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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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145/151

22-3

「う……ううん」


 意識が瞼に語りかけるように彼女の瞼は開かれた。

 瞼を開き、自分が倒れていると理解すると彼女は体を慌てて起こした。


「え……!?」


 辺りを見渡す。

 そこは一面どころか一体が暗闇の世界。辺りを見渡しても何も見えず、しかし自分の体ははっきりとして感覚もあった。


「ここは……どこ!?皆は?戦いはどうなったの!?陸島君は!?」


「大丈夫だ」


 慌てふためく彼女の後ろに、その男は立っていた。


「あ……」


 振り向いてその姿を見る。

 オールバックの髪型に、黒のスーツを着こなす一人の男性がそこにいた。


「頑張ったな……紫苑」


「……うん」


 褒められた相原の目からは一粒の涙が溢れていた。

 泣いていた相原紫苑の目の前にいたのは、彼女にとって大切な人の一人。

 相原健吾。相原紫苑の父である。そして陸島には牙谷牧久という名前で彼の世話を担当していた者でもある。


「お父さんなんだよね?」


「ああ」


「生きて……いたんだよね?」


「……ああ。そうだな。生きていたというとちょっと変だが。国語苦手だったからなんて言ったら良いのかわからないんだよな」


「なにそれ。もう」


 泣きながらも笑っていた相原。

 そんな彼女の顔に父は申し訳なさそうにしていた。


「ごめんな。母さんとお前を置き去りにして」


「あ……あのね。お父さん。お母さんは……もう……」


「……そうか」


 娘の表情を見て全てを察した父は鎮痛な表情を浮かべる。


「母さんは……俺に何か言っていたか?恨み言とかさ」


「なかったよ。お父さんは立派な人だったって。いつも言ってた。私や母さんのために一生懸命だったって。いつもいつも言ってた。命日の日にずっと……ずっと」


 幼き日の思い出に、また涙を溢す娘を父はそっと抱きしめた。


「ごめんな。一人にして。遊園地、連れてやれなくて」


「大丈夫、だよ……あのね。私、友達ができたの。たくさんいるよ。幸せで……それでね。ウォーロックの……陸島君がいるの」


「ああ。坊ちゃんの事か。あの子にも申し訳ないことをしたよ。あんな風に別れて……ちゃんとした別れの言葉も言えなくてさ」


「陸島君に?」


「ああ。いつかまた会うって。その時にはきっと紫苑も一緒に。でも結局それは叶わなかった……一人になった坊ちゃんはそのまま恐ろしい事になった」


「恐ろしい事?」


 顔を険しくした父の表情に娘の紫苑は不安げな表情を浮かべる。


「俺たちがいなくなってから坊ちゃんは一人になってから力を求めるようになった。俺たちを殺した敵を倒すために。全てを捨てて、己を鍛え、敵を殺して自分も死ぬために」


「死ぬ……?自分も!?」


「ああ。自責の念ってやつだろうな」


 ショックを受ける相原に牙谷は話を続ける。


「聞いたからさ。俺は……あの日死んでから暫くして坊ちゃんの心に残った残留思念みたいなものさ」


「残留思念?」


「ああ。多分だが……鉄明坊ちゃんにはその頃から微かにだが魔術師としての才能が有ったんだろうな。固有なのかなんなのかわからないが俺がこうしていられるのはそうとしか考えられない」


 牙谷はさらに説明を続ける。


「そして精霊に魅入られた。あの鉄の精霊に」


「鉄の精霊……!」


「ああ。奴は恐ろしい存在だ」


 顔を険しくした牙谷は説明を続ける。


「俺たちが死んでから暫くして坊ちゃんに事件が起きた」


「事件?」


「ああ。それが今の坊ちゃんに繋がったんだろう」







「どーして行っちゃダメなんですか?」


「今は二人で話を……できるのならさせたほうが良いですわ。少なくとも今の話を聞くに手にかけるなんて事は無いでしょう」


 一方、病院の食堂。

 膨れた面の流山は相原紫苑の眠る病室に行こうとしていたが、それを燦央院百合香に止められていた。


「確かにいささか、不安ではあるが……アイツもそこまで外道ではなかろう」


 そう言ったのは蛇島。

 蛇島の顔はどこか不安では有ったが、彼の目には陸島がそこまで外道には見えなかった。


「それで……さっきの話の続きなんですが」


 この流れの中で外崎は龍弦に先ほどの話について再度聞こうとする。


「ん?ああ、何故あんな性格になったのかの経緯かの?」


「それです」


「うむ。事件があって暫く、鉄明のやつは塞ぎ込んでしまった。ただ偶にな、十手を持ってそれをただ眺めている時があった。牙谷から貰った大切なものだからの。だがそれが盗まれる事件が起きた」


「盗難ですか?」


 蛇島は目を細めた。


「ああ。学校でな。必死になって探してたらしいが、その日は見つからなくてな。次の日になって見つかった」


「どこにあったんです?」


「持ってたんじゃよ。鉄明をよく思わない奴らがな」


 龍弦は自らの手を握る。


「ここからは当時のクラスメイトからの証言になるんじゃが……嘲るようにその十手を見て笑いものにした奴らに鉄明がキレて殴りかかった。一人が吹き飛ばされてからひどい喧嘩になった。鉄明が負けると思っていたようじゃがそんな事はなかった。牙谷達に鍛えられておったからな。複数人相手でも全員と戦って全員を殴り倒した。机や椅子を振り回して怪我人が出るほどにな」


 龍弦の説明に一同はゾッとした。


「怒りに満ちた鉄明によって泣くまで殴られた者もおれば、逃げようとして投げ飛ばされた者もおった。ただひたすらに暴れ回り、騒ぎを聞いて駆けつけた教師数人で、やっとの事で抑えられた。死ぬまで殴ってやるからなという鉄明の激しい叫びが忘れられないとその子は言っておったよ」


「……あの十手、余程大切なものだったんですね」


 激昂した陸島の過去を聞いて、鼠川は口を抑えていた。


「そこからじゃった。火のついたように鉄明は鍛錬に励んだ。雨の日も風の強い日も外に出て体を鍛え続け、武術や護身術を学んでおった。いずれ巡り会うであろう三人の仇を取るためにな」


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