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「これで全員ですかね?」
「あ、すみません!」
木下が周囲を見ていると、遠くから鼠川が駆け寄って来た。
それを見て数を確認して木下は首を縦に振った。
「八人全員揃いましたね。では早速――」
「待て。木下」
木下が説明を始めた時、陸島がそれを怒り気味に遮った。
「なんで全員いる?研修かこれは?襲撃は嘘か?」
「いいえ。本当です。全員の手を借りる必要がありました」
「……俺とお前と布塚さんで事足りるんじゃないのか?」
陸島は燦央院と布塚と木下をそれぞれ見た。
「まあ確かに上位三人を選ぶならそうなんですがね……敵も増援を呼ぶと考慮した場合、これくらいがいるんですよ。鉄明さんはまだ戦いの舞台に出て日が浅いのでわかりにくいかもしれませんが、組織もそれなりに大きいから人数も予想以上に多い時があるんですよ」
「へえ。それは知らなかったよ」
不機嫌に彼はそう言った。
「さて、話を戻しましょう。布塚さん。タブレットは?」
「はいここに」
布塚はタブレット端末を操作してある者を表示した。
それを周囲にいる者たちに見えるようにした。
「これは……病院の見取り図か?」
「そう。あの元精神病院の見取り図ね」
一同はその見取り図を見た。
周囲を木々に覆われたその病院は二つの建物で構成されており、病院本館と裏の入り口から先に進んだ所にある別館。別館は過去に起きたと言う火事のせいで原型をほぼ留めておらず、本館のみが残っていた。
中央に庭のある本館は屋上に加え、地下一階と地上二階含めて三つのフロアで構成されていた。
門を通った先にある一階入り口正面には受付があり、左右に伸びた通路の途中それぞれに診察室や待合室がある。
二階には患者を入院させる部屋で殆ど構成されており、地下には霊安室や倉庫などの部屋がある。
「あの、精神病院って言いました……!?」
鼠川は思わず声を漏らした。
「ああ、でもさっき言ったけど『元』ね。もうだいぶ前に閉鎖して今はただの廃墟になってるわよ。私の部下に調べさせたからね」
「なんだ鼠川。怖いのか?」
震える鼠川を鴉田が茶化す。
「いやだってそういう所って怖い話多いというか……幽霊とか出そうじゃん?」
「そうねえ。廃病院って幽霊とか危ないものがセットってイメージあるわね」
「馬鹿馬鹿しい。幽霊だのオカルトだの……子供だましもいいところだ」
陸島がぼやいた。
そのぼやきに周囲の視線が集中する。
「なんだ?言いたいことがあるなら言え」
「陸島君……私たちも結構オカルトの部類に足を突っ込んでると思うよ?」
「……は?」
相原の言葉に陸島は理解できないという顔を浮かべていた。
魔術と言う超常の力を振るう者がオカルトをバカにする。これは何たる皮肉か。
「あーっと話を戻すわね。で、こことその周囲を調べたんだけど――」
つっかえの残る陸島を置いて布塚が説明を続ける。
「まず表は組織の眷属……要は下っ端が見張ってるわね。裏手もぼちぼち。そこで三つの手順で攻めるわ。一つ目に私のグループのメンバーが引き付ける。二つ目にそこでタイミングを見て、私と他四名が裏手から侵入。挟み撃ちの形にしつつ、囲って各個撃破していく。最後にリーダー格の魔女を撃破して終わり。木下さん、これでどうです?」
「それがいいでしょう。表は布塚さんのグループと私とここに残る者たちで攻撃を。他五人で攻め入るのが無難かと」
「よし、それじゃあメンバーだけど……」
布塚はそこにいた面々に視線を向けてしばらく考え込んだ。
しばらくして、メンバーは決まった。
「陸島君、燦央院さん、流山さん、鴉田君。四人とも私についてきて」
「わかりましたわ」
「お任せ下さい!」
燦央院と流山はその指名を快く引き受けた。
「了解」
「オッケーですよ!」
