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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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28-1 人が傷を作る。傷が人を作る。

「……そうですか。あの男は既に研修で」


「はい」


 陸島たちが任務を終えた次の日。

 本州にある逆奈義家の屋敷にて、テーブルを挟んで逆奈義未来と彼女の従者である女性、鈴井が陸島たちが向かった任務について結果の詳細を伺った。


「私が聞いた限りですが……どうやら陸島は組織の魔女相手に勝ったと報告が出ています」


「……強いですのね。ウォーロックというのは」


 テーブルの上には数枚の紙が並んでいた。

 その内の一枚を手に取って眺めると、逆奈義は沈んだ気分で息を吐いた。


「燦央院家のお嬢様にトパーズ・グラスのリーダー……一番に気になったのはウォーロック四人の参戦。どういった意図があるのですかね?」


「組織に対するメッセージではないでしょうか?もうばれているのは間違いないでしょうが、すでに戦えるレベルにいるというメッセージを送りたいのでしょう」


「ああ、そうでしょうね」


 鈴井の意見に逆奈義は顔をしかめた。


「まあ悪い話ではないのですが……このウォーロックで筆頭を務めているのが陸島と言うのが納得いきませんわね」


「どうやら組織に対して強い恨みを持っているようですね。報告書によれば組織の兵に臆することなく突っ込み、血の池に沈めたと」


「あの時より力を付けているというのですか」


 逆奈義は反射的に左腕をぎゅっと握った。

 四月のあの日、切り落とされた腕にはいまだに陸島鉄明に対する恐怖が切り刻まれていた。


「……まだ痛みますか?」


「いいえ」


 鈴井は心配そうな目で逆奈義の左腕を見ていた。

 その胸中にはあの日守れなかったという悔しさが渦巻いていた。


「そういえば……お父様はなんと?」


「お父様ですが、近々外に出ても良いと。ただ、暑い日が続くから水分補給しつつ出かけなさいと」


「そうですか。お父様の方が大変だというのに……」


「ああそういえば任務が一つお父様の方から出ていますが……どうでしょう?参加されてみては」 


「え?私がですか?」


 鈴井の提案に逆奈義ははっとなった。

 意外だったらしい。


「移送任務ですね。武器などを所定の場所に運ぶ任務です。重要な魔術道具を運ぶ任務じゃないので、まだ参加したことないお嬢様にはよいかと」


「移送任務ですか……」


 鈴井はそばにあったノートパソコンを操作し、一つの画面を映した。

 それを逆奈義はじっと見つめる。


「ふむ……これなら私でも良いかもしれません。家で籠って勉強ばかりじゃ飽きますから。何よりあの陸島に水をあけられたままじゃ癪に障ります」


「わかりました。では手続きはこちらで済ませておきましょう」


 逆奈義は移送任務への参加を志願した。

 彼女は自然と拳を強く握っていた。鈴井はそれを見てどこか笑っていた。


(よかった……。どうやらお嬢様も元気になったようで)







