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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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28-2

「そうだったのか。僕はてっきり戦いに明け暮れていたのかと」


「あら?蛇島君は私の事、戦闘狂と思ってましたの?」


 燦央院がからかうような声を蛇島に向ける。

 はにかんだ笑みで。


「ああいや、そういうんじゃないんだ。僕らはいきなり戦いの舞台に立ったから燦央院さんも同じように戦いまくっていたのかなって」


「そうですわね。今回は布塚さんに木下さん……それにトパーズ・グラスの方々もいらっしゃったようですし。で、どうでした?戦いの舞台に立ってみた感想は?」


「そうだな……」


 蛇島は燦央院の質問にしばらく考え込む。


「やはり習うより慣れろ、かな。今回僕は後方で魔術を振るってただけだが……次は前に出れるようにはするさ」


「その調子ですわよ。でも油断召されぬように。何せ今回の相手は下っ端もいいところですから」


「そうか……精進するさ」


 蛇島と燦央院のやりとりをよそに陸島は部屋を出ようとしていた。


「おや鉄明さんどちらへ?」


「聞きたいことは十分だ。任務が出たら呼べ」


 ぴしゃりと襖を閉めて部屋の外に出ていった。

 その姿を見て溜息を吐いたのは鴉田。


「全く二人は……どこでも構わずいちゃついちゃってさ。おかげでアイツ出てっちゃったよ」


「しとらんわ!!」


「してませんわよ!!」


「でも顔が赤いぞお二人さん?」


「やかましい!!」


 顔を赤らめ、必死に否定する二人に龍弦が笑い声をあげた。


「はっはっは!!若いのお主ら。できればそうしたやり取りが続く日々がええわい」


「一理ありますね。人目は気にしてほしいですが」


「そんな、木下さんまで……」


 微笑みながら注意する木下に蛇島はしょんぼりとしていた。

 一方、陸島は自室に戻るために屋敷の廊下を歩いていた。


(昨日の戦い……勝つことはできた。鉄の魔術、使えるぞ。精霊はいなくともやってはいける。だが――)


 掴んだ収穫の裏で昨日の戦いで目にした強き魔女の斬撃を思い返していた。


(ドレッサー・ドレッド……紅崎桐音ねえ。あんなのがこの先出てくるとなると、もっと力を付けなくてはな。それにしてもあの従者のやつは何者だ?紅崎が気にかけているのを見るとただ者じゃない)


 紅崎の近くにいた頭部に包帯を巻かれた者を思い出す。

 叫び刀を振りまわすその存在を。


(気のせいだったか?アイツ、俺を見た途端に叫んだような――)


「あ、陸島君……」


 その途中で相原が陸島の前に現れる。

 彼女の表情は元気がなく、しょんぼりとしていた。


「なんだ?任務なら連れて行かないぞ」


「そんなこと言わないで」


「そもそも任務がないからな」


「……いじわる」


 頬を膨らませる相原。

 陸島はどこ吹く風の気分だった。


「そうだ。ツバキちゃんだけど……今は落ち着いたみたい。こっち戻ってからうなされてばかりだけど、」


「知らん。あいつは嫌いだ」


「……陸島君にとっては憎まれ口叩かれて気分が良い訳じゃないのはわかってる」


 相原は陸島が流山からちょくちょく毒を吐かれていたのを知っていた。


「でもね。ツバキちゃんは私にとって大事な友達なの」


 顔を上げて相原は陸島に語る。


「だから……あまり酷いことを言わないで」


「そうかい。じゃあそいつが良くなるまで傍にいればいい。できればずっとだ」


「……むー」


「なんだ?間違ったこと言ったか?」


「もういい。知らない」


 そっぽを向いて相原は陸島の前から立ち去った。

 陸島のあまりの冷たさに呆れたのだ。


(どうして……そんなに冷たいの。嫌いだからってそんな……)


 相原は冷めきった陸島の感情がいまだに理解できていなかった。


(あの精霊が……鉄の精霊が理由だとしてもひどいよ)


 彼女は内心では怒っていた。

 去り行く相原の背中を目で追う陸島。その間、彼の胸中で何かがざわつく。


(なんだ……?今の感覚?)


