより嫌われてますね」
「鉄明さん、根に持ちますから」
「え?どういう事?」
布塚は何も知らなかった。
そこで木下が過去に起きた概要を簡潔に説明する。それを聞いて布塚は『あちゃー』という声を漏らした。
「まあそれならしょうがない……ですね」
「逆奈義さん。今回の話し合いには私もいます。竹月組としてのメンツもありますのでご安心を」
「ええ、すみません」
申し訳なさそうにする逆奈義の前で木下はキャンピングカーを見上げる。
「ところで……なぜキャンピングカーなんです?」
「ああ、これですか?これならどこにいても不自然じゃないと思いまして。移動用の隠れ家とてもよいかと」
大きなキャンピングカーにつられたのは鴉田も一緒だった。
「それにしては大きいですね?これアメリカとか海外からの輸入品とか?」
「おや、わかります?流石、鴉田さん。こういった高級品にも通じているとは」
ピクリと鴉田の眉が動いた。
(まじか。こいつ俺の事を知ってるのか……。まあ当然っちゃ当然か?)
「現在ある車の中で最大サイズを選びましたからね。値段もかかりましたが」
「このクラスだと五千万くらいですかね?」
「ハハハ……ご名答です」
苦笑いで逆奈義は答える。
「まあ積もる話も中でどうぞ。未来と鈴井が待っていますので」
その後、今回の移送任務の指揮者である逆奈義肇の指示にそってメンバーがそれぞれに割り振られる。
三台の車で行われる今回の移送任務。キャンピングカーを挟んで二台のトラックが間隔を開けつつ、目的地まで進んでいく。
エンジン音が鳴り響き、任務は始まった。
そこで開示される情報が陸島にとって思いがけない気付きを与えることを知らずに。




