23-5
「んなっ!?」
「えぇっ!?」
鼠川は頬を真っ赤にした。
続いて蛇島も素っ頓狂な声を上げて驚く。
「おーぅのーう。なんてこったい」
なまじの英語で鴉田は驚いていた。
「あらあら」
三田川はそれを珍しそうな目で見ていた。
一方で口づけされた陸島は一瞬何が起きたのかわかっていなかった。しばらく固まっていたがすぐに唇の感触と近づいてきた甘い匂いで引き戻される感覚に襲われ次の瞬間には離れ、敵に鉄拳を叩き込んだ。
「ちょっ――」
鼠川が目を見開く最中に、鈍い音がラウンジに届く。
豊野儀は吹き飛ばされて地面に転がって近くのソファーに勢いよくぶつかった。
「陸島君、それはやばいって!」
「やめろ!彼女に悪気は――」
「黙れ!!」
鼠川と蛇島の静止を振り切って、唇を何か汚いものをふき取るように腕を動かして地面に転がる豊野儀の髪を掴んだ。
「いだだ……乱暴ね。貴方」
口元の端から一滴の血を流しながら豊野儀は笑って見せた。
更なる怒りの増幅を陸島は感じられずにいられなかった。
「こいつ――」
「やめろクソガキ」
拳を叩きこもうとした瞬間、周囲の視線が一か所に集まった。
その中心には三田川が拳を握りしめて眉間を絞り切るかのような勢いの顔を見せていた。怒りに満ちていたのだ。
「そりゃあその子の態度が気に食わないのはわかるわ。多分私も貴方だったらそうしてるかもしれない。でもそれはやりすぎ。普通に『お断りします』で片づけなさい」
「黙れ。こいつは切り刻んで家族の前においてやる」
「言う事聞けや!!」
三田川の怒声が響いた。
その威圧に陸島は思わず後ずさる。
「陸島君、手を放しなさい。いくら何でも女の子の髪を掴み上げるなんてひどいわよ」
「……チッ」
舌を打って陸島はその手を離した。
地面に触れる豊野儀の髪はゆっくりと動いていた。
「貴方もあなたよ豊野儀さん。魔女の口づけなんて、愛する者以外なら大体はチャーム以外の何物でもないでしょ」
「そうですね。少しやりすぎました」
立ち上がって傍に落ちた剣を拾うと彼女は今度こそ男子寮を後にした。
緊迫の時がようやく途切れ、鼠川は思わず後ろの椅子にへたり込んだ。
「こ……怖いよ。陸島君。いくらなんでもアレは怖いって」
「吹っ掛けたのは向こうだろうが。何であなたも止めた?」
「いい加減にしろや。皆殺しで解決できるのか?ええ?」
陸島に圧を纏ったままで近づく三田川。
「皆殺しで解決できるなら皆そうしてる。でもね、そうはしてないでしょ。私ですら誰かいないとどうしようもない時があるの」
「あの女の肩を持つと?」
「そうじゃないわ。いい?今回は明らかに向こうが攻めてる。けど殴るのはダメ。まだあなたは弱いんだから」
まだあなたは弱い。
その言葉に反射的に陸島はピキリと怒りを覚える。
「いくら鉄の魔術があるとはいえやめておきなさい。彼女、あれでも相当のやり手よ。というかあれ結構傷ついてるわよ?」
三田川の注意に陸島はしばらく間を置いて口を開く。
「そうですか」
そしてラウンジを出て自分の部屋に戻っていった。
「……荒れてますね相当」
汗を搔きながら蛇島が陸島の様子を見てそう言った。
その言葉に三田川はそれまで纏っていた圧を解いて会話をする。
「ええ。チャームっていう魔術があるんだけどね。相手を支配できる魔術。陸島君、多分それを警戒したんだと思うのよね。まあそれにしたって殴ったり髪を掴むのは酷いと思うけど」
「ほほう、そのチャームって男でも使えますか?」
そう言ったのは鴉田。
その質問に蛇島が思わず声を荒げる。
「バカ野郎!お前こんな時に何を言ってんだ!」
「気合次第じゃない?」
「なんで三田川さんも答えるんですか!?変態に技を教えたらやばいですって!!」
「いやねえ。チャームってのは事前に道具とか使ったりするんだけど。化粧道具とか」
「じゃあ俺じゃダメか」
そう言って鴉田は鼠川の方を向いた。
「そういうわけだ。ハーレム王の夢はお前に託す」
「どういうわけ!?」
驚き声を上げる鼠川に思わず三田川は笑った。
「全く。いつの時代も男ってのは……」
「男ってのはそういう生き物です!女性にはそれがわからんのです!」
「お前と言うやつは……。あれ?ところで相原さんは?」
蛇島がふと気になって彼女の立っていた方を見た。
相原は気絶して倒れていた。思わず蛇島は声を上げた。
「うわあっ!?なんで!?」
近づいて抱き上げるように持ち上げる三田川は彼女をソファーの上に寝かせて言う。
「あー……さっきのキスでしょうね」
「あれか。よりによって外部の人間に寝取られそうになったからか」
「鴉田君の言う通りだと思う。三田川さんの圧じゃないと思うよ」
「え!?アタシ加減できてなかった!?」
「「滅相もございません」」
慌てる三田川に男子三人、口を揃えて否定した。
――この人には終始逆らわないようにしよう
見えないところで男子三人の心の内で約定が結ばれていた。
一方で相原はうなされる様にソファーにてぐったりとしていた。
「うーん……り、陸島君が取られちゃう」
そんなことを口にしながら。
そうして彼らの夏はまた刻まれていく。
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