 彼は周囲を見渡す。

 その時だった。


「この馬鹿垂れがぁ!!」


 屋敷のどこかから叫び声がした。


「なんだ!?敵襲か!?」


 慌てて陸島は声のした屋敷内の客室に向かう。

 声のした部屋のドアの前に立つ。


「ここか……?」


 部屋の前に立つ陸島。


――というか今の声、聞き覚えがあるな


 そんなことを思いつつ、ドアノブに手を伸ばしその先を見た。


「ったく、何が『自分たちがいるから平気です』だ。お前はともかく、怪我人出しやがって……」


 その先には正座でタブレットの向こうの人間と会話をしている布塚の姿があった。その腕に包帯を巻いて。

 彼女の表情は青ざめており、陸島から見て今にも舌を噛んで死にそうに見えた。タブレットの中には陸島の予想通り、三田川の姿があった。


「申し訳ございません……まさか下っ端の施設で、あのようなものを隠していたとは思ってなくて」


「お前それでよくリーダーに立候補したよな?」


「申し訳ございません!」


「それしか言えねえのかお前はよぉ!!」


(……阿修羅か?あれ)


 怒号がさらに響く。

 冷や汗を流す陸島は叫ぶ三田川に阿修羅の影を見た。


「……ん?陸島君?」


 布塚と陸島の視線が重なった。

 正面から見て陸島は理解したが、布塚の表情は想像以上にぐちゃぐちゃだった。


「え?陸島君そこにいるの?」


 三田川は阿修羅の相から一転して笑みを見せた。


「いますいます」


 布塚は陸島に目線と表情で『こっちに来て!でないとアタシ死ぬ!!』と送る。

 情けないその態度に陸島は思わずタブレット前に座り込んだ。


「おお、陸島君。どうだった任務は?二回目だけどこのドアホに邪魔されなかった?」


「おかげさまで無事に帰れました」


「ほう。その辺の話は嘘じゃないみたいね」


「ドグマとやらを受けた際は少々焦りましたが――」


「あ”?」


 再び三田川の顔が阿修羅へと変わる。


「おい、どういうことだ布塚?」


「え、ええっとですね……敵がそういうタイプのドグマを使いまして。でも――」


「言い訳はいい!お前本当に命預かってる自覚あんのか!?」


「ひぃっ!!」


 画面越しの気迫に布塚はおろか、陸島も思わず後ろずさる。


(これが……暴虐の二つ名を持つ魔女の所以か)


「で、陸島君。本当にけがはないの?」


「ありませんよ。返り討ちにしてやりましたからね」


 得意げな笑みで陸島は笑った。

 その表情に三田川もほっとした顔を浮かべる。


「そう……成長、早いわねえ。ウチの息子みたいにぐんぐん伸びてくわね?」


「息子ですか?」


 息子の話題になった時、三田川は遠い目をした。


「ええ。下の子、今年で九歳になるのよ。飯食う量も身長もホント伸びてて……熱中症とかになってなければいいけど」


「三田川さんの息子なら大丈夫ですよ。私よりしっかりして――」


「お前は黙ってろ」


「はい」


 しゅんとなる布塚をよそに陸島は三田川と会話を続ける。


「で、陸島君。その魔女の首とやら平気だったの?なんか陸島君も光を浴びたみたいだったけど……?」


「ああ、大丈夫でしたよ。多分あれは俺を見てませんでしたので」


「そう。少しでも体調に不安を感じたら休みなさい。戦場に貴方より長くいた私の意見よ」


「わかりました」


 タブレットPCの前でお辞儀をして陸島は部屋を出た。

 しばらくしてまた怒号が屋敷に響いた。


(さて……しばらく休みか。朝のランニングは済ませたし次は……)


 陸島は次の任務までの時間を修行で費やそうとしてしばらく考えていると、あることを思いだした。


(そういえば今朝のランニングで隼人に言われて気づいたが最近、悪夢を見てないせいで寝つきがいい)


 陸島が日々見ていた悪夢というのは牙谷たちが殺される夢。

 見ない日がなかった方が少なかったと思えるほどだったが、ここ最近は見ていなかった。


(悪夢を見なくなったのは……あの日からか?)


 あの日と言うのは陸島が相原と戦った後である。

 後で聞かされたが陸島の内にいた鉄の精霊を相原が追い出したという報告があった。


(仮にそうだとすれば……貸しを作っているな。俺は。出来ることと言えばせいぜいが敵討ちだが)


 頭に浮かんだ相原紫苑の姿。

 だが今の陸島が彼女のに出来るのは敵討ちが精いっぱいだと彼自身は考えていた。


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