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「その人、今も組織にいるんですか?」
陸島が和泉島の行方について問う。
「恐らくは。十年以上音沙汰がないので死んだ可能性がありますが……ただ間違いないのは彼女のせいで魔女機関は痛手を負ったのです」
「具体的にどう負ったんですか?」
相原の問いの後、鋭い目で陸島が逆奈義肇に問う。
「大きく三つあります。一つ目に重要な魔術道具が数点盗難された事。二つ目に捕縛された危険な魔女達の逃亡。三つ目に魔女機関に仕える者達の一部が犠牲になった事。相原さんのお父さんがまさしくそうですね」
「お父さんが……」
相原は俯いた。
父の死に深く関わる人間に出会う可能性がある。それを想像した時、彼女の胸中は不安と恐怖に苛まれていた。
(もし本当にその和泉島って人がいるとして……出会ったとして。私はその人ときっと戦う。だけど……勝てるの?)
父の相原健吾を呪い、さらにその仲間たちを葬った魔女。
いまだ底知れないその者の存在には得体の知れない恐怖が少なからずあった。
(……いや、ダメ。そんなふうに弱気になっちゃ)
相原は包み込もうとする恐怖を払い、陸島をじっと見る。
その視線に気づいた陸島は彼女に視線を返す。目が合った時、相原は彼に自分の意思を伝えた。
「ねえ、陸島君。お父さんを苦しめた魔女を探すのを手伝ってほしいの。きっと大変だと思うけど……やらないと。お父さんを傷つけて仲間だった人たちを裏切ってまで、何をしようとしていたのか。それが知りたいの」
その言葉を受け取った時、陸島は目線を彼女から外してしばらく考え込んだ。
沈黙の広がる車内。その社内の空気を変えたのは、車内天井のスピーカーから響く一つの通信。
「ご当主様、もうすぐ休憩地点につきます」
「ああ、もうそんな時間か。皆さん、いったん休憩を挟みましょう」
「ええ。わかりました」
逆奈義肇の提案に返答したのは木下。
続けて木下は陸島を見る。
「鉄明さん、今すぐ答えを出せとは言いません。相手が相手なので……」
「ああ」
移送部隊の車が休憩地点に到着すると一同は外に出て外の空気を吸い始めた。
外は海沿いの道路付近に設置された休憩所。辺りには任務の同行者がちらほらといる。
「お、陸島。どうだったよ?」
一人、夜の海を眺めている陸島に鴉田が近づいてくる。
「何がだ?」
「話し合いだよ。何かこう……収穫あったんだろ?」
「まあな」
「勝てそうか?お前の探している相手に」
「勝たない以外の選択肢あると思ってんのか?」
「まあ……だよな。それよりだ」
圧のこもった目で睨まれながらも鴉田は話を続ける。
「あの逆奈義肇って人。気を付けたほうがいいぜ。なんというか……よく見た人種に似てるんだよ」
「というと?」
「……一言で言うなら、あやかりたい者達さ」
あやかりたい者達。
その言葉に陸島は目を細める。
「どういう意味だ?」
「俺がガキの頃の話だ。まだ両親の近くにいた頃なんだが……。優しい言葉を携えて俺に近寄って来た連中がいた。大方、俺がベルウィンググループの次期当主の座に近いからかもな。勿論、実際に俺があの人と話したわけじゃないが振る舞いがそれっぽくてな」
「疑わしきは罰せよと言いたいのか?」
「そこまでは言わねえ。だがもし踏み込んできたら待ったを掛けろ。逆奈義家も外崎さんから話を聞いてある程度は知ってるが、多分そういう奴がいる」
「ああ。わかったよ」
陸島とは違う目の肥え方をしている鴉田の意見を陸島は胸の内にしまった。
去っていく彼の背中を見送っているとしばらくして木下が近づく。
「鉄明さん。よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「先ほど提示された資料ですが……どうやら組にある情報と照らし合わせてみたのですが、信用してもいいみたいです。仮面の魔術師、間違いなく来るかと」
「どうする?俺に行けというなら行ってやるよ」
「まさか。相手の実力もわからぬうちに鉄明さんを向かわせはしませんよ。魔女機関の者達の中に竹月組と数名を加えて探りに出させるつもりです。逆奈義さんの言うようにしてですが」
「ああ。わかった」
陸島がスマホの時計を見る。
休憩時間の終了が迫っていた。一同はそれぞれ車に戻り始める。
「ねえ、お父様」
「なんだい?未来」
逆奈義家所有のキャンピングカーにて。
陸島が鴉田と話をしていた頃、逆奈義未来は自分の父と話をしていた。
車内には父と娘しかおらず、彼女の表情は暗かった。
「さっきの話……全部本当だったんですか?」
「……ああ。本当だよ」
「お父様はどこまで知っているのです?いつから知ったのですか?」
「……未来が生まれてからしばらくかな。本格的に知ったのは、和泉島麗華が裏切った頃だね。耳に入ったんだ。深夜、苛立ったお母様の声を偶然耳にしたんだ。魔女機関の情報を自分が流す役割をしていたことを見知らぬ者に言いながら。しばらくしてお母様はこの世を去った。多分謀殺の可能性がある」
謀殺。
その言葉に逆奈義未来は震えた。
「魔女機関によるものか、組織によるものか。いずれにせよ、私は魔女機関に助力を願った。それから一つの指示が下った」
「……スパイを送れということですか?」
肇は静かに首を縦に振った。
「お前には体のいい情報しか与えてこなかった。魔女機関の指示で母は組織との戦いで死んだことになり、我が逆奈義家は力ある家だと。幼いお前に構ってやれなかったのがまずかった。外の世界である程度教育を積んでそれからここに来て……でもお前は家柄と力に酔ってしまった。それは私の責任だ。だから四月に……彼に……」
「もういいですお父様」
父の懺悔を娘は止めるように口を開く。
「私の家がとんでもない悪党とつるんでいた。それだけで今は十分です」
虚ろな目で未来は外を見た。
満天の星空の光が彼女の心を焼くように照らしていた。
「いつかは組織に忠義を誓いながら、機関に情報を流す。その役割をしてほしい。それが逆奈義家の今後の在り方になる」
「……はい」
ガラリとドアが開く。
陸島と先ほどの面々が車に乗り込んできた。同時に車内天井のスピーカーから声が響く。
「ご当主様、準備が出来次第、出発を」
「ああ。こちらはいい。二台のトラックは?」
「大丈夫で――」
その時、車内のスピーカーが音を響かせた。
「なんだ?」
陸島が眉を潜ませる。
耳に響いてきたものを彼なりに例えるなら、警告のような音。
「どうした!?」
「敵襲です!どうやら向かう先の機関の拠点に襲撃があったようです!」
「え!?」
相原が目を見開いて驚く。
不安が広がる車中で冷静に木下が発言する。
「どうやらトラブルのようですね。いかがします?」
「そうですね……相手によります。敵の戦力は?」
「はい!報告によればどうやら兵が十六名、魔女も四名の少数のようで……あ!今、魔女を一人倒したと連絡が!」
「ふむ、それならば……」
「潰しに行くなら行きますよ」
考え込む肇の前で陸島が刀を手に握って呟く。
彼のぎらつく瞳の輝きを見て肇は決意した。
「そうか……それなら、お言葉に甘えようか」




