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鉄(クロガネ)ウォーロック  作者: 峰川康人
第二部 邂逅と交戦の時

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23-3

「で、どうするの?続ける?それともやられる?」


「言ってろ」


 自分が弱くなっているという疑惑が核心になりつつあった最中でも、陸島は自らの態度を揺らがせるような前はしなかった。


(ったくこの女、見かけによらず結構やる)


 陸島は落ちた刀を拾って強く握りしめた。

 刃を魔女に向けながら。その後ろに轟々と燃え盛る炎の精霊の存在があっても。


(さてどうする?状況は思ったより芳しくない)


 陸島は今の状況を見返す。


(もう一度、猿叫からの抜刀を繰り出しても良い。だがあの炎の精霊が厄介だ。切り伏せようにも刃で切れるのか?大地の槍で貫けるようにも見えん。やはり本体を狙うしかないか?)


「降参は認めるけど?」


「誰がするか」


 降参したとして、何が起きるか分かったもんじゃない。

 この重く、固まっている状況をどうにかする術を陸島は求めていた。


(そもそも何で弱くなっているんだ俺は?眠っていた時間が長かったとでも言うのか?)


――それは違うぞ


「……ッ!?」


 脳裏に響く声に体が震える。

 陸島はその声に聞き覚えがあった。


「ん?」


 魔女はそれを見逃さなかった。

 その合間に鉄の精霊と陸島は見えぬうちにて会話を始める。


(どういうことだ……なぜ今になって)


――久しぶり……というほどでもないか。我が選びし者よ。我を宿していたものよ


(用があるなら手短に言え)


――フフフ。苦戦しているようなので見に来たのだ。時に貴様、自分が弱くなったと思っているのではないのか?


(だったらなんだ――)


 精霊との会話の最中、炎の柱が一つが陸島に迫る。


「うおっ!?」


 迫る炎に間一髪のところで回避を決めた。

 攻撃から回避のその一連の流れを魔女はじっと見ていた。


「限界でしょアナタ。今の攻撃を避けるのも精いっぱいで」


「黙れ」


 陸島は怒りを込めて言葉を返す。

 見下されていることに、自分が弱くなっていることに苛立ちを覚えながら。


――そのままで良い。聞け。貴様には感謝している


(あ?どういう意味だそりゃあ?)


――言葉のままさ


 魔女の攻撃が続く最中でも、陸島と鉄の精霊の会話は静かに繰り広げられていた。

 火柱、火炎弾、時には熱風。それらをどうにか回避しつつ、陸島は攻撃を合間に振るっていた。それがたとえ相手に届かないとしても。


――とにかくこのままでは、拉致が明かない状況だろ?我が魔術を使え


「何?」


 思わず声に出た。


――心配するな。約束してやる。それで貴様を乗っ取る気はない。というよりそもそも乗っ取ることすらかなわん


(だがお前が出る算段なんだろ?)


――それも無理だ。今の私はその場に現れることすらできん。今の私は別の場所にいる


(……そうかい)


 鉄の魔術。

 病院にいた時に三田川から少々話を聞いていた。


――鉄の魔術っていうのはね、私が調べた限りじゃ結構危険よ。鋼鉄の雨を降らせるとか、無数の刃を顕現させるとか。しまいには時の流れの中で大きく変質したって書いてあってね。肉体を斬るんじゃなくて心を引き裂く魔術になったって話よ


(ここで使わなかったとして……果たして俺は無事でいられるか?)


 しばし考え込む。


(相手は恐らく俺を捕えに来た。これを拒めば強引に連れ出すだろう。そうならないためには)


 一呼吸おいて片手に十手を握る。


――意志は固まったようだな


(……ああ。それでいこう)


――いいだろう。使え、我が魔術を。鉄の魔術を!!


 精霊より放たれる情報の螺旋が陸島の精神に繋がる。


――今の貴様なら使いこなせるようになるさ。さらばだ


 繋がった際に流れる情報が陸島に新たなる力の振るい方を導く。

 その時間はほんのわずかな合間にすべて流れた。


「さて、勝負だ」


 魔女に向けて十手は構えられていた。


「ん?まだやるの?いい加減に降参して――」


 魔女が呆れながら言ったその時、彼女は全身に寒気を覚えた。


「なっ――」


 魔女の視界にいる十手を構えた陸島の周囲に黒い渦が巻きあがる。

 魔力であることはわかっていた。今までに感じ取った事のない感覚であることもわかっていた。


(何……何なのこれ!?)


