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「お前らが?」
その声にはどこか人を馬鹿にするような含みがあった。
陸島の返答に思わずピキりときた蛇島だったが、深呼吸して怒りを胸に収めて話を続ける。
「ああそうだな。それでもかなり危険な状況だったさ。戦いの中で相原さんが君に向かって飛び込んだ。それからしばらくして動かなくなった君と相原さんが同時に倒れた」
「……それでどうなった?」
「君たち二人はとりあえず病院に、ここに運ばれたさ。君も相原さんもそのまま眠ったままだったぞ」
「それで一週間が経過したと?」
「そうだな。相原さんも君も今日まで目を覚まさずにいたんだが……君が目を覚ましたということは――」
蛇島が何かを言いかけたその時、ガラリと病室のドアが開く。
そこにいたのは流山と鼠川の二人。
「お前……!」
「あ、目が覚めたんだ」
流山の目には怒りが、鼠川の目には特に何か憎悪などが宿ってはいなかった。だが流山より溢れる怒りに思わず彼は後ろに引く。
「へえ。揃ってこっちに見舞いか?珍しいな」
ヘラヘラと笑う陸島にその怒りはさらに湧き上がる。
「うるさい!!お前のせいでシオンちゃんは!!」
一気に距離を詰めて、陸島の着ていた病院服の胸ぐらを掴み上げる。
「やめろ流山さん!そんなことしたって――」
「五月蝿い!!!こいつのせいで!!」
「おやめなさいな」
さらに病室に入ってきたのは燦央院。
「燦央院さん。でもコイツのせいでシオンちゃんが!」
「わかってますわ。それでも今は堪えなさい。それより陸島君。貴方にお客様が来ておりますわよ」
「客?俺にか?」
怪訝そうな顔を浮かべる陸島の前に、その男は姿を現した。
「な――」
陸島は驚き、固まった。
下駄の音を鳴らして入ってきたその男の容姿は顔に髭を蓄え、白髪の短髪を整えた老人。
老人の服装は竹の家紋が刻まれた墨色の羽織に灰色の袴を着用していた。
「どうやら目が覚めたようだな。この馬鹿孫が!」
一瞬にして距離を詰めて陸島の正面に近づき、そのまま掌底を彼の腹に叩き込む。
「がはっ……!?」
陸島は何も反応できず、それを食らって膝を折った。
「な……?!」
「うそ!?」
老人とは思えぬ俊敏な動きに鼠川も流山も思わず声が出る。
瞬時に詰め寄った動き、放たれた掌底の圧。いずれも人の域を超えていたがためである。
(なんだ……今の動き!?このお爺さんは何者なんだ!?というかいきなり陸島を攻撃したぞ!?)
蛇島の直した眼鏡がまたずれていた。
もう一度それを戻しつつ、彼はひざを折った陸島を見る。
「けっ、いきなりな挨拶くれてんな……」
「フン。お前もまだまだということだ」
息が荒れつつも、陸島はふらふらと立ち上がって老人を睨む。
状況がつかめない周囲の人間。燦央院を除いて。
「おじい様。貴方は陸島君を殴りに来たのですか?」
「いや。ふがいないから叱っただけだ。見境なしに決闘を申し込んだこのバカタレをな」
「何……言ってんだ。全部が全部じゃ――」
「言い訳無用!!」
さらに老人はもう一発、陸島の腹に掌底を叩きこんだ。
「グハ……!?」
やっと立った陸島の膝を再び折る老人の掌底による衝撃。
二度目の攻撃の影響か、陸島はその場に音を立てて倒れた。
「え……やりすぎじゃないの?」
鼠川はひきつった顔でその一部始終を見ていた。
「いいじゃないですか。馬鹿にはちょうどいい薬です」
流山はそれを見て胸のすく思いを感じていた。
「もう、おじい様。それでいいんですの?お話がしたいんじゃなかったんですの?」
呆れた燦央院の声。
老人はしゃがんで倒れたそっと陸島の顔を見た。
「……いかん、やりすぎた。気絶しとる」
どんがらがっしゃーん。
こちら、加減知らずの老人によるミスにずっこけた若人たちのずっこけた音になります。
「う……ぐう」
目を覚ました陸島。
ベッドに寝転がる彼が見たのは、白色の天井。
「おお、起きたか」
その近くで座って見ていたのは、先ほど陸島を掌底二発で沈めた白髪の老人。
「……何が『起きたか』だよ。ざけんなや」
「ああ、すまんな。そうだそうだ。話があったんじゃよ」
謝る老人はどこか笑っていた。
しかめ面の陸島はベッドから上体を起こし、老人に厳しい目を向ける。
「他の奴らは?」
「一旦、出てってもらったぞ。一対一で話をするためにな」
「俺とサシで話すためだけにか?」
「ああ」
陸島は何が語られるのか想像も付かず、目を細めた。
その頃、病院一階のロビーにて。
「まったく、おじい様は何がしたいんだか」
「燦央院さん。あのお爺さんは何者なんだい?君の祖父なのかい?」
「ああいえ。違いますわよ」
ロビー近くの席で燦央院一行が集まって話をしていた。
内容は老人についてだ。
「じゃあ誰なんですか?あのインケンを二発で沈めたおじーちゃんは。ただもんじゃないですよね?」
「嬉しそうだね流山さん」
黒い笑みを浮かべる流山に今日も鼠川は引いていた。
「ケケケ。誰かは知りませんがあのインケンを葬ってくれたことには感謝してますよ」
黒さ全開の笑みに燦央院はこほんと咳ばらいをしつつ、説明を開始する。
「えーっと……あの方は橘樹龍弦と言って、陸島君が住んでいる家の主人ですの」
「主人……というと彼はその橘樹さんのご子息か何かなのかね?」
「違いますわ。陸島君は養子だと橘樹さんが仰ってましたわ」
「養子……ということは、血の繋がりがないというのか?」
「ええ。詳しいことはわかりませんが、幼いころに家に預けられたとかで。それ以来、家の従者が彼の身の回りの世話をしていたそうですわ」
「なんと……かなりの家の育ちなのか?」
蛇島は目を見開いた。
燦央院は話を続ける。悲しい表情を浮かべながら。
「ところが……悲劇が起きた。親しかった家の従者をいっぺんに失ったそうですのよ」
「え?それって……もしや鼠川君が聞いたという話か?」
「あ、木下さんから聞いたやつだね。五年前に悲しい事件があったって聞いてるよ」
「あら、聞いてましたの。私もさっき案内する途中でおじい様から聞きましたが、思ったより重い事情のある子供のようですわね。彼」
「確かにそーですね」
不機嫌に燦央院の言葉に同調するのは流山。
「でもだからって周囲に当たり散らすのはどーかと思いますがね!」
「まあ……そうだね。あんなのに憑りつかれていたわけだし」
ここで鼠川が言うあんなのとは鉄の精霊を指す。
「お、こっちにいたか」
「あんたらも見舞い?」
さらに一行に加わるのは鴉田と外崎。




