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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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27-5

 陸島は十手を仕舞って刀を構え、命を奪うと言った目の前の魔女の威迫に負けず、睨み返す。


(さて……まだ『狙い』には気づかれていないようだが)


 陸島は呼吸を整えながら戦略を思案する。


(こいつの魔術は二つある。一つ目にあの手だ。ドグマだか何だか知らんがこれは対象を移動させる技だ。これをどうにかしてヤツに一撃を叩き込む必要がある)


 その場から離れつつ、魔女は思案する陸島にお構いなしに炎を放つ。

 それに対し、大地の魔術で起こした分厚い地の壁で塞ぐ。


(二つ目に炎の魔術。あのお嬢様のように相手を燃やす魔術だ。回避しつつ炎による攻撃で相手を倒す。単純だが面倒だな)


 陸島は細い廊下の奥に逃げた魔女を追いかけると同時に、十手にて魔術を一つ振るった。その時、逃げる魔女の先に壁ができた。


「おおっと!」


「逃げてもいいですよ!怖いならね!!」


 挑発に魔女は眉を動かす。


「ふふ、元気ね貴方!それじゃあ――」


 魔女は足元より勢いよく現れた黒い手に自らを掴ませ、その場から沈んで消えた。


(壁の向こう、そこから壁を崩しつつ攻撃を叩き込む!)


 下に潜行する中で攻撃のプランを練り、魔女は少し移動した先で床下から姿を見せる。


「さ、決着としゃれこみましょうか!」


 その手に握られた杖で先ほどの一撃より練り上げた小さな炎の弾丸を精製する。

 視線のその先には陸島がいた。

 壁は崩れていた。


「あ――」


 陸島は杖代わりの十手を口に加え、両手を廊下の前後に向けて広げて魔力をその手に練りこんでいた。赤黒いうねりが両方の手のひらの内で蠢き、その状態で陸島は構えていた。


――しまった。これが狙いか


 魔女は痛恨のミスをしたかのような顔を浮かべた。

 陸島の方が一手先を読んでいたのだ。


――もし奴がまた潜ったら壁の向こうから攻撃を仕掛けるだろう。あの黒い手は連続して使えない。ラグがある。それならば潜ったと同時に壁を崩す。そして奴の気配が周囲から少しでもしたら……!


「じゃあな」


 鉄の魔術は廊下の前後に放たれた。片方は何もない道をまっすぐに進んだ。

 もう片方は魔女のいる方へ勢いよく進み、やがて彼女に命中した。


「ぐう……!?」


 先ほどと同じように魔女の内に歪なる闇の記憶が注ぎ込まれる。

 斬られ、叩き潰されるその記憶が。


「うああぁぁぁぁっ……!」


 刻まれる記憶にて絶叫する魔女の杖に宿っていた炎は魔女の発狂によって分散し、その火は消えた。

 落ちた杖を見て陸島は勝機を見た。


(ここだ)


 瞬時に駆け寄り、一閃を叩き込む。

 辺りに血のしぶきが広がる。


「ぐあぁっ!」


 己の体から溢れる血に引き寄せられるように魔女は倒れた。


「勝負あり、だな」


 血の付いた刀を翻し、陸島は勝利を確信した。

 魔女は呼吸を荒げながらも立ち上がる。


「ま……まだよ。ここで死ぬわけには――」


「そうかい」


 更なる一閃を魔女が襲う。

 もだえる声がして、ついに魔女は倒れ、動かなくなった。


「……ふう」


 その場に広がる沈黙が戦いの終着を教えてくれた。

 立ち尽くす陸島は返り血のついた刀を見つめる。


(ひとまずは勝てた。前進だ)


 握った勝利の輝きに顔がほころぶ。

 だがその膝は崩れた。


「う……!?」


 全身に痛みが走る。

 先ほどの魔女との戦いで受けたダメージが体中をめぐっていた。


(くそ……思ったよりダメージが大きかったか。こんな調子じゃだめだ。もっと力を……つけなくては)


 立ち上がって先ほどの霊安室前の少し広い場所まで戻る。

 周囲からは人気はせず、上から銃声が度々響いていた。


(まだ戦ってるな。そういえば布塚さん達はどうなった?多分さっきのやつがここのボス……なんだろうが、なんか釈然としないな)


