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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部 覚醒と研磨の時

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22-4


「そうか……そうして今に至るんですね?」


 鼠川の内で陸島に対するイメージが収束し、固まっていくイメージが起こっていた。

 それはまるでばらばらだったジグゾーパズルのピースが一つになっていき、そこに一人の影を色濃く映していた。


「うむ。半年以上前の検査でウォーロックであると分かった時は本当に驚いた。まさか柊の……いや、なんでもない」


「柊?誰ですの?その方は」


「すまんな燦央院のお嬢さん。これに関する話は伏せさせていただく。約束でな」


「わかりました。そういうことでしたら」


 燦央院は出てきた単語に強い興味を示していたが、龍弦の静止でそれをすんなりと抑えた。


「にしても暴力沙汰ってのは恐ろしいね。その辺から精霊に囁きでも受けてたんじゃない?」


 外崎のボヤキに近い意見に龍弦は首を縦に振った。


「確かに鉄明のヤツ、あの頃からよく悪い夢にうなされるようになっておったな。事件の後遺症と思っていたが……そうか。精霊か。むう、これは……儂のミスか?」


「それは違いますよ親父さん。事件の後遺症と進言したのは私です。責任は私にあります」


 鉄の精霊の悪意ある攻撃に気づけなかった後悔に顔を伏せる龍弦。それを主君のせいではないと言うのは木下。


「それに……今は違うはずです。鉄明さんも仲間に、友人には恵まれています。でなければ十中八九、死んでいましたよ?」


「……そうじゃな」


 木下の言葉で龍弦はどうにか納得したという姿勢だった。

 


「いずれにしろ今後は……鉄明はこちらの者たちの力を頼るはずじゃ。それでアイツらを殺した仇のタマを取らせればいい。生きておればの話じゃが」







「……そんな事が」


「ああ。あんなに怒り狂った坊ちゃんは後にも先にもあの日が初めてだ。あれ以降も度々学校で不良どもに絡まれていたが、いずれも全部倒していったさ。ああいうのを、阿修羅って言うんだろうな」


 一方で相原は牙谷から事件後の陸島の様子について聞かされていた。

 生きる気力を失い、やつれた日々。そして怒りに激昂して暴れまわり、目的をその身に宿して今日まで自分を鍛え続ける日々を過ごすようになった経緯を。


「だがその裏では鉄の精霊が暗躍していた。坊ちゃんに俺たちの死を夢や日常の中で思い出させ、無力であるその身を咎めて呪っていた。それが坊ちゃんに罪の意識と生き残ったことに対する自責の念を生じさせた。そして坊ちゃんはこれを振り払うために修行にのめりこんでいった。だが一つだけ振り払うどころかその身に宿していた物があった。生き残ったという罪の意識だ」


「生き残ったという罪の意識……?」


「ああ。それが坊ちゃんを大きく動かしたんだ」


 胸の締め付けられる痛みをその身に宿しながら、牙谷は説明する。


「坊ちゃんはな。俺たちが死んだのは自分のせいだと思っているみたいなんだ。何故、あの家にいたのか?本当の家族がいないのか?そうした疑問が拍車をかけた。そしてあの日、鉄の精霊は坊ちゃんを介してその姿を現すほどに力を蓄えていたんだ。暴走する坊ちゃんをよそに自らの行動を起こしたんだ」


「……そうだったの」


「だが、お前が来てくれた。そして精いっぱいの力で彼を解放し、精霊をその場から追い払ってくれたのは他ならない紫苑、君のおかげなんだ。だから彼は救われたんだ」


「……本当?」


「ああ。信じていいさ。それに――」


 牙谷は自身と相原のいる何も見えない空間の上を見た。何かを感じ取っていた。

 やはりそこも漆黒が広がっていたが、父と同じように見上げた相原はそこから何かを微かにではあるが感じ取っていた。


「この感じは……」


「ああ。間違いないさ。坊ちゃんだ。お前を待ってる」


「え?嘘でしょ?」


「もう、ここで嘘ついてどうなるんだよ」


 笑う父に娘は困惑していた。


「だって……私、今まで接したときはろくに会話もしてくれなかったし、ケガした時も私が治そうとしたらいらないって言って……」


「……それひょっとして、お前がタイプじゃないからかもな」


 ぐっさー。

 多分心に突き刺さるナイフの音があるとしたらこれはそんな音である。


「タイプ……じゃない」


 ひざを曲げて大文字のオメガの文字のようにその場に倒れる相原。

 しまったと思い、父は娘に謝ろうとする。


「ああ違うんだよ紫苑。冗談だよ。これまでは精霊の呪縛があったからでさ。今ならきっと話はしてもらえる。それにこうやって向こうから手を伸ばしてるんだ。今度は大丈夫だって――」


「お父さんの馬鹿。大っ嫌い」


 ずばしゃーん。

 多分愛娘から嫌いと言われたら、全世界の父の心はこんな音で真っ二つにされるのだろう。


「ごめん。本当にごめんよ紫苑」


「もう……」


 頬を膨らませて怒りの気持ちを示す娘に父は心のどこかで愛らしさを覚えていた。

 すこしして相原はその顔を暗くした。


「ねえ、お父さんは一緒には来れないの?」


「ああ。俺はもう死んでるからな。それに――」


 牙谷は自分の腕を相原に見せつけるようにかざす。

 その腕にはヒビのような跡がだんだんと広がっていた。


「鉄の精霊の影響かわからないが、俺と坊ちゃんをつなぐ要素だったからかわからないが……時間が来ちまってる」


「……そう、よね。もうお父さんには会えないのよね」


「ああ。こうして会えたのは奇跡さ」


 二人の合間には重い沈黙が流れていた。

 二度と会えない家族との別れが確かにそこに迫っていたのだ。


「そうだ紫苑。一つ頼まれてくれないか?」


「頼み?」


「ああ。それはだな――」


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