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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部 覚醒と研磨の時

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21-6

「もう一つ?そもそもその和泉島の呪いってなんだよ?」


「……親しきものにあった時、死ぬ呪いじゃ。しかもその者も巻き添えにしてな」


「なんだそれ?つまりどういうことだ?」


 いまだ理解できぬ陸島は顔をしかめた。

 龍弦もまた同じで、顔をしかめて説明を続ける。


「アイツには……家族というかけがえのない存在がおった。しかしそれに会おうとすれば発動する呪いが掛かっていた」


「てめえの手で大切なもん殺させようとする呪いってことか?作ったやつはいい趣味してんな」


 陸島は笑う。

 だがその笑いの中には微塵も喜びがなかった。


「ああ、まったくじゃ。で、呪いを解除しておけば大丈夫……となるんじゃが相手は和泉島の家の者。牙谷は家族にも何らかの手が回っていると考えていた。そこでさっき言った秘策を打つことにした。呪いを差し替えることでな」


「差し替える?俺は呪いに詳しくないが、そんな事が出来るのか?」


 陸島の問いに対し、龍弦が答える。


「うむ。牙谷から預かった手紙によれば呪いは二つの構成をしていたそうじゃ。一つ目に引き金としての機能。二つ目に実際に起きる作用。一つ目の引き金については家族に会った時でこれを牙谷は全く別の条件に変えた。そして二つ目に関しても同じで別の者に差し替えた。これが思ったより時間がかかったものでな。とはいえ牙谷のヤツはこれでも結構急いでやってもらったと手紙に書いておった」


「そうか……でもいつ牙谷の家族についての話が上がった?」


「三日前じゃよ」


「三日前!?」


 陸島は思わず声を大きくした。


「牙谷に関する情報はどういうわけかここ数年調べようがなかった。木下曰く情報が抜けてたと。多分機関の上層部が、和泉島のヤツがやったんじゃろうが……多分そこに機関上層部も一部嚙んでるかもしれん」


「おいおい。裏切者が他にもいるってことかよ」


「……恐らくはな。それで調べられるようになって牙谷の家族について確認した結果、妻の相原涼香は既に他界。娘に関しては生存していた。名前を確認した時に木下がえらく慌てていたのを覚えておるわ」


 龍弦からの話を聞いている中で陸島はいつの間にか額に手を当てていた。

 うつむくその顔に龍弦は気づき、持ってきたカバンから一つの封筒を取り出すとそれを陸島の腹のあたりに押し付けるように渡した。


「これは?」


「牙谷からじゃよ」


――自分に何かあったら、自分が拾われた日から十年以上経過したあたりでこの手紙を渡してください。ああそうそうもう一つ条件がありました。坊ちゃんが魔女機関に属するようになると判断した場合でお願いしますよ?


「牙谷がそんな事を言ってたのか?」


「うむ」


 陸島は半ば強引に押し付けられたその封筒を手に取る。

 差出人の欄には牙谷の名前が書かれていた。


(あいつ……いつの間にこんなものを)


「ああそうじゃ。一つ聞かせろ」


 龍弦は真剣な目つきで陸島に一つの質問を投げた。


「鉄の精霊。いつからお前に憑いておった?生まれた時からじゃなかろうな?」


「それは……ないな」


 陸島は少し考えてから答える。

 困ったような顔をして彼は回答を続ける。


「俺にもよくわかってないが……もし憑りつかれたというのならそれは……多分牙谷たちが死んでからしてだったと思う」


「そうか。ならいい」


 龍弦は座っていた椅子から立ち上がり、病室のドアまで歩く。


「それ、ちゃんと読むんじゃぞ」


 がらりとドアを開き、龍弦は病室を去った。

 残った陸島はその封筒に視線を向ける。


(なんだ?いったい何を書いた?)


 ゆっくりと封筒の封を切り、入っていた手紙を陸島は読みだした。


――この手紙を読んでいるという事は、私は死んでいると思います。


 この手紙は万が一、私が死んだときの為に書き残しておく手紙、いわば遺書になります。

 先に言います。死んでしまったことは本当に申し訳ございません。

 鉄明坊ちゃんには苦しい思いをさせてしまったこと、嫌な思いをさせてしまったことは私自身、大変辛く思っております。

 さて、いきなりですが本題に入らせてもらいます。

 この手紙を書いた理由。私が何故、鉄明坊ちゃんの近くにいるようになったのかについての経緯の説明。それとお願いしたいことがあったためです。

 私は以前、魔女機関よりある任務を受けることになりました。その任務の最中で一人の魔女が裏切りました。裏切った魔女の名前は和泉島麗華。当時の和泉島家の最有力の次期当主です。彼女の裏切りによって任務は失敗。仲間も自分を残して全員亡くなりました。

