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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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173/213

27-3

「ふむ、どうやら始まったようね」


 一方で布塚率いる突入部隊は病院周囲の木々を抜け、裏口近くの林に潜んでいた。

 布塚は表の騒ぎが耳に届き、作戦開始の合図を受け取る。


「それでどうしますの?裏口の方も見張りがいるみたいですけど」


 燦央院は隠れながら裏口の方を見る。

 そこには二名のスーツを着た男が銃を構えて周囲を見張っていた。


「ふむ……倒してもいいけど、それだと時間がかかるわね。できればスマートに行きたいわね」


「なら俺の出番ですね」


 そう言って周囲の視線を集めたのは鴉田。

 手に持った自作の銃であるレールガンを構えた。

 鴉田春一お手製のレールガン。幾度の改良を重ねた結果、彼の銃は最初に作られた大型の頃に比べ、全体の厚生や最低限必要な式や部品を割り出すことで小型化に成功した。威力こそ初期の方に比べれば劣るが、それでも戦闘面においては十分な成果を上げるのに問題なかった。


「敵は二人、俺の銃も二丁。ならば――」


 引き金を同時に引いた。

 瞬間、二つの閃光が走る。

 何かに気付く前に見張りの二人は駆けぬける閃光に打たれ、倒れた。


「おお、やるじゃないですか!」


 その攻撃に感心した流山は興奮を隠せなかった。


「ふむ……意外と侮れませんわね」


「でしょでしょー?」


 燦央院も鴉田の銃撃に感心していた。

 鴉田の笑みはさらに深く……というか気持ち悪いくらいになっていた。


「うわっきも。だから貴方外崎さんに振られるんですよ」


「ちびっこに言われるときつい」


「なんだとこんにゃろー!」


「はいはい、いいから」


 布塚は喧嘩する二人を抑え、周囲を見る。


「よし、あそこから潜入するわよ」


 布塚は一点を指さした。

 陸島はその先を見て、しばらくして納得した。


「まあ、いいですよそれで」


「決まりね。少しプランにアレンジを加えるわよ」







「敵は何人いるの!?」


 その頃、廃病院二階の中央付近にあるスタッフ休憩所にて陣取っていた組織の魔女は声を荒げて近くの部下に確認を取っていた。


「正面に二十人以上。恐らくウォーロックもそこにいると思います!」


「なんですって?厄介ね……」


「といいますと?」


「聞いてないの貴方!?ウォーロックは生け捕りにしろって上からの指示あったのよ!」


 大声で叫びながら杖を取り出し、苛立ちながらドアを開いて廊下に出る。

 二階の廊下は足元に見える程度の灯りがついている程度で、闇が半ばある空間となっていた。

 魔女は数名の部下にその場所にいるように指示をしてから無線を取り出した。


「裏はどう?誰かいる!?」


 魔女の苛立つ声に無線は何も返さなかった。


「ちょっと聞いてる!?ねえ!」


 だが沈黙が帰って来るばかり。


(前の方から来る。それはわかる。でも裏の方から挟み撃ちもあり得る。ならばそこを少し手薄にして誘って叩いて相手の挟み撃ちの算段を外したい……ってのに!)


 苛立つ彼女はまだかと返答を待つ。

 同時に足元に振動と大きな音を耳にした。


「これは……っ!裏口からか!」


 左を向いて、中央の階段に向けて足を走らせようとしたその時、彼女の視線と意識は中央の方に完全に向いていた。


(予想通り。相手がそう来るのなら正面に仕掛けたブービートラップで返り討ちよ!)


 それがまずかった。


「はあっ!」


 勢いのある戦斧の一閃が彼女を後ろから切り開いた。


「ぐあっ!?」


 魔女は切り裂かれながら後ろを見る。

 そこには長いストレート髪を振るわせながら戦斧を振るったセーラー服の少女がいた。


(バカな……いつの間に。裏口はどうなってる!?)


