27-1 組織に迫りて知るは、悍ましきカルマ
陸島たちが島を出た日の前日。
誰かが寝静まってもおかしくないほどの深さの夜、それは起きていた。
「う、うわあっ!」
何処かの市内に建てられたビルの一室。
辺りは既に血の海で、その海の上には無数の死体と裂かれた四肢、そして苦悶の表情で絶命した者たちが浮かんでいた。さらによく見れば、壁には焦げた跡、床に抉れた傷と物々しい雰囲気が散乱している。
「走れ!!出口はこっちだ!!」
その海の上を走る四人の人影。
一人は矢野。ここに集っていた青釜のリーダー格の魔女。
「な、なんで……どうして……」
「いいから走れ!!」
上本の震える声を払うように叫んで矢野は三人を連れ出して外へ向かう。
(くそ……どうしてこうなった!?なぜばれた!!)
矢野一行は階段を下り、ビルの入り口にたどり着く。
しかし――
「はい。こんばんは皆さん」
四人の前に立ちはだかるのは一人の女性。
無数の血を浴びた黒のスーツは数多の人の命を奪った証明に他ならない。
「ちぃ……あんたまさか……いや、聞くまでもないわね」
「ああ、ドレッサーなんちゃら?そうかもね」
ドレッサー・ドレッド。
魔女の世界で十年以上戦って生き残ってきた矢野のような手練れでも恐れる組織の上級魔女。
それが矢野の前にはいた。彼女は笑いながら血まみれの魔女は杖を構え、辺りに魔力のうねりを起こす。
「来るか……!上田、あんた『眼』は使える?」
「あ……ああ……」
「しっかりして!ここであんたがちゃんとしてないと――」
矢野の言葉は最後まで再生されなかった。
首と体、二つに分かれたものが言葉をしゃべるはずがない。
「いやああぁぁぁっ!!」
地面に転がった矢野の、上司の無様な死にざまに中本が叫び、一人逃げ出す。
「あ、待て――」
焦りながら下村が止めようとするが無駄だった。
魔力のうねりが、また一つ命を切り落とす。
「中本!!」
上田があたりに広がる中本の血を見ることしかできなかった。
血まみれの魔女はゆっくり近づく中で下村を引き裂く。
「あ、ああ……」
その場にへたり込む。
否、それしかできなかった。
(なんで……どうして。私何か悪いことしたの?ちょっとあの力に目覚めて。それであいつを見返してやるって誓ったのに。どうして今日に限って)
「あなたの目、素敵ね」
いつの間にか血まみれの魔女が上田の顔を覗き込むように見ていた。
そして彼女は上田の頬に手を当てる。
「な……なんでこんなひどいことするの」
「なんでかって?そりゃあここの連中が取引突っぱねたからよ。だからお仕置き皆殺し」
「と……取引?」
「そう。取引。ちょっと少女の遺体持ってこいって言ったのに断られちゃって。前々から利用しておきながらこちらの要求を断るなんて身勝手よね?」
「……知らないわよそんなの」
「そうね。かわいそうね。貴方みたいな末端の子は」
血まみれの魔女は笑っていた。
そしてまた一つ、命が消える音が響いた。
「それで、状況は?」
「ええ、ビルのそこかしこが血まみれで。生存者はいないでしょうね」
「……ひどい」
陸島と相原が相原の家に泊まった日から次の日の夕方。
二人は木下の車に乗せられて、ある場所に向かっていた。二人は学ランとセーラー服を着用しており、この服には防弾、対魔力仕様の繊維がそれぞれ織り込まれているのである。
「それで?そのビルに向かおうってのか?」
「いえ。そこはもう調査済みですので。今言っても無駄でしょう。ああ、そうだ。相原さん、クラスメイトの三人で上田さんと中本さんと下村さんについて何かご存じですか?」
「え?いえ、特には……」
「……三人とも、無残な姿で見つかったそうですよ。詳しくは話せませんが」
「そんな……」
相原からしてその三人に関してはあまりよくないイメージを持っていた。
親友の流山椿をからかったりしていたためだ。とはいえ死んでしまったことに関してはさすがに辛いと感じたのか、彼女は縮こまる。
「で、俺たちはどうすると?」
「正直人手が欲しいのですが……使える人があまりいないのであなたたちにも来てもらうことになりました」
「補欠も使いようか?」
「そうですね。トパーズグラスの布塚さんが合流しますので」
「布塚さんが?わかった」
