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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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134/148

20-6

「坊ちゃん、誰かと一緒にいるところ見たことないんだよ」


 悲しそうな目で眠る陸島を見る牙谷はそんなことを口走った。


「え?そうでしたっけ?」


 その言葉が意外だったのか爪島は驚きの声をあげる。


「ああ、違いないさ。学校の先生がそう言ってたんだ。学校じゃいつも一人で本読んでるって。それで友達も作らずにいると。クラスメイト達も基本坊ちゃんには声をかけないそうだ。過去に喧嘩があってその際に俺ら学校に入ったろ?それ以来、坊ちゃんの周りには怖い人たちがいるって噂が広まったのさ」


「牙谷さんが子供相手にスゴんだのが不味かったんでしょ?相手の子、びびっちゃって。まああの子の言い分は相当むかつくモノでしたけどね。口元笑ってましたし」


――こいつが生意気なのが悪いんだよ。学校来る時は近くまで車で送ってもらって、いつも一人で本読んでてさ。仲間意識ってのがねーんだよ。知ってる?いじめられる方が悪いんだよってこと


「そういえばそんなこと言ってましたね……」


 羽田は沼野の当時の言葉にひいていた。

 これにキレた牙谷が沼野の胸ぐらを掴み上げて説教をかました。

 そして二人の部下に諭されて下ろした。その時点で子供の沼野は泣きべそかいてたので、もう生意気な事を言うことは無くなった。


「そういやあの子のお父さん、弁護士だったんすよね?あの後にことの全てを聞いて学校にいた鉄明坊ちゃんに謝ったそうっすよ?」


「そうなの!?」


 驚きの声をあげたのは羽田。

 どうやら後日談があったのを知らなかったらしい。


「坊ちゃんは許さないと返してそれ以降は何も言わなかったそうで」


「おおう……」


 羽田は小学生らしい意地ある返事に悲しみと驚きある声を上げた。

 車は段々と見覚えのある道へと入っていく。


「坊ちゃん、このまま大人になったらどうなるっすかねえ」


「さあ?少なくとも私たちにべったりってことはないでしょうから……孤独かしら?」


「かもな。俺としてはそれは避けたいが……状況が状況だもんな」


「本当に、牙谷さんは何も知らされてないんですか?」


「ああ、普通の子供じゃないってのは確かだ。だからこうして手練れとエースが集って守ってるんだろ?」


 牙谷は真剣な目で眠る陸島を見る。

 彼は周囲の雰囲気を知らずにのんきに眠りばかり。


「……まあもしかしたら俺たちの思い過ごしかもしれないけどな」


「そうっすね。でも魔女の子供なら眷属でそうでないなら……やっぱ眷属っすか?」


「ああ。今できるのはこの子が無事に育てることだ。とはいっても俺はもうすぐ離れる。二人とも、頼んだぞ」


「はいっす」


「了解です」


 車は町中を抜けて山道に差し掛かる。

 彼らの拠点にして家である竹月組の本拠地でもある橘樹邸まで距離はそう遠くはなかった。


「ん?」


 運転中の爪島が何かに気づく。

 道の先、人影が一つ。


「あれは……?」


「どうしたの?ってあれは――」


 遠くに見えるその影が動く。

 両手のひらをこちらに向けるかのように。


「まずい!!」


 白き魔力の光が伸びて車へと襲い掛かる。

 叫ぶ爪島は咄嗟にハンドルを切った。


「うおっ!?」


 牙谷は隣にいた陸島をぎゅっと抱えるようにし、社内の衝撃から彼を守ろうとした。


「なんだどうした!?」


「敵襲っす!!魔女一人!もう一発きます!!」


「こんな時に!?」


 羽田は既に杖を構えて臨戦態勢を取る。

 遠くにいる者は二度目の攻撃を放つ。


「ごめん、衝撃に備えて!!」


 即座に杖を振るい、魔力による盾を車の前に貼る。

 車の前で盾を張ったことで衝撃は分散され、車にダメージがいくことはなかった。


「敵は!?」


「さっきまで前に――」


 牙谷が爪島に敵の位置を聞こうとする。

 爪島は正面を指さしたがそこにはおらずーー


「……あ!右に!!」


 敵は既に牙谷たちが乗っていた車の横に寄り添うかのように立っていた。

 そして一撃をこちらを見ずに放つ。


「うわっ!!」


 敵の放った一撃が車を揺らす。

 車は衝撃によってふらつき、やがて道の脇にて伸びていた木々の一つにぶつかる。


「なに……うわっ!?」


 衝撃によって陸島もとうとう目を覚ます。

 そして置かれた状況を理解できず、パニックになる。


「何!?何なの一体!?」


「おちついてください坊ちゃん。すぐに終わりますから」


 牙谷は車から陸島を下ろし、車内に隠すようにしまっておいた一本の刀を取り出す。


(くそ……何だってんだ一体!?今日に限って――)


 抜刀し、刀身が姿を現す。

 周囲の気配を探りながら、同時に爪島と羽田も銃と杖の武器をそれぞれ構えて車内から降りる。


「敵はどこだ!」


 牙谷は魔女の羽田に問う。

 羽田は集中して周囲をその目で見渡した。


「ダメです。気配はおろか、魔力も探知できません」


「何?逃げられたのか?」


「車はもうだめです。ここからは走って逃げた方が良いっすよ」


「ああ、殿は俺がやる!!」


「ダメです!敵は魔女です。逃げたとは思えません」


――なんだこれは


 車内から降りた陸島は何が起きたのかわかっていなかった。

 突然の襲撃、放たれた光、見たことのない表情をする者たち。


「お前らのそばに坊ちゃんを。それが安全なはずだ!」


「……了解です。さ、坊ちゃん。こっちに」


 羽田が手を伸ばす。

 車から降りた陸島は震えながら羽田の手を取った。


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