18-8
「ちなみに俺らも今日、その話を聞きましたからね。牙谷さんが近々別れるっていうの」
「……すまん。急だったもんでな。後は向こうが承認したら俺は此処から立ち去るさ」
食事の手が止まる牙谷の顔は浮かないものであった。
「まあ坊ちゃんが牙谷さんをよく慕っているって言う事はわかりましたけどね」
「そうか?」
「そうっすよ。別れることになっていじけるなんてよっぼどです。特にあの他人にあまり興味ない坊ちゃんとなると直の事っすよ」
「確かに……な」
幼いころの陸島と出会った時を思い出す。
小さきものであるにもかかわらず、その目は何か疑い深い物を見るようで、それが自分に向けられていた頃を。
「ところで何で離れるんでしたっけ?機関の指示である以上はうかつに触れられないんですけど、やっぱ口にするのはNGなんすか?」
「ああ。すまんがそういう事だ。悪いな」
「いいっすよ。訳アリの人って聞きましたけど、まさか機関からトップシークレット扱いとは……何があったかは知りませんが、俺たちも論策はしませんよ」
「すまんな。……ところで鉄明坊ちゃんの事だが」
牙谷は定食を食べつつ爪島に相談する。
「ああ、それなんですが俺と羽田で面倒見ますよ。坊ちゃんが独立するまでなら多分……十年かそこらでしょうけど。牙谷さんも完全に坊ちゃんの前からいなくなるわけじゃないんですよね?」
「ああ、そうだな。だから会いに行こうと思えば行けるさ。ただ頻度がどのくらいになるかはわからないけどな」
「大丈夫でしょ。坊ちゃんももう、小学五年生ですから」
小学五年生。
牙谷はまた陸島と最初に出会った頃を思い出した。
(坊ちゃんからしたら俺も家族のような扱いだろうな。多分父親として俺を見ていたんだろう。幼稚園の頃は近くで寝てやったり、休みの日には連れ出したりと色々してたな。最近でもそうだが。いつも坊ちゃん楽しそうにしてたから……ああくそ。いきなりはまずかった、いやでも――)
「とにかくです」
考え込む牙谷の前で爪島が口を開く。
「今はまず、坊ちゃんに納得してもらいましょうよ。ね?」
「……おう」
目的を得て、二人は食事を続けた。
牙谷はまず、陸島に納得してもらおうと思い次の日までにどう説明するかを考えることにした。
「おい、どうなってる!?敵は何人だ!?」
「わからねえ!結構いるかもな!!」
雨の夜、道の真ん中にある一台の貨物トラックを囲うスーツの男たちがいた。
いずれも険しい顔で周囲を見渡しながら暗い夜の世界をライトも使わずに潜む敵を探ろうとしていた。
(何故だ……何故ばれたんだ!?)
その中には牙谷もいた。その手には刀が握られている。
今回の任務における情報の漏洩はありえない。 そう考えながらも周囲の仲間たちと同じように必死に暗闇から敵を探ろうとしていた。
足元に転がっている仲間の死体を横目に見ながら。
「こっちは見えない!そっちは!?」
「だめだ!わからん!!」
牙谷が声を上げて仲間と連絡を取りつつ、周囲を見渡す。
しかし、敵の気配は感じ取れない。
(荷物の方には魔女が着いてる。最悪トラックをこのまま発進させて――)
「うわああっ!!」
「なっ!?」
牙谷のいる場所からトラックを挟んだ向こうから悲鳴が聞こえた。
同時に何かが焼け焦げるような匂い。向こう側から光が、炎の光が見える。
「魔女だ!魔女がいる!!」
すぐに銃声が耳に入る。
だがそれも途切れて新しい炎の光が向こうから見えた。
「くそっ。トラックを動かすしかないか……!」
殿を務める気でトラックの運転席に近くの仲間を呼びかけようとした時だった。
地面が隆起して呼び出そうとした仲間の心臓を貫き、槍は仲間を突き刺したまま高く聳え立つ。
(な……これは……二人か!?二人いるのか!?)
通常、魔女は一人一つの属性を極めている。
他属性の魔術も学ぶのは無理ではないが、適性のない魔術を学ぶというのは過酷だと牙谷は耳にしていた。
(くそ……敵はどこに――)
その時、彼の前に一人の人間が姿を見せる。
それを見た時、牙谷は目を見開いた。
「お前……どうして?荷物は――」
「……はっ」
牙谷が目を見開いた時、そこには天井が広がっていた。
「くそ……なんでまたあの夢を見るんだ」
牙谷がその夢を見たのは一度目ではない。
既にここに来てから何度も見ていた。
(ああもう……ちょっと出るか)
寝ていたベッドから起き上がり、ジャージ姿の牙谷は外に出る。
外は太陽の落ちた夜であったためか、寒さがかすかにあった。
(畜生……どうしてアイツが裏切ったんだ?アイツにはそんな理由あるようには……まああるよな。家とかさ)
部屋から廊下に出て、そのまま歩く。
すると牙谷の耳に誰かの話し声が飛び込んでくる。
「ん?この声は……羽田と、坊ちゃんか?」
玄関付近まで進んで近くの物陰に隠れる。
すると玄関の方で羽田と陸島の二人が何かを話していた。
「……じゃあ二人も牙谷がいなくなるっていうの、聞いてなかったの?」
「ええ。まあ。爪島から今日、聞かされましたね。坊ちゃんもどうやら今日のようで?」
「うん。親父とそう話してた。近いうちにいなくなるって」
内容は牙谷が去ることについてだった。
当の本人である牙谷はバツが悪そうな顔をしながらも彼らの話に耳を傾けることにした。




