25-5
「あら、聞いてませんの?」
「聞いてませんよー!?二人っきりでお出かけなんて!」
衝撃冷めやらぬ流山に燦央院が流山に説明を始めた。
「二人ですが相原さんのお父さん……陸島にとっては牙谷さんという護衛の人の改葬に向かいましたよ」
「そんな連絡着てました!?」
「ええっと、食事の後ですけど……流山さん確か家族から電話があったのでは?」
「あ、あの時でしたか」
流山は昼の食事が終わった後、実家の母親からかかっており、それが理由でしばらく席を離れていた。ちなみに電話の内容は
「それであなたしばらく離れてて……相原さんには後で伝わるから大丈夫だって私が言ったのが原因で……」
「……もうちょっと早くいってくれません?」
「ごめんあそばせ。聞いたのは昨日、一昨日ではなく一時間くらい前でしたので」
「そ、そうですか……ところでその『カイソウ』って何です?」
「ああ、それはじゃな――」
流山が言葉の意味を捕えられずにいると、近くに龍弦が姿を見せた。
「お墓を移すという事じゃよ。この場合はわしらが持ってる共同墓地から相原さんのお母さんのところにな」
「そうだったんですか……聞いてないよシオンちゃん」
しょんぼりとうなだれる流山。
親友だと思っていた彼女からそうした連絡がなかったことがショックだったようだ。
「ということは今日は二人はいないのか」
「うむ。遅くとも、明日には戻ってくるじゃろう」
「え?」
その言葉に流山は正面を向いた。
「明日ってどういうことです?」
「ここから二時間の場所にそのお墓があってな。それと昔、相原さんが住んでいた家も近くにあってな。お墓の掃除と家の掃除もするそうじゃ。お父さんとお母さん。相原さんからして三人が揃ったから家で一日過ごすかもとな。遠いもんだしな」
「ああ、それで……」
流山が龍弦の話を聞き続ける。
「時間も時間だから許可した。力仕事とかも木下と相原もいれば大丈夫じゃろう」
「そう、ですね」
少し詰まって流山は首を縦に振った。
話を聞いた一行の中でおもむろに鴉田が口を開いた。
「ってことは陸島のヤツ、相原さんの家に泊まるわけだな」
途端に周囲に静寂が広がる。
若い男女が同じ家で寝泊まり。それに何かが起きる可能性を感知せざる得ない者たち。
「いやいやいやいや。あの陸島君にそんな感覚というか仲というか……ありえないって!」
「そ、そうだな。鴉田のアホの意見をまともに聞く理由がないなそもそも」
静寂を一番に切ったのは鼠川、続いて言葉がやや乱れながらも蛇島が反論する。
「何をそんなに挙動不審になってますの?」
「お嬢様には遠い話かもね」
呆れる燦央院にニヒルに笑う外崎。
その時、相原の親友である流山は震えていた。
「どうしよう……アイツがシオンちゃんに何かしたら……刻むだけでいいよね。そうよね。焼いてもいいよね?」
「怖いよ流山さん」
鼠川のツッコミもどこ吹く風か流山はクナイを手にぶつくさと陸島への憎悪を垂れ流していた。
「……青春じゃのう」
「そうだね、親父」
その様子を離れてみているように龍弦と隼人。
二人の表情はどこか微笑ましかった。
ここで鼠川と流山が叫ぶ。
「「いや隼人君まだ若いでしょーが!!」」
橘樹隼人、十四歳。
その年に見合わぬ肉体と精神を兼ね備えた貫禄ある若者。
少し前、橘樹邸のある山の中に造られた共同墓地にて。
墓地の管理人より相原健吾の遺骨の入った骨壺を引き取りに来た陸島たちはそのついでに牙谷、爪島、羽田の眠る墓の掃除をしていた。
「相原さん、すみませんね手伝わせてしまって」
「いいえ。大丈夫ですよ」
申し訳なさそうに謝る木下に相原は花瓶を渡しながら微笑んで返す。
炎天下の中で掃除をする三人の額には汗が流れていた。
「爪島さんと羽田さんでしたよね?お父さんがお世話になったっていう人。その人たちにお礼になるかわかりませんが……」
「十分ですよ。向こうで二人も笑っています。絶対に」
木下の目には確信があった。
牙谷、爪島、羽田。いずれも木下から見て将来性のある期待できる部下たちであったゆえに。
「……よし、線香を備えるぞ」
黙々と墓石を一番に掃除していた陸島が汗を拭いながら言った。
持ってきた線香に火をつけ、三人は両手を合わせる。
(爪島さんと羽田さんってどんな人だったんだろう……)
祈りの最中に相原はそんなことが気になっていた。
以前木下に聞いた陸島の過去。その中で陸島を笑顔にさせていた二人について。祈りを終えると最初に口を開いたのは陸島だった。
「先に車に戻ってろ。ちょっと一人にしてくれ」
「わかりました。相原さん、行きましょう」
「え?あ、はい」
木下の後に続いて、相原はその場を後にした。
墓の前には陸島だけが残っていた。
「羽田、爪島。悪いが牙谷がここを離れることになった。家族がいたそうだ」
話をする最中、陸島の顔は険しかった。
「お前らにも家族がいると思ってたんだがな……木下によればお前ら孤児らしいな。牙谷のヤツ、恵まれてるよな。それ思うとさ」
お供えした線香の煙がだんだんと弱くなっていく。
陸島の声色は弱くならずにいた。
「まあ心配するな。墓参りはするさ。たまにでかいのが来るが、あれは隼人だ。多分知ってると思うが。でかくなりすぎだよな」
苦笑いで隼人の成長にツッコミを入れる。
「牙谷には娘がいたよ。どういう巡り合わせか、俺のパートナーだとよ。しかも牙谷のヤツ、俺にそいつの護衛を頼んだんだぜ……」
髪をかきむしりながら、嫌そうな顔で陸島はぼやく。
「ああ、心配するな。犯人は見つけるさ。首はここにふさわしくないから見つけたらその場で切り刻んでやるよ」
拳をぎゅっと握りしめる。
「じゃあ、そろそろ行くから。牙谷が帰りたい場所に連れて行くっていう約束があるから。悪いが連れてくぜ」
墓に背を向けて陸島はその場を去っていった。
昇る線香の煙は消えていた。
「……おや、もういいのですか?」
墓地の駐車場に止めてあった車の前で木下が立って陸島を待っていた。
「暑い中何してんだ?」
「鉄明さんを待ってたんですよ。さ、行きましょう」
陸島が助手席に乗り、後部座席の方を見る。
そこには相原が座っていて、その膝の上には牙谷の骨壺が入った箱が乗っかっていた。その様子を見て陸島は目を細める。
「そこに置くのか?」
「うん。お父さん、荷物入れに入れたらなんか可哀そうで……」
「そうか。木下、頼んだ」
「かしこまりました」
車は墓地を抜け、山を下りて相原紫苑の母が眠る墓へと向かいだした。
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