26-4
時は流れて夜。外は既に暗い闇が広がっていた。
陸島と相原が相原の家に着いてから数時間が経過していた。
二人を車で運んだ木下は近くにいる部下と会議……というの名の飲み会に繰り出しており、現在家の中には二人しかいない状況だった。
(ったく。木下のヤツ、まさか酒飲みたさに俺をここに置いて行ったんあじゃなかろうな?)
一階のリビングでジャージを着た陸島はしかめた顔で十手を磨いていた。
着替えに関しては木下が部下に持ってこさせていた。ちなみに風呂上りである。
(夕飯はアイツが作るって言ってたが何を作ってるんだ?)
――夕ご飯は私が作るね
そう言って相原はそそくさとキッチンで何かを作っていた。
耳を澄ませばフライパンで何かを炒めている音が聞こえる。
(前に俺が食べていたものだから大丈夫だと木下は言っていたが……木下のヤツ、何を言った?)
リビングで待つことしばらく、皿を置く音が聞こえた。
「できたよ、ご飯」
エプロン姿の相原が微笑んで呼びかける。
陸島はソファーからけだるげに体を起こして食卓に向かう。
「これは……」
陸島は食卓に並べられたそれを見た。
オムライスだった。
「オムライス。昔ね、お父さんに作り方教わったの」
「あいつが?」
「うん。お母さんにもおいしいって褒められたの」
二つ並んだオムライスはいずれも形が崩れてはおらず、チキンライスを覆う黄色の卵とその上を川のように流れる赤いケチャップが織りなすコントラストは食欲をそそるには十分であった。
「今日はね、特に自信作なの」
「そうか」
「えへへ……」
笑う相原の前で陸島は顔をしかめていた。
先ほど、彼女の仏壇でのやり取りを思い出していた。
「とりあえずいただくぞ」
「はい。召し上がれ」
陸島は両手を合わせ、そのオムライスを口にし始めた。
冷たい表情の下で腹は食事を求めていた。
「……む」
早速口にしてわかったことがあった。
美味しいという事だ。
(なるほど。確かに美味い。味付けも濃くないし薄くもない。米も程よい味で上の卵も焼き加減が良い。要はバランスがいいんだ)
黙々と陸島はそれを急ぎでも緩やかでもないペースで食べていた。
相原は陸島の食事の場面を見て不安げな表情を浮かべる。
「……ひょっとして、まずい?」
「は?」
思わぬ言葉だったのか陸島は固まる。
「なんでそう思った?」
「だって何も言ってくれないんだもん」
「……もしまずかったら俺は近くのコンビニに走ってるぞ」
「そう……よね」
陸島の言葉に相原は納得し、食事を再開する。
「さっきの話だが」
思い立ったように陸島は聞く。
「お父さんの好物ってどういうことだ?」
「え?お父さん、オムライス好きだって聞いたことない?」
「ないな。カレーライスが好きだと言ってたが」
「そうなの?変わったのかな」
不思議に思う相原の前で陸島は思案を広げる。
(もしかしてアイツ、好物からばれないように俺の前でオムライスを食わなくなったとか?まさかな――)
答えを知る機会が永遠にない疑問が現れたが、それを振り払って陸島は目の前のオムライスを口に運んだ。
「いやあ、島の学食もよかったけどこっちもええな!」
「だね。まさか好きな物を頼めるとは驚いたよ」
一方、鴉田と鼠川は橘樹邸の食堂にて夕食を食べていた。
食堂は入り口前のカウンターで料理を頼み、受け取った後にその隣に設置されたテーブルで食べるスタイルだ。
今日、二人が頼んだのはかつ丼。ボリューミーなかつに炊き立てのご飯が食欲をそそる。
「しかも味噌汁もうまいぞ!」
「うん。昆布が効いてるのかもね」
「……何でお前こっちにいるんです?外崎さんはどうしたんです?」
鼠川の隣で流山が細い目で鴉田をにらむように見ていた。
ちなみに流山はざるそばを頼んでいた。
「え?ああ、彼女なら後から来るよ。なんか野暮用だってさ」
「へえ。振られたのだとばかり」