「ドレッサー・ドレッド……か。いきなり大物に出くわしたの皆」


 一方、橘樹邸の要人達が住まう屋敷。

 広間の一つに龍弦、木下の二名と陸島含めた四人の学生が集まっていた。


「で、部下たちの報告を纏めると……どうやらあの廃病院は『臨時で』倉庫の役割を果たしていたようじゃな」


 この日いた学生は陸島、鴉田、蛇島、燦央院である。今、そこでは先日の廃病院への奇襲任務に関する調査報告書をそこにいた面々で読みあっていた。

 纏められた報告書の束を各々見ている中、蛇島が手を挙げる。


「あの、臨時の倉庫と言うのはつまり……もっと大きな倉庫があると?」


「うむ。あれより大きな拠点を奴らは持っておる。あの廃病院は元は組織の末端連中のアジトだったようじゃが最近になって倉庫代わりに一部を使っていたらしい」


 龍弦の返答に蛇島は固まった。

 報告書の文字の海は組織の残酷な振る舞いに関する実態を黙々と述べていた。それが蛇島には信じられなかったのだ。


「それで連中は何をしてたんだ?取引だけか?」


 沈んだ空気に陸島の問いが投げられる。


「あの倉庫ならそれだけじゃろうな。連中は何かを目論んでいる。単なる金もうけだけじゃないのは確かじゃな」


 龍弦はやれやれという表情を浮かべていた。

 燦央院は龍弦の言葉の後に自分の意見を述べる。


「金儲け以外……となりますと、実験でしょうか?何かを生み出そうとしているとか」


「それじゃろうな。兵器……というよりは魔術道具じゃろうな。それも人間を使った外道の限りを尽くした物じゃ」


「うげ……気持ち悪いってレベルじゃねえな」


「嫌なら降りていいぞ」


 鴉田の言葉に陸島が冷たく返す。


「おおっとそれは断るぜ陸島さんよ。ここまで来たらやれることはやるさ」


「……じゃあ勝手にしろ。葬式は参加しないからな」


 葬式は参加しない。

 その文言に蛇島の目が細くなった。


「君と言うやつは本当に人間かね?この馬鹿でも香典は出さずともせめて顔くらいは見せるべきだろ」


「お前らこの鴉田様をバカにしてんのか?」


「ちょっと、話を逸らさないでくれます?」


 燦央院のツッコミも混ざってぎゃあぎゃあと言い合う学生たちに龍弦は思わず笑う。


「まあまあ落ち着くのじゃ。それで今後じゃが……しばらく任務の方はなるべくこの任務に関係しないものにするつもりじゃ」


「なんでだ?情報から割り出して組織の次の拠点を叩きに行けばいいだろうが?」


 陸島の攻めを示す言葉に龍弦は首を横に振った。


「そうしたいのは山々なんじゃが、情報の精査に少し時間がかかっておる。思ったより大きな情報でな。それに負傷者も出ておるじゃろ」


「負傷者?」


「流山さんじゃよ。あの倉庫で魔女の首……正確には犠牲になった上田さんか。そのドグマを受けたようでな。お前、流山さんが心配じゃないのか?」


「どうでもいい」


「フンっ!!」


「ぐはっ!!」


 陸島へ龍弦の拳骨が一発。

 負傷者に対するこの態度。当然である。


「何すんだジジイ!!」


「何すんだじゃないわ!お前それでいいのか!!」


「当たり前だ!!」


「……それ以上仲間に毒を吐くなら今後任務には参加させんぞ」


「なんだと……!?」


 いがみ合う二人の合間に木下が割り入る。


「二人とも、その辺にしてください。親父さんも医者に血圧指摘されてるんですから。鉄明さんももうちょっと味方には優しくしてくださいね」


「……まあそうじゃな」


「……けっ」


 不服そうな顔でいがみ合いは終わる。

 ひりついた空気の中、鴉田が慌てたように問いを投げる。


「ああそういや流山さんの具合はどうなんですか?」


「今は安静にしておる。治療に携わった魔女の話では恐らく魔眼による精神攻撃を受けたものとされておるわ」


「魔眼?」


「うむ。鴉田君はこの世界に身を置いて間もないからわからんかもしれんが、特殊な力を持った眼じゃな。魔女が持つ固有の魔術、ドグマの一つとされていてな。発動条件は魔女によって異なるが、それ単体でも効力を発揮するそうでな。報告の限りじゃ、多分パーツ取りされて最小限まで残った状態じゃろうな」


「ぱ、パーツって……」


 人を人とも思わぬ組織の悪行に対し、鴉田は震えた。


「倉庫の中の犠牲者たちは恐らく青釜にいた者たちが殆どじゃろうな。青釜の拠点だったビルは中の殆どに焼け跡があった。焼死体、あるいは燃えて亡くなったように見せるためだという報告があったが、まさかあそこに持ち込まれていたとはの」


「……なんて奴らだ」


 組織の悪行に震えていたのは蛇島も同じだった。


「とはいえだ」


 龍弦は気持ちを切り替えて学生たちに向き直る。


「今回の任務、初めてだったにもかかわらず、大健闘だったとわしは思うぞ。ドレッサー・ドレッド相手に生きて帰ってこれたことも、いきなり収穫を得てきたこと含めてな。流山さんが負傷したしまったのが悔やまれるが、こうやって殆どが無事に生きて帰って来ただけでも凄いと思っておる」


「ええ。そうですわね」


 龍弦の評価に燦央院が首を縦に振る。


「布塚さんから招集があった時はちょっと不安でしたが……本当にやれるとは思ってませんでした」


 ほっと胸を撫で下ろす燦央院に蛇島が疑問の目を向ける。


「あれ?燦央院さん過去に何度か任務を受けてたのではないかね?」


「ああそれですか。そうなんですけどああいう組織と戦う任務はそんなに受けてませんの。移送任務など戦い以外の任務が多かったですわね」


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