陸島と鴉田も準備万端の石を見せた。
「それでは今から三分後に作戦開始です。各々準備を」
木下の言葉で一同は二つに分かれた。
木下率いる部隊は正面から敵をおびき出し、迎撃する。
布塚率いる部隊は後方から建物に忍び込んでリーダーを撃破する。
「あ、陸島君」
布塚の元に行こうとする陸島を相原が止めた。
「なんだ」
「その、気を付けてね……布塚さんがいるとはいえ無茶は――」
「わかってる。お前は……帰ってくれたら一番嬉しい」
「……もう!」
相変わらず冷たい陸島に相原は頬を膨らませる。
だがそれでも心配が勝ったのか、しゅんと縮こまった。
「大丈夫ですわよ。あいつなら殺しても死ななそうですし」
「そーですよ。敵に殺されるのではなく、私が殺しますから」
「いや、そんなのダメに決まってますわ」
燦央院と流山が彼女を慰めようとした。
なお、暗殺未遂に関しては相原はスルーした。
「大丈夫だって相原さん」
そこにさらに突入班の鴉田が入ってくる。
「あいつなら心配いらないって。俺のこの新型レールガンが火を噴くから大丈夫だって!」
「鴉田君……」
――いや、貴方が一番ある意味心配
三人の胸中はそれで合致した。
そんなやり取りを遠くから木下と布塚が見ていた。
「うーん……私もそうだったかもしれませんが、若いというかのんきと言うか。でもガチガチよりはましですかね?」
「ですね。布塚さん、後は頼みましたよ」
「はい」
布塚の表情は一気に穏やかさを振り払い、真顔になる。
その顔つきは周囲から切り立つ岩のように静かにそれでいて厳かであった。
「……ん?」
その頃、精神病院の入り口。
サングラスをかけた二人の黒いスーツの男性がハンドガンを手に提げて周囲を見渡していた。
「どうした?」
「いや、何か足音がしたような気が……」
そう言って左側の男が周囲を見渡す。
石造りの道の向こうは夜のせいで見えず、両脇には木々が生い茂っているせいで一部にさらに闇を濃く落としていた。
「そうかあ?俺には何も……気のせいじゃないか?」
右側の男は前方に加え、後ろの方を向いた。
病院入り口の方には数人の見張りがおり、いずれも辺りを警戒している。
「うーん……ところで俺らって何時ここを離れるんだ?」
「さあな。取引が終わるまでじゃないか?」
「取引?」
「ああ。こないだ、上の魔女が何かをこっちに置いてったろ?それを受け取りに来る奴がいるらしい」
「上の魔女って……ドレッサー・ドレッドか?」
「多分な。それが何かは知らんが……知らん方がいい」
「……ああ、なら聞かない方がいいな」
二人はやれやれという顔を浮かべた。
組織の上位魔女、ドレッサー・ドレッド達。下っ端でもその脅威とろくでもなさはある程度は知らされてはいるのか、関わりたくないと思うようになっていた。
「これ終わったら風俗とかどーよ?」
「風俗ってお前……立ちっぱなしで疲れたか?」
「そうそう立ちっぱなし」
「上手いこと言ったつもりか?」
その返しに呆れていた。
片方は笑っていた。そしてばたりと崩れ落ちた。
「え?」
何が起きたのか理解できなかった。
よく見れば額から血を流していた。銃弾が彼の頭部を貫いていた。
「……て、敵襲だぁ!!」
大声で叫んだ。
瞬間、弾丸の群れが一人を襲い、また一人が死んだ。
「なんだ!?何が起きた!?」
門の向こうの入り口からさらに数名の組織兵が身を低く、あるいは門の近くの壁に潜みながら辺りに張り付く。
「わからん!敵は正面から来てる!!増援を呼べ!!」
銃声が響き、戦いの火蓋は切って落とされた。
「皆さん!敵を引き付けるイメージで!前には出ずに後ろに下がりつつ攻撃を仕掛け続けてください!」
木下の指示に従い、一同は銃撃に魔術と重ねて攻撃を続ける。
そこにさらに文字通りに風が、炎が吹きすさぶまでにさほど時間はかからなかった。