「ははは。流山さんもご冗談がきつい」
笑いながら食事にありつく中、お盆を持った外崎が静かに流山の隣に着いた。
「色々あるみたいだね、ここ」
「あ、外崎さん。俺の隣、空いてるよ?」
「黙れ」
「ひどいわ!そんな即答で返さなくてもいいじゃない!!」
泣く鴉田をよそに外崎は黙々と食事を始める。
彼女が頼んだのは天ぷらうどん。かけうどんの上に天ぷらが数点乗っているスタンダードなものだ。
「お、それもよさそうですね」
流山が横で見ている中で外崎は早速食べ始める。
そして少しして彼女は笑う。
「いいね。ひらさきのも良かったけど、こっちもいい」
「ひらさきってあのひらさきですか?」
「そう。陸島もよく足を運んでたよ。確か、よくざるそば頼んでたね」
「げ、アイツもですか」
しかめた流山に鼠川はまあまあと声をかける。
「いいじゃない別に。そういえば外崎さんもよくいくの?」
「うん。あの店、意外と落ち着く」
「ほほう。意外ですな」
笑う鴉田をよそに外崎はうどんを黙々と食べる。
その時、何かを彼女は思い出す。
「以前、アタシが島にいたときにこれもいいよってコロッケうどん進めたなそういや」
「エェーッ!?」
大声で流山が叫んだ。
「ま、まじで!?」
さらに鴉田も驚き、固まった。
「……そんなに驚く?」
その様子に首を捻る外崎。
彼女の視線は驚く二人から鼠川に移る。鼠川は特段驚いてはいなかった。
「ああ、二人ともなんか気が合いそうだもんね」
「え」
まるで機械のようにまっすぐに横に首を鴉田が鼠川の方に向けた。
「お前……何を言ってんだ?」
「え?ああいやえっと……ほら、二人てクールだし気が合いそうだねって――」
「それはない」
真っ先に否定したのは外崎だった。
「確かにアイツとは何度か会話してるけど……そんなに長い会話じゃないよ。一言二言くらい」
「お?それは相原さんへのマウント取りの気ですか?」
「違う」
鴉田の煽りのような言葉に外崎はまたも即、否定する。
「相原さんはすごいよ。あの男がもし私のパートナーだったらって考えたら多分どこかで投げ出してる」
「え?でもさっきシオンちゃんよりも陸島と会話してるって――」
「してない。というか相原さん以上と会話してないから」
「へー……」
流山は否定する外崎に怪しいと目で訴える。
外崎もそれに気づいたのか問う。
「なんだい?」
「いやなんか……お二人の方が良いんじゃないかって」
「それはないぞ忍者ガール」
陸島と外崎がつるんでいた方が良い。
流山のその意見に否定を叩きつけたのは鴉田だった。
「それじゃあ相原さんが可哀そうじゃないか。陸島のヤツは浅からぬ繋がりがあるんだし。それに彼女も陸島の事を大事に思ってる。見てればわかる。それも外崎さん以上にな。第一、そうなったら俺は誰と組めばいいんだ!?」
「え?一人でいろとか?」
「ひどい!そんなんだからいつまでもチビなのよ貴方!!」
「なんですと!?やるかこんにゃろー!!」
ギャーギャーとわめく二人。
食事は静かにしましょう。
「あ、お疲れ様です!!」
その時だった。爆発音が響いたのは。
否、それは爆破音にあらず。
「……え?」
それは隼人が席に着いたときに彼が持っていたお盆が、特注の大きさを持つそれがテーブルに置かれた時の音だった。その大きさに、衝撃に鼠川は目を見開く。
「な……なんですかこれは」
流山は固まった。
お盆の上にあったのはどう見ても常人の数倍の食事量を誇る食べ物の群れ。大盛りを超えて特盛の白米に始まり、広い皿の上に乗った生姜焼きに一回り大きい味噌汁にその他ましましといったそれは一同を沈黙に追いやるには十分であった。
「……デカすぎんだろ」
汗を流して鴉田は震えた。
「……これが君の鋼鉄の肉体の理由?」
苦笑いで外崎はそれを見た。
「え?ああ、そうですね。運動に睡眠。それに食事。食べることも訓練の一つだって教えられましたから!」




