第二部オープニングアクト
「それでは定例会議を始めます」
八月の夜、都内某高層ビルの上層にある一室。
窓の向こうからはネオンサインと走る車たちの光で彩られる都内の景色を一望できるほど高いビルの一室。
そこに集っていたのは、殆どが顔に深いしわの見える者たち。いずれも女性であったその者たちは規則正しく並んだ細長いテーブル近くの椅子に腰かけ、視線の先にあるスクリーンをじっと見ていた。その近くには会議の進行役を務める若い女性がおり、集団の中では目立っていたがそれを気にすることなくはきはきと自分の仕事を始めた。
「まず現在我々、魔女機関が進めているプロジェクトですが――」
変わるスクリーンのスライドと共に、若い女性の説明はしばらく続く。
顔色に生気がないわけではなかったがその者は心ここにあらずのようであった。だがそれとは打って変わって彼女は機関の定例会議を進める。聞いている者達はいずれも彼女の態度や様子を気に掛けることはなかった。
「次に……例のウォーロック達についてです。鼠川、蛇島、鴉田の三名については前回の会議以降、いずれも目立った反応や行動はありませんでした」
「ということは陸島のヤツ……ああでもみんな知ってるのかえ?」
会議の中で進行役の女性に対し、一人目の老婆が口を挟むように声を上げた。
老婆は続けて語る。
「鉄の精霊だよ。顕現したそうじゃないか」
一人目のその言葉に周囲に騒ぎが走る。
「ああでもソレ、消えたよ」
手を挙げながら、二人目の老婆が口を開いた。
「相原っていう小娘がやったそうだ。十五のくせに精霊を払ったと暴虐のヤツの報告書に書いてあったね」
「暴虐ねえ……目に穴でもついてたんじゃないの?」
二人目の言葉に一人目は目を細めてそう言った。
だが二人目は手を振って否定のサインを送る。
「それがどうやら間違いじゃないそうだ。燦央院の嬢ちゃんもそう言ってる。んで、しばらくは二人で行動するそうだよ」
「まあ、カップルのつもりかしらね」
二人目と一人目はゲラゲラと笑って陸島と相原の顛末を語る。
「あの……会議を続けても?」
進行役の女性は困った顔を見せることなく二人に真顔で伺うように聞いた。
「ええどうぞ」
一人目がそう答えた。
「アタシはしばらく黙ってるよ」
二人目はそう言った。
「先ほども話にあった通りですが、鉄の精霊は三田川さんの報告書によれば精霊はどうやら完全に行方をくらましたようです。陸島鉄明を調べましたが、やはり見つかることはありませんでした」
「ああそれさ。マニトの首で駄目だったんだろ?精霊を人の内にとどめていないかどうかを六月辺りで調べていたそうじゃないか?それ以外でやったのかい?」
一人目の老婆が首を捻りながら問う。
「はい。どうやら陸島が昏睡状態の最中に校長先生立会いの下で精霊に憑かれた者の協力で調べさせたようですが駄目だったようですね」
「校長?ええっと橘樹……は竹月組で……佐倉京香かい?」
「そうです」
「はあ……。ちゃんとした調査が出来ないのってあの校長が原因じゃないのかい?」
「いえ。さっき口にした橘樹の家の……竹月組も何か工作してるとかで」
「へえ。養子とはいえ、あの家の者に大層気に入られているようだね。陸島って坊やは」
一人目は嫌味を言うようにそう言った。
「調べるのであれば捕縛の部隊でも構成しますか?多少抵抗があってもいいような部隊を――」
「ああいいそんなことしなくて!」
進行役の言葉を慌ててかき消すように一人目の声が大きくなる。
「それじゃあダメだよ。鉄の精霊に関しちゃ確かに味方には付けたいさ。でもそのやり方だと佐倉のヤツが黙っちゃいないのさ。教え子に乱暴しようものならこちらにも考えがあるってこないだ別の会議中に割り込んでそう言ってきたのさ。いやあ怖い顔してたわよ。あんたならべそかいて泣くわね」
「そうですか。それはつまり機関で暴れると?」
「だろうね。佐倉もやっかいだがそこに三田川も添えられたら危険だよホント」
「最強と暴虐のコラボですか?ええ。それは考えただけでも恐ろしいですね……」
司会の女性はこの世の終わりとまではいかないが、何か恐ろしいものを想像して顔を青くした。
「だろ?だから陸島に関しちゃ上層部としては手を出す気はないよ」
一人目はそう言って陸島鉄明への行動を控えると言った。
二人目はそれを聞いて待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
「そうそう。うちらはね。やらないってことよ。数年ぶりのウォーロック。鉄の精霊。そして柊の子供というのならね。興味は尽きないだろうけど今は我慢しようってことさ。うちらはねぇ……」
「あの……それはどういう?」
「さあね?」
進行役の女性は眉をひそめた。
うちらはねという言葉の意味がどうにも不穏で仕方がなかったから。でもここで聞いても何もわからないというか教えてくれないとわかったのは二人の老婆が怪しく笑っていたからである。
「それと密偵からの連絡ですが……どうやら向こうにも……組織にもウォーロックがいる可能性があるとの事です」
「なんだってぇ!?」
周囲の騒ぎはその日一番に大きくなった。
「どうなってるんだい?検査は基本的に国が、うちらがほぼ受け持っているっていうのに!?漏れたってことかい!?」
「わかりません。まだ完全な証拠が出てないので……こちらの資料によれば、一人との事ですが……」
「はあ。まだガキとかかね?何かろくでもない方法で生まれたやつか?」
「それは……現在調査中です」
「ふん……まあいい。調べさせ続けろ。恐らくはデマだろうし。そういや四人のウォーロックは今後どうする気だい?組織に着くような真似はさせるなよ?」
「今後のスケジュールについてですが陸島は恐らく竹月組の元に向かうとされます。例の行事があるので」
「ほほう。他三人は?」
「未定です。蛇島に関しては燦央院と共に合同で修行かと」
「ふむ……残った二人は裏方の研修に行くのかね?ウォーロックってんだから強大な何かがあると勝手に思ってたがそうでもないのかい?」
「どうでしょう。鼠川に関しては治療の魔術が秀でているとの事なので予想通りかと。鴉田に関してはまだわかっていません。何分陸島との決闘で強力な兵器を作ったと話題でしたので」
「ああ。あのレールカノンだったか?ありゃあ確かに強いが『まだ』、実戦向けじゃないね」
「改良点があると?」
「ああ。悪くはないさ。っとそうじゃなかった」
一人目の老婆ははっとして司会役の方を向く。
「で、陸島の件だが……私たちは基本何もしないようにするさ。周囲にもそれとなく伝える。それでことは進むのよ」
「……どういう意味です?」
「今にわかるさ」
上層部一行の考えを進行役の女性は良くつかめずにいた。
無味無臭の策謀があるとすればそれは今まさに広まっていたのかもしれない。
ここから第二部スタートです。
陸島達の物語はついに組織へと向かうようになります。
果たしてそこで彼らを待ち受ける戦いや以下に……?
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