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「いやーまさか十手を選ぶとは……坊ちゃんも渋い趣味をしていますね」
「そうかなあ……」
牙谷が荷物を車に運んでいる最中、爪島と陸島は売店のアイスを買って休憩していた。
陸島は買ってもらった十手に関しては車に置くことにした。羽田はお手洗いに向かった。
「そうっすよ。時代劇とかでは割と見るんですがね。アニメとかだと……誰が使ってたかなあ?」
「アニメってお前……」
「何故そんなに細い目をするんすか」
「アニメだぞ?子供が見るようなもんだぞ?」
「まあまあそう言わずに。それに今の時代、アニメは大人だろうが子供だろうが心を動かされるもんが多いっすよ」
「……スケベシーンでか?」
「はっはっは。坊ちゃん、それこそ子供の――」
何かを言いかけた爪島の頭上から鉄拳が叩き込まれた。
「何を言おうとしてんじゃお前は」
怒りの相を浮かべる羽田がそこにいた。
「待って!早とちりだってば!!坊ちゃんだってもう小学五年生だからそろそろと思いまして」
「ほう」
「……はい」
決着は威圧まとう羽田の勝利にて終わる。
「……お前ら本当はなんなんだ?」
陸島の質問がその場の空気を変える。
二人はその質問に思わず体を震えさせる。
「うーん……と言いますと?」
恐る恐る伺うのは羽田。
冷や汗こそかかないものの、内心落ち着いているわけではなかった。陸島は心のうちを晒すように語り出した。
「あの家だよ。気になることがあるんだ。普段、何食わぬ顔で過ごしてるけどさ。例えば黒服のおじさんが常に家には結構いてよく家の近くの宿舎で過ごしてるじゃん。それに食堂とかもあるし。街みたいというか……なんていうかはっきりしないんだよね。ひょっとしたら俺の思い過ごしかもしれないけどね。前に牙谷に聞いた時は近くの養護施設とか工事現場とかそういった人の手がいる場所にすぐに送れるようにって言ってた。でもスーツで工事現場って変じゃない?」
「……まあ確かにそうですね」
真剣な目つきで語る陸島の疑問に羽田は肯定せざるを得なかった。
しかして本当の事を言うのには気が引けるというより、そもそも魔女の世界のことに関しては表の世界の者、この場合は陸島のような人物には言ってはならなかった。ちなみに魔女の一族や眷属に連なる者でも、一定の年になるまでは基本知らされないのである。
(そうよねえ。気になるわよね。私が鉄明坊ちゃんだったらあれこれ嗅ぎ回ってしまうけど……。でも今日までそうしなかったのは牙谷さんが色々と気を回してたおかげかしら?)
「引っかかることがあってさ。ネットとか創作で偶に目にするんだ。この世界とは異なる世界があって、そこで戦う者達がいるっていうの。流行りの異世界転移とは違っててさ、なんかこうあるんだよ。裏の世界っていうの?もしかしたら皆そうなんじゃないかって」
「え、ええ。ようは牙谷さんや私達がその世界で戦っている人に見えると?」
「うん。こないだ見たんだ。黒服のおじさん二人が何か神妙な顔つきで話してたの。あれきっとカタギじゃないって――」
「坊ちゃん。ひょっとしてそれ……佐川と右川コンビのことっすか?角刈りで年に合わない強面のコンビで」
会話が弾もうとしたその最中に割り込んできたのは爪島。
陸島はそれに対し首を縦に振った。
「先週すか?」
「うん」
「……それ多分アダルトのあれです。DVDのやつですね」
爪島がそう言った時、場の空気が凍った。
アダルトのアレ。まあそういうものです。
「いやあ、まさかあれだけの量を買ってくるとは太い奴らで」
「サイッテー」
「いや俺じゃないっすよ?なんですかその目は?」
「佐川と右川には後で私がころ……いや、しばいとくから」
「えー……なんだよ。きたねえ」
「汚いって坊ちゃんもいずれは女に――」
「おい」
「すみません」
こんな阿呆なやりとりをしていると、牙谷が戻ってきた。
「お待たせー。いやあ車の位置わからなくなって迷っちゃったよ」
「ここの駐車場、広いもんすね。じゃあ次のアトラクション行きます?」
爪島は陸島の顔を見る。
陸島は先ほどまで浮かべていた疑問がどこかに吹き飛び、目を輝かせる。
「さっき乗ったジェットコースターにもう一回乗りたいんだけど」
「え?」
陸島はどうやらジェットコースターが気に入ったようだった。
三人はそれぞれ顔を見合わせて、そして口にする。
「わかりました!」
そして絶叫する大人達。
くたくたになる大人達の横で陸島は元気にはしゃいでいた。
まだ他に乗れるアトラクションはある。しかし、時間という制約が一向にはあった。
「坊ちゃん。そろそろ次の乗り物がラストかと」
「え?もう」
「はい。でないと家のご飯に間に合いませんよ?」
「……わかった」
表情を暗く沈める陸島に対し、牙谷は頭を撫でた。
「すみませんね。でもまた連れて来ますよ。約束ですから」
「……ほんと?」
「ええ、約束です」
「わかった」
一行は最後に乗ると決めていた観覧車へと向かう。
この遊園地の観覧車のゴンドラは一般的な遊園地のゴンドラと比べて一回り大きく作られていて、ファミリー向けにと遊園地スタッフがアピールしているほどである。




