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「え?ああ勿論すよ。ねえ羽田!」
「そ、そうね。最初に沖縄、その後に札幌。野球観戦に加えてそう最後に遊園地。うん、完璧よ」
「だからどう完璧なのかを聞きたいんだが?」
どう完璧なのか。
陸島の目にはいまだに疑問によって細く、鋭く磨がれていた。
「……グルメ・グルメ・レジャー・レジャー」
「はい?」
「要は美味しいもんを食べて、食べて、そんで娯楽で思っきし遊ぶ。つまり、そういうことっすよ」
「爪島、流石にそれは無理があるんじゃ――」
「そりゃああれだよ。俺と坊ちゃんが旅行した順番だ」
困惑する羽田と爪島の前に牙谷は姿を見せる。
「牙谷……!」
目を大きく見開いて陸島は彼に近づく。
「覚えてます?幼稚園の頃に札幌まで行ってラーメン食べたの。それから今度は沖縄そば食べたいって行って沖縄まで行って……野球観戦は俺の趣味ですがね」
「遊園地もそうなんすか?」
会話に加わる爪島。牙谷は爪島の疑問に対し、首を横に振った。
「いや。ここは違う。今回初めて行く場所だな」
「え?何故すか?」
「期限だからな。それ終わったら手続きとか荷造りとかに追われちまう。すみませんが坊ちゃん。それでいいすか?」
牙谷は申し訳なさそうに、陸島に伝える。
陸島は何かまずいものを食べたかのような渋い顔をして暫く唸り声を出す。
(かわいい)
羽田は考えこむ目の前の小学生に微笑ましく見る。
陸島はまだ小学生。どこか考え込み悩む子供に見えていた。
「わかったよ。それでいい」
「すみません本当に……でもいいプランを練っておきますから!!」
「ああ」
陸島は不機嫌を残してその場を早歩きで去っていった。
爪島は去っていくその小さな背中を首を捻って見送る。
「そんなに別れるの嫌っすかね?」
「そりゃあそうでしょうよ。鉄明坊ちゃんにとって牙谷さんはお父さんというか家族ですから」
「それか……完全に別れる訳じゃないってのにな。まあ仕方ないさ。後のことはお前らに任せる気でいるから頼むぞ?」
「はい!!」
「任せてください!いずれ来る思春期の悩みもこの俺が解決してみせるっすから!」
羽田の元気な返答。
爪島の引っかかる回答。どちらも牙谷から見て微笑ましいものがあった。
(思春期か……そうなったら坊ちゃんも彼女連れてくるのかな?でもあの家に他人引き入れていいのかな?)
ふとそんな疑問が浮かぶ。
何はともあれ最後の別れに向けて牙谷の大事な計画が動き出した。
最初の旅行は札幌。陸島は思い出を振り返りつつ旅行を楽しむ事にした。
陸島が幼稚園時代に入ったというラーメン店は既に閉店していたが、爪島が代わりの店として見つけたラーメン店はとても賑わいのある店で味もとても良いものだった。
――どうです坊ちゃん?凄いでしょ俺の観察眼。隅々まで見てそれからここビシッと決めたんすよ。店長の気前の良さ、店の綺麗さ、振るわれるラーメンの味。どれもこれも最高でしょ?
爪島の観察眼に陸島は感心した。
陸島から見た爪島は以下の通り。
――爪島?ああ、あの楽しそうにしてるお兄さんのことか?アイツはよく羽田をからかってた。それでいつも回し蹴りくらって吹っ飛んでた。『なんで物理に頼ってんだよー!』っていいながら吹っ飛んでいく光景も珍しくはなかったな。俺にはよく内緒で宿題を手伝ってもらったり、おすすめの本を教えてもらってた。ただライトノベルを勧めてきたのはいいけど学校に持っていくのはちょっと刺激の強い代物だったせいか牙谷と羽田に思いっきり怒られてたな
次の旅行は沖縄。
ぎらつく太陽、蒼い海、白い砂浜。それらはありきたりな例えであったが、陸島にとって確かな思い出の一つであった。
――沖縄そばを食べに行って、海に向かった。その際に羽田がダイビングをしてみないかと提案してきた。意外だったのは羽田がダイビングの免許を持っていたということだ。ダイビングに関しては牙谷も羽田のレクチャーを受けてたけど、何かと目を光らせてた。楽しみだったんだろうな。俺がまだ幼いからそこまで深いところに行かなかったけど、それでも鮮やかな海の世界は深く目に焼き付いた。皆で笑って嬉しかったよ。そういえば海に行ったとき、牙谷はやはり暗い顔を浮かべていた。海に何か思い出もあるのだろうか
そんな疑問があったが、結局それが何だったのか陸島が理解することはなかった。
「はあ……どうして野球観戦なんだか」
その日、陸島は頭を抱えながら帰り道を歩いていた。
牙谷たちが待っているいつもの道へと陸島はその日歩いていた。思い出していたのは、野球観戦の思い出。
それは陸島にとってはどうにも恥ずかしい思い出だった。
応援チームのミスに叫ぶ牙谷、それに便乗する爪島。ルールを全く理解できず、『あれ絶対インフィールドフライってやつじゃない?』と、どや顔で言ってる羽田。
――お嬢さん、インフィールドフライの時はちゃんと審判言ってくれるよ
そう優しく言ってきた隣のおじいさんのセリフが妙にこびりついて離れなかった。
「まあ楽しいならそれでいいけどさ」
しかして日は過ぎている。
それは牙谷との別れの時が迫っているという事だ。
(離れるのはどうにもつらいな……なんとか止められないものか……)
一人歩く帰り道。
そんなことを考えていた。




