20-7
「これどうなってるの?!」
「わかりません、とにかくこちらに!!」
何もわからず、パニック状態の陸島の手を引き、羽田は隣に爪島を呼ぶ。
爪島は片腕に機銃を抱えていた。
そしていつの間にか、木々に囲まれた辺りには雨が降り出している。
「本部に援軍を要請して!!」
「もうやってるっすよ!!」
「敵の位置がわからん!数もわからん!!慎重にいけ!」
ざわめく光景。
見たことのない表情を浮かべる三人。
手に持っている武器。
それらで状況が大いに変わっていることはわかっていた。
「あの攻撃以降は何もないな!?」
「はい!でも敵の位置は分かりません!!」
「本部から三分持たせろと連絡があったっす!」
「よし。なら移動しつつ合流を目指す。固まってたら的だ。こっちだ!!」
叫ぶように指示を出す牙谷。
銃口を周囲に向けて敵を見つけようとする爪島。
そして陸島の手を引きながら、周囲の気配を探る羽田。
「どうなってるんだよこれ!!!」
羽田の手を払って、
「ああ、大丈夫です坊ちゃん。もう少しお待ちを」
叫ぶ陸島を落ち着かせようとする牙谷。
「敵はどこに――」
牙谷が羽田に聞こうとしたその時だった。
一瞬だった。何かが羽田を勢いよく攫うかのように掴んだ。
「え?」
陸島からすれば羽田が消えたかのように見えた。
だがそんなことはなかった。
「いや、いやああああっ!!」
絶叫する彼女の叫びで一同はその方角を見る。
仰向けに倒れた羽田の上で覆い被さるようにいた何者かが、羽田の顔を引き裂いた。肉抉れる痛みが彼女を襲い、絶叫をあげる。
「こいつ!!」
爪島が即座に機銃を構えて発砲する。
しかしそれが届くことはなく、敵が放った魔力の障壁に全ては憚られる。
その時に陸島ははっきりと見た。敵の顔を。というよりは敵の顔部分を覆っていたその仮面を。
――なんだこいつは
その者は男性か女性かはわからなかった。全身をローブのような者で覆い、顔には無数に並べられた菱形の幾何学模様のような仮面をつけていた。仮面の敵はこちらを見ることなく羽田への攻撃を続ける。
「こいつーっ!やめろっつってんだよ!!」
銃が効かないと知ってか、爪島はナイフを取り出して切り掛かる。その間も仮面の者は両手で羽田の腕を串刺しにしてみせた。
「が……!」
「羽田ーっ!!」
叫ぶ爪島。彼女の腕から杖が落ちて転がる。
そして仮面の者はふわりと中に浮いて爪島の攻撃を交わしてみせた。
「まだだ!!」
隠していた一本のナイフを投げつける。
それが仮面の者の左腕に刺さる。
だが、仮面の者はそれを難なく引き抜いた。
(こいつ……普通じゃねえ!!)
刀を構える牙谷は相手のただ一つの行動で見えた異様さに驚く。
ナイフは確かに深々と突き刺さっていた。だが仮面の者はそれを痛む素振りを見せることなく、そして難なく引き抜いて見せたのだ。
「羽田!生きてるか!?」
「う、うう……」
生きてはいる。
しかし、その顔は引き裂かれ、顔の至る個所から血がしたり落ちていた。肉の抉れた裂け目から生じる痛みと血は止まることを知らなかった。
「くそ。こいつなんなんすか?!」
「普通じゃねえのは確かだ。あの仮面がきっと――」
牙谷が爪島に仮面をよく見ろと言おうとしたその時、仮面の者は刺された左手を高らかに上げて見せた。
同時に首を傾けることでそれはまるで、『今の攻撃は聞かなかったぞ』と笑っているようだった。
「あ」
陸島はその瞬間を見た。
地面より伸びた枝が針のように転がる羽田を突き刺し、彼女の全身を貫いた。
「うあぁぁぁぁーっ!!」
「羽田ーっ!!」
突き刺さる無数の枝。
絶叫する羽田はその体を動かすも、流れる血が止まることもなくそして数少ない動きを止めてついには動かなくなった。
「うわあああっ!!」
枝の群れに全身を貫かれ、虚空を見る瞳が一瞬陸島を見た。
その時、陸島は初めて知った。人の死を。知っている者の死を。
「このやろーっ!!」
仲間の死に激昂する爪島はさらに別の銃を取り出して仮面の者の頭部を狙った。
ハンドガンの九ミリパラベラムが仮面に命中する。しかし仮面は割れるどころかヒビすら入っていなかった。
「嘘だろ!?」
驚く爪島に仮面の者はまたも何も言わずに今度は人差し指を立てて、爪島の前で振るう。
まるでそんなものは聞かないぞと言わんばかりに。
「なんなんすかあの仮面。魔術道具っすか!?」
「多分な。それより退くぞ」
「逃げるんすか!?羽田がやられたのに!」
「坊ちゃんの命が最優先だ!!部隊がこっちに来てからでも遅くはない!」
「だったら俺がやります!!二人で急いで本部の方に――」
爪島が牙谷にそう言った瞬間、仮面の者は爪島の前にいた。
「しま――」
とっさにナイフを構えるも、その手ともう片方の腕を仮面の者は右手を振るって切り落とした。
よく見ればその右手には刀が握られていた。
「ぐああああっ!!」
「爪島ーっ!」
腕を落とされ、叫ぶ爪島に仮面の者は後ろにステップを取ると、さらにもう一撃と言わんばかりに彼の心臓をその刀で貫いた。
「が……!!」
即座に引き抜かれた刀によって、鮮血の海が広がる。
その中心にて爪島は倒れた。しばらくしないうちに彼もまた動かなくなった。
「あ、ああ……」
離れた場所で見ていた幼い陸島はただそれらをじっと見ることしかできなかった。
家族同然の親しき者達が哀れに、そして無残に死んでいく様を。




