20-1 to Five years ago -そして『五年前』に至る-
かくて楽しい時間は本格的に幕を開いた。
最初に陸島が乗りたいと言ったのはジェットコースター。最新式のコースターの高さと速度は魔女の護衛として生きてきた牙谷の心臓を掴むレベルでその絶叫は中々だったと羽田は語る。一方で陸島はそんな羽田も泣いてるかのような絶叫を上げていたよと一言チクリ。どっこいどっこいじゃないかと牙谷のツッコミに羽田は顔を赤くしていた。なお、陸島は満面の笑みだったと牙谷は語る。
次に乗ったのはフリーフォール。フリーフォールというのは一定の高さまで登った後、一気に落下して乗り手を絶叫させるアトラクションである。これを選んだのはまたも陸島。牙谷と羽田の二人はやめようと言ったが、『ビビってんの?』という陸島の挑発に何かピキりと来たのか三人で搭乗。結果、さっき以上に叫んだのである。
ここで爪島が合流。元気に歩く陸島の後ろで牙谷と爪島の二人は若干グロッキー状態になっていた。
「な、何があったんすか!?」
その様子に驚きながら駆け寄る爪島に陸島はケロッとした様子でこう答える。
「アトラクション二つ乗っただけでこれだよ」
と、がっかりした様子で答える。
「あー。そりゃあ根性がないっすね。情けない」
かっちーーん。
怒る二人。爪島の何食わぬ顔がそれに加速をかける。
「じゃあお前が乗ってみろ!!」
「そうよ!優雅にティータイム決めてたその腹の中身全部ぶちまけてしまえ!!」
剣幕に押され、爪島は困惑した様子でジェットコースターとフリーフォールに乗ることに。勿論そこには陸島が一緒だった。
その結果――
「私のお墓は綺麗な海の見える丘の上に建ててください」
ゾンビのようにふらつく一人の男ができました。
さて、ここで一行は休憩を挟んでから次のアトラクションへ。
次に皆が選んだのはまさかのお化け屋敷。ここならそんな怖いのは出ないだろうと鷹を括った魔女とその護衛達。しかして結果はというと――
「おかしい!おかしいって!!なんでこんなに怖いの!!」
そりゃあお化け屋敷ですから。
魔女としてもっと恐ろしいものを見て来た気でいた羽田は演技なしでガチの絶叫を上げ、陸島にお化けよりも怖いと言われる始末。
「おいおい。坊ちゃんがここまでいうなんて相当だぞ?」
「くくくそっすね。いやほんとにあの叫びときたらギャハハハ」
「こんにゃろーーー!!」
陸島が遊園地で一番驚いたのはオバケではなく、怒りの面にて爪島を血祭りに上げる羽田の姿だった。
一行はここでコーヒーカップなどの落ち着いたアトラクションに乗って回りつつお昼休憩に入った。フードコートにて四人とも注文したメニューをしっかりと頬張って、午後からのアトラクションに心を躍らせていた。
「あ、ちょっとトイレ」
食後の休憩中にトイレに駆け出したのは陸島。
残った三人は遊園地のマップを広げながら次にどれに乗るのかに期待を膨らませていた。
「次どれ行きます?多分坊ちゃんのことだからこの回転マシンだと思うんすけど。羽田も同じ意見っすよね?」
「いやいや勘弁してよ。私、昼に食べたチーズバーガー吐く気はないわよ?」
「でも坊ちゃんだしなあ」
わいわいと笑って盛り上がる爪島と羽田。
その様子をまるで子供を見守る母親のような目で牙谷が見ていた。
「そんな目で見られても困るっすよ。お母さんみたいっす」
視線に気づいたのは爪島。
続いて羽田が突っ込みを入れる。
「そうですよ。坊ちゃんの親なんですから」
「いや……なんというか二人には世話になったよ」
その一言で場にはしんみりとした雰囲気が漂う。
二人もそれを感知し、周囲の朗らかな雰囲気に似合わぬ表情を浮かべる。
「何言ってんすか。こっちも色々お世話になりましたよ」
「そうだったか?」
「そうっすよ。こういう護衛の任務ってやったことないもんですから」
「だろうな。魔女見習いの教育係とかならありうるかもしれんが今回はちょっと特殊だからな」
「……やっぱりウォーロックなんすか?あの子」
爪島が声を細くして質問する。
その目にはどこか申し訳なさそうな色が浮かんでいた。ウォーロックと言う単語に反応したのは羽田。顔を上げて食い入るように質問を投げる。
「ウォーロックってあれでしょ?ここ数年……っていうか数十年は出ていないっていう男の魔法使い」
「その辺りに関しちゃ、親父さんから答えが出るさ」
牙谷は爪島の問いを親父こと橘樹龍弦に投げ、食後のコーヒーをまず香りを味わってからグイっと飲み干す。
「それまでは待っててくれ」
「了解っす。おたのしみってやつっすね」
「なんだそりゃ。答えが期待外れでも坊ちゃんを責めるなよ?」
「当たり前じゃないっすか。期待外れと言えばこの隣の魔女。出会った時は学校を首席で出たエリートだってのに一緒にいてみればだらしのないことこの上なくて――」
「ふん!」
吹き飛ばした爪島をよそに羽田は牙谷と会話を始める。
「ああ、気にしないでくださいね。アイツ、出会ってからよくああやって私をバカにするんですよ」
「だらしないからじゃね?」
「そんな!牙谷さんまで!!」
「ハハハ悪い悪い。でも魔女の世界にいるよりはましだろ?」
「……はい」
魔女の世界。
羽田がその時に脳裏に浮かばせたのは、様々な人間が己が欲を満たすための謀略の領域、力を得るために行われる残酷なる儀式。そして犠牲になる無関係の人々の嘆き。
「できれば坊ちゃんにはそういう世界とは無縁のところで生きててほしいですね」
血の色広がる世界が脳裏に広がり、そこから出た答えを羽田は口にする。
牙谷もそれに対し、首を縦に振った。