 遠くで倒れている魔女を見て、近くのベンチに座りながらあることを思い返す。

 それはこの場所を襲撃する前にあった青釜の壊滅についてだ。


(木下の話だと青釜は組織の魔女の襲撃を受けて壊滅した。それはわかる。だがさっきの奴が本当にやったのか?俺のような駆け出しに殺される奴だったか?青釜の奴ら。あの矢野と言う女、一度しか会ってないが、それなりのやり手だったはず――)


 染み込んできた違和感の追跡の中で陸島の耳は何かを捕えた。

 荒々しく廊下に響く音を。


「なんだ……?!」


 とっさに刀を構え、陸島は廊下の音のする方を見る。

 奥の曲がり角よりそれは迫って来た。


「ガアァァァァァッ!!!」


「あれは……!?」


 陸島が視界にとらえたのはその者が刀を持っていたという事。

 それを一番に理解し、陸島も刀を構える。


「グオオオッ!!」


 飛び上がるや否や、それは陸島目掛けてその刀を振り下ろした。

 灯りに照らされたそれは口以外の顔全体に血が一部にじんだ白い包帯を巻き、シャツを着ておらず、マントを代わりに羽織ったジーンズを履いた服装の者。男だった。


「なんだこいつは!?」


 振り下ろされた刀を刀で受け止め、周囲に刀のぶつかる音が響く。

 相手の刀より発せられる圧に、陸島は押されているという感覚を否応なしに理解した。


(強い……それだけはわかる。だがなんだこの荒々しさは?普通じゃない。化け物か?)


 包帯の者はしばらく押し合った後、いきなりその圧を緩めた。


「しまっ――」


 化け物と呼んだその者の意外な手に陸島の対応は遅れる。

 前のめりになり、包帯の者は後ろに下がりながら次の一閃を構えていた。


――やられる!


 全身でそれを理解する。

 だがしまっていた十手の感触が焦る陸島の意識を引っ張った。


(いや、まだだ!)


 全身に魔力を込める。

 斜めに大地を屹立させ、敵の腹に勢いよく激突する。


「グアァッ!?」


 痛みに包帯の者はたまらず後ろに下がる。

 陸島は荒れた息をそのままに後ろに下がった。包帯の者はこちらを睨んで、武器を静かに構えなおす。


(新手か?こんなやつがいるなんて聞いてないぜ布塚さんよ)


「ハウス!」


 戦いの最中、手を叩く音と同時にその言葉が響く。

 包帯の者はそれまで纏っていた殺気が解け、後ろに下がった。


「なんだ……ハウス?」


 思わぬ言葉に陸島は困惑して後ろに下がった者の先を見る。

 するとそこには見知らぬ魔女の姿が見えていた。


「こんばんは。貴方が陸島君ね」


 魔女の服装は先ほど戦った黒い手の魔女と同じようにスーツを着ており、短くまとまったその黒髪からは悪人とは思えない誠実さが見える。


「いやあ、まさか彼女を倒すなんて驚いちゃったわ」


 嘘である。

 陸島はそれをその女の顔つきで理解した。怪しく笑っていたのだ。


「……ああ、あんたか?青釜をやったのは」


「え?ああそうそう。そりゃもうざっくばらんに」


 軽い口調で彼女は答える。


「ああでも私一人で行ったわけじゃないのよ。そこで倒れている奴いるでしょ?そいつに事後処理がてら焼き払ってもらいながらやったからね」


「そうか」


「で、どうする?仇とる?」


 その軽々しさから出た言葉に陸島は眉をひそめた。


(なんだこいつ……さっきの魔女とは違う。何か得体がしれない。掴みようがない。特に隣のやつ)


 陸島の視線は魔女の隣にいた包帯の者に移る。

 包帯の者は魔女の指示で顔を伏せてひざを折っていたが、その手に握った刀は未だ力強く握られたままだった。


(……ああ、わかったぞ)


 警戒しながら陸島は魔女を再度見た。


(こいつ、次に何してくるかわからないんだ。いや違う。もう戦いの姿勢を作ってる。今気づいたがさっきから今までの内で既に俺を倒せるんだ)


「ん?ああ、ごめんなさいね。さっきまで戦ってたから」


 陸島の警戒する視線に気づいた魔女は肩に入っていた力を抜いて戦いの姿勢を解いた。その様子を見て陸島は張り詰めた雰囲気が溶け出すのを理解した。


「なんだ?どういう意味だ?」


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