「調査ポイントをいくつか絞っているので、その中でも危険度の低い場所に向かってもらいます。そうそう、燦央院さんたちも来ますよ」
「まとめるとだ。俺たちは調査ポイントに出向き、そこにいるかもしれない組織の連中を撃破。その後、手掛かりを探れってことか?」
「はい。その解釈で間違いありません。現地のリーダーは布塚さんに引き受けてもらいます」
「ああ、それでいい」
車はそのまま目的地となる調査ポイントの一つに向かっていた。
辺りは既に暗闇が支配していた。
「陸島さん、相原さん。準備はいいですね?」
「ああ」
「大丈夫です」
「現地では私も参加します。布塚さんもいらっしゃいますから問題ないと思いますが……」
「ああ、あの人なら大丈夫だろ」
「そうなの?前に何か布塚さん、ミスがあったって言ってなかった?」
「あれか。あれはまあ事故だ」
一度だけ陸島は島の外に出て任務を手伝ったことがあった。
その折に布塚の魔術が思わぬ形で事故を起こした。が、陸島はこれを気には止めていなかった。
「……なんで許したの?」
相原には疑問でしかなった。
普段の陸島なら恨みつらみが残っているのではと。
「わざとじゃないと言ってたからな。今後は気を付けるとも言ってたし」
「……ふーん。そうなんだ」
納得のいかない顔を相原は浮かべていた。
そして車は目的地である敵の潜む廃病院を目指していた。
約一時間後。
「……あ、皆さん来ましたよ!」
廃病院から少し離れた場所に一台の車が止まる。
手を振って、そこに駆け寄って来たのは橘樹隼人。
「え?なんでお前ここにいるんだ?」
車から降りた陸島はなぜかそこにいる隼人の存在に疑問を持っていた。
「お、来たか」
「これで全員かね?」
続いて鴉田と蛇島が姿を見せる。
蛇島も鴉田も共に黒の学ラン着用で、鴉田は腰に銃のような道具を収めたホルスターを二つ、蛇島はトンファーを腰の後ろに装着していた。
(向こうで車に乗ってきたか)
陸島の視線の先には車が数台、まるでそこに中将があるかのように綺麗に並んで止まっていた。
「ってことはまさか全員――」
「シオンちゃーん!!」
疑問に思う陸島をよそに何者かが相原に抱き着いた。
流山椿だった。
「大丈夫ですか!?この陰険に何かされませんでした!?」
心配そうに見る目と、憎悪に満ちた二色の目を交互に向ける流山。
その様は阿修羅とまではいかないが何処か不気味さがあった。それに対し、相原は虚無に満ちた顔でこう答える。
「なにも……なかったよ……」
「……この表情は何かあったと見た!お前何をした!?」
(あーめんどくせえ)
ぎゃあぎゃあと喚くうるさいちびをよそに遠くを見た。
夜なので何も見えなかったが。
「で、なんでお前はここにいるんだ?」
陸島は隼人に目を向ける。
「ああそうだ、預かりものがあるんだ。これ!」
隼人はそう言って手に持っていた長い桐の箱刀を差しだした。
陸島がその箱を横向きに置き、箱を開いた。
「これは……」
中にあった物に手を伸ばす。
一本の刀が鞘に納められていた。
「砥成さんって人が義兄さんにって。今日届いたんだ!親父が届ける予定だったけど、なんか用事があるからって俺に頼んだんだよ!」
「ああ、そうか。ご苦労」
陸島は浮足発つ気分でその刀を鞘から引き抜く。
(こいつは……!)
月夜に照らされてその刃は煌めいた。
持った時に感じた感触。刃の輝きからわかるその完成度。そして重みよりわかる重圧感。
それら全てで分かるなじみ具合が陸島をより興奮させた。
「悪くねえ。こいつは馴染むぞ……!」
「よかったね!義兄さん!」
陸島も隼人も笑っていた。
だがその笑みに周囲は引いていた。
――陸島君、顔怖!なんで隼人君は普通に笑ってるの!?
陸島の笑いは狂気があった。
隼人の笑いは純粋だった。
「全員来たようですわね」
燦央院が来る。
近くには外崎と布塚がいた。
「戻って来たんだ。それは……?」
外崎は陸島の持っていた刀に興味を示す。
続いて布塚も陸島が新たに手に入れた刀に興味を示した。
「お、それはおニューの刀?」
「おニュー!?」
今どきの若者は使っていないかもしれない布塚の言葉に周囲はざわついた。
「え?!今って使わないの!?おニュー!」
布塚はあわてたじろぐ。
真相は如何に。