 疑問の答えがわからぬままばたりと倒れ、意識を失う魔女。

 燦央院に続いて布塚達が駆け寄る。


「すごいわね……そんな重たいもの持って一気に詰め寄れるなんて」


「鍛えてますから」


 重そうな戦斧を軽々振るい、駆け巡った燦央院の姿に布塚は褒めながら目を見張った。

 布塚達は裏口から侵入するはずだったが、予定を変更した。裏口から入るという敵の予想をかいくぐるのが狙いだった。表の騒ぎを聞いて裏口にも増援が来ると予測した布塚は不意打ちを行いつつ進むために二階の窓際にある病室の窓から潜入するプランを立てた。二階には陸島と布塚が蔦を巡らせることで二階の病室まで登り、裏口には流山が口寄せで呼んだ大蒲のフロウが現在暴れている。


「さて、どうします?裏口に私のフロウを呼んでしばらく囮になってもらい、その間に二階の隅にある部屋から潜入したのはいいんですが……」


「ふむ……地下の方ねやっぱり。霊安室が怪しいと思うわ」


「霊安室かー。流山さん大丈夫?こわくないでちゅか?」


「ぶち殺しますよ」


 鴉田の煽りにキレる流山。

 でもその内心は案外平穏ではなかった。


(どうしよう。マジで何かいたら。でもここでビビったら淳吾に――)


「ぎゃあああっ!?」


「うわあぁっ!?」


 その時、悲鳴が響いた。

 悲鳴は布塚達のいた近くのスタッフ休憩室から。


「今のは!?」


 戸は開いており、布塚が隠れながら室内を見る。

 するとそこには数名の倒された敵と、血に濡れた刀を持った陸島が怯えている一人に刃を向けていた。


「おい、お前らのボスは誰だ?どこにいる?」


「あ、ああ……」


 怯える部下は目の前の陸島から視線を自然に周囲にずらす。

 一瞬だった。何者かが部屋に入ったかと思えば、抜刀から繰り出される斬撃の乱舞にバサバサと斬られた。反撃の余地などなかった。銃もナイフも構える間もなく、あっという間にそこにいた者たちは一人を残して倒れていた。


(うわあ、えげつねえ。陸島のヤツ、そこまでするか?)


 辺りに広がる血の海に鴉田は思わず目を細めた。


「ちょいちょい陸島君。先行しすぎ」


 周囲の血の池を気にすることなく布塚は前に出て陸島を優しく叱る。


「な、なんだよお前……!?味方じゃないのか!?」


「のんきかましてないで答えろ」


 前の敵の肩に刀を沈ませる。

 鈍く輝く刃に部下は苦悶の悲鳴を上げた。


「ボスはどこだって――」


 その時だった。

 陸島を何かが覆った。黒いそれは人間の手のような形をしてぎゅっと握っていた。


「なに!?」


 陸島が驚く間もなく、それは彼とともに消えた。

 後には怯える敵の部下と布塚達が残された。


「え!?なんだ今の!?」


 目を見開く鴉田に布塚はしまったと声を上げた。


「ドグマね!やっぱそれなりの使い手はいるか!」


「ド、ドグマって?」


 困惑する鴉田に布塚は簡単に説明する。


「言うなれば魔女の隠し玉。属性の魔法とは違う独自の魔法よ!」


「ハハハ……黒手さんにかかればあんな奴イチコロだ!」


 刺された方を抑えながら、部下は手榴弾のピンを抜いた。


「げっ!やばい!!」


「捕まるくらいなら、くたばっちまえ!」


 突っ込んでくるその者に流山は驚く。


「なんてね」


 瞬時に流山は笑った。

 そして高速で印を結ぶ。勢いのある水流が彼女から部下へ叩き込まれ、窓を破って外に追い出される。


「うわーっ!」


 そのまま外で手榴弾による大きな爆発が響いた。


「で、どうします?陸島……の死体はどこにありますかね?」


「いやいや死んだと決めつけるには早いって」


 流山の言葉に布塚は焦らず否定する。

 なお、この時流山の口元は笑っていた。


「地下ではなくて?下の方から何か嫌な魔力の気配がしますわ」


「違いないわね。急ぎましょう!」


 布塚達はそのまま地下を目指し、急ぎその部屋を出た。

 一方で陸島は廊下にいた。


「ここは……?」


 辺りを見渡す。さっきまでいた二階の廊下とは違うのはわかっている。

 周囲には冷たい風が流れており、足元には先ほどと同じ蛍光灯の灯りが、そして左側には霊安室と書かれたプレートの張られているドアがあった。


(さっき見せられた地図によれば……ここは地下か?)


 先ほどの作戦会議で見せられた地図を思い出す。

 霊安室のあった場所は病院地下一階で間違いないはずだと。


「ってことは――」


「ようこそ。ウォーロックの坊や」


 陸島の後ろから声がした。

 声の主に陸島は身をピクリと動かす。


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