 魔女は心の内からから焦りを感じていた。

 先ほどまでとは違う異様な感覚が周囲に満ちる。その中心から目が外せなかった。中心にいる陸島はただこちらに冷たい目線を向けていた。それは例えるなら獲物を狩る獅子が如く。


(これは一体何!?……まさか!鉄の精霊が!?)


 魔女はそれまで力を抜いて振るっていた姿勢を正し、瞬時に構えを見せる。


(リスクがどうこうとか言ってる場合じゃない。今ここでこいつを倒す!!)


 焦りを覚えた魔女は武器を構えて陸島を切り捨てようとした。

 構えから瞬時に彼を切り捨てようとしたその過程でそれを止めに入る者がいた。


(……え?やめろって?あれは危険?)


 そう言葉ではなく意思を発したのは彼女に憑く炎の精霊。

 炎の精霊は彼女に言葉による意思の伝達ができないが思ったを言葉を伝えることが可能である。


(ええ。確かにそうね。あれは何かおかしい。それに――)


 魔女の瞳は陸島よりも長く戦いの場に身を置いた経験で磨かれており、そこから見えるモノがあった。

 それは陸島が渦を周囲に発してから、一歩もその場を動いていないということだ。


(あれは多分、黒の渦に近づいた人間に何らかの影響を及ぼすタイプの魔術。なら近づかないで攻撃を仕掛けるのが妥当。それならっ!!) 


 魔女は周囲に起こした火柱を全て消した。

 周囲を照らしていた火柱の群れが消えた事で明るさが控えめになる。


「いいわ。使ってあげる。それが何なのか知らないけど」


 魔女は炎の精霊に目を向けた。

 その目が語り掛ける内容に炎の精霊はその場から煙のように消えた。


「あ?何する気だ?」


「とっておき」


 魔女の『とっておき』という言葉に陸島は顔を強張らせる。


「なるほど。今までは本気じゃなかったって事か」


「そりゃあそうでしょ。後輩相手に最初から全力とかとーっても可哀そうじゃない」


 魔女はこの戦いの中で一番に笑っていた。

 陸島はこの戦いの中で一番に怒っていた。


(このアマ、俺の魔術で殺す!!)


(このウォーロック、私の魔術で倒す!!)


 両者ともに勢いはついた。

 そして最後の局面に差し掛かろうとしていた。


「うおおおおっ!!」


 陸島は力を籠め、大声で叫ぶ。

 叫びに同調するように黒のうねりは増幅する。


「スー……ハアァァッ……」


 

 魔女は静かに呼吸を整える。

 己が魔術を、奥の手を振るわんとするために。

 決着差し迫る、まさにその時。


「はいそこまで!!」


 両者の周囲とその合間に衝撃と轟音を響かせながら、何者かが降り立つ。

 何者かが降り立ったのは両者の中心。


「なっ……!?」


 それまで引き起こしていた黒色の渦が消え、陸島はただ驚いた。


「嘘……どうして三田川さんがここに?」


「その様子だと何にも聞かされてないのね」


 砕けた石畳の道とその周囲。

 衝撃の中心にいたのは三田川杏美。陸島達男子が住んでいる男子寮の管理人である。


「いやあ、慌ててきたけどどうやら大事にはなっていないようね」


 両者を見て三田川は安堵の息を吐く。


(何故ここに……いや待て。さっきの圧はこの人が出していたのか?)


 陸島は肌に感じた圧の重さと目の前で微笑む三田川を内心比べて違和感を覚える。


「三田川さん。貴方がどうしてここに?いままでどこに?」


豊野儀とよのぎさん、聞いてないの?私は今、彼の住んでいる男子寮の管理人やってるのよ」


「え?!うそでしょ!?」


 豊野義と呼ばれた魔女は、寝耳に水が入ったかのような顔をして目を大きく見開いた。


「まあ積もる話もあるけど……その前に――」


 三田川は両者を、そして周囲を見る。

 次の瞬間、両者の頭部に衝撃が走っていた。


「ぐぁっ」


「ぎゃっ」


 振り下ろされたのは、まさかの拳骨。

 両者はたまらず膝から崩れ落ちる。


「まったく、ここの祠と周囲は大事な場所なんだから変に壊しちゃだめよ」


 三田川は両者を叱った。

 いまだ痛みの走る二人は三田川を見て両者ともにこう思っていた。


――いや一番に壊したのアンタだよ!!


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