 そして和泉島は自分に呪いを掛けていきました。その呪いによって私は妻と娘に会うことが出来なくなったのです。もし強引に会おうものなら、妻と娘をこの手で殺すことになるからです。助けを呼ぼうものなら、妻と娘を殺すと言ってました。恐ろしいことに彼女は機関にもそこに属する下部組織、つまりは竹月組にも息のかかった者がいると私に告げたのです。誰にも助けを求められることなく、妻子に自分の状況を伝えられることもなく私は身動きの取れない状態になりました。和泉島麗華はその間ものうのうと魔女機関に居座り、さも権威あるものとして振るっていたようです。まるで裏切ってなどいないように。

 やがて私は魔女機関から竹月組に極秘のメンバーとして派遣されるという流れになりました。相原健吾ではなく、牙谷牧久として。

 仕事はは竹月組に不穏分子がいないかどうかの確認をすること。それが私の表向きの任務でした。おそらくは、全て和泉島の手の上で仕組まれていたことです。あの日の任務で相原健吾は死んだことになっていたという改ざんまであの女はやってのけていたこともこの時に知りました。

 一方で親父さんが自分に与えた任務は橘樹家の養子の護衛。ここで自分は鉄明坊ちゃんと出会ったのです。親父さんは自分の来訪を悪く思わず、むしろ歓迎してくれました。親父さんは坊ちゃんの世話をどうするか悩んでいたようでそこで私が来たことは渡りに船だったようです。

 それから私の生活は段々と決まっていきました。坊ちゃんの世話をしつつ、スパイのあぶり出し。加えて自分にかかっている呪いの解呪もしくは書き換え。

 その最中でさらに爪島と羽田がやってきました。坊ちゃんからすれば家族が増えたような気分だったと思います。

 勿論、自分の家族の事も心配でした。でも自分を選んだ妻なら待ってくれてると信じていました。まあ、娘の紫苑にはきっと怒られる覚悟でいましたが。あの子は寂しがり屋なので。

 なぜ自分が手紙を書いてこの事実を伝えようとしたのか?

 それは坊ちゃんが魔女にかかわるものであると親父さんから聞かされたがためです。そこでいつか自分に何かが起きた時の為にこの手紙を書きました。

 先に書いておくと、坊ちゃんとの生活が嫌だったわけではありません。むしろ救われたような気分でもありました。

 自分に向けて笑ってくれる人がいるのがこんなにも心を保つことが出来るとは思ってもいませんでした。

 いつか自分は家族を半ば見捨てた存在として、坊ちゃんが自分をひどく糾弾すると心のどこかで思っていても。

 呪いの対策が完了していく中で、自分は鉄明坊ちゃんの下を離れることを決意しました。

 その理由は離れた家族への贖罪の為で、やはり自分にとって妻と娘も大事な存在です。だからどれだけののしられようと二人が元気に生きてさえいるのならどんな罰でも受け入れようと決意したのです。一緒にいるためにも、そのためにはやはり坊ちゃんの下を離れる必要がありました。

 家に戻る前に色々と計画を練る最中でこの手紙を書きました。

 その理由は自分がもしかしたら失敗するかもしれないからです。だから坊ちゃんにあえて、お願いを申し上げます。

 どの面でお願いしようとしているのか?きっとその時の貴方の表情はひどいものでしょう。

 私の願い。それは自分の代わりに妻と娘を見守ってほしいのです。勝手な願いなのはわかっています。とても身勝手な願いでしょうね。

 自分にとっては坊ちゃんも妻も娘もかけがえのない存在です。それでもこうしてお願いするのは、この手紙を読む未来の坊ちゃんが自分よりもたくましく育っていると確信があったからです。ひたむきに訓練に励む姿を見て。その姿には爪島も羽田も感心してました。

 もちろん無理にとは言いませんよ。もしかしたら妻が妻なので娘も強い子に育っているかもしれませんので。

 伝えたいことは以上です。急ぎ書いたので、抜けていたりわからない場所が多いかもしれません。

 書き慣れない遺書なのでどうかご容赦ください。

 それではこの辺で失礼します。

 貴方が貴方の思う未来へ行けることを強く願っております。

 牙谷牧久


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