表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部 覚醒と研磨の時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/153

18-7

 陸島が不機嫌になっているとガラリと教室の引き戸が開く。

 そこには頬に新しい絆創膏を貼った沼野がいた。こちらを見るや否や、しかめ面を見せる。


「あ、沼野くんだ。でも怪我してない?」


 先ほどの女子二人が沼野の方を見てぼそぼそ語り出す。


「ほんとだ。またお父さんに怒られたのかな?家厳しいって聞いてるよ」


「お父さんこないだも怒鳴ったらしいのよ。しかもまた外に追い出したとか」


「やば。昭和かよ」


 沼野は彼女達の声を気にする事なく、自分の席に座った。

 彼の席は陸島からは離れていた。陸島は彼を気にする事なくランドセルから取り出した本を読み続けていた。


(なんで俺だけこんな目にあうんだ)


 昨晩の事を思い返す。

 宿題を終えた沼野はその後に漫画を読んでゴロゴロしていた。

 するといきなり父が部屋に入ってきて、複数の問題集を押し付けてきた。


――夏久、お前には中学受験を受けてもらう。今日から人一倍、勉強してもらうぞ。良い所の中学に入って後に楽するためだ。辞めさせないからな!


(なんだよ受験って。中学生じゃないのに。口答えしたら殴ってくるし。相談しようにも父さん怒らせたら生活は……クソ!)


 顔が歪む。

 今日このあとは塾に向かう手筈になっていた。沼野の父は既に彼の知らないところでいくつか手を回していたのだ。

 高圧的な父の態度に小学生の沼野はただ従うしかなかった。一方で一年前に自分が見下していた陸島はどうだろうか。日々を変わらず生きており、今日も好きな読書をしているではないか。


(なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ……)


 歪む彼に誰も答えを、救いを与えるものはいなかった。

 そして時は過ぎていく。ついに陸島は小学五年生になった。

 その時が近づいていた。惨劇の日が。







「まさかこんな宿題が出るとはな」


 陸島が小学五年生になって暫く経過した春のその日。

 彼の手には原稿用紙が握られていた。


(家族……ねえ。)


「それじゃあ呪いは解けそうなのか?」


「はい。もうじきに。ただ機関からはしばらくはまだその場にいろと」


 陸島が五年生になってからの春。

 橘樹龍弦の書斎にて、龍弦は牙谷に呪いについて確認をとっていた。

 その場には木下もいた。


「そうですか。歯痒いですね」


「ええ。でもまあ仕方のない事ですよ」


 木下の言葉に牙谷はオールバックにした髪に触れながら答える。


「わかった。なら機関から指示があるまではここにいろ。魔女の呪いだ。何があってもおかしくない。万全の状態でここを去ればいいさ」


「ありがとうございます。ではそろそろ――」


 牙谷はドアの方を向く。いつも通り陸島のそばに居ようとした。

 だが陸島はすでにそこにいた。


「え?」


「おう鉄明。どうした?」


 龍弦が話を聞こうとした時、陸島の顔は信じられないものを見たと言う顔をしていた。どうやら書斎での会話をドア越しに聞いていたらしい。


「……坊ちゃん?」


「いなくなるのか……お前?」


「え?ああそうで……ああえっと――」


「鉄明」


 なんと言葉を返して良いのかわからない牙谷の代わりに龍弦が席を立って答える。


「すまんな。俺がちゃんと話してなかった。牙谷だが遠くないうちにお前の元を離れる。次の仕事があるんだよ」


「……なんだよそれ」


 陸島はわなわなと震えたのち、その場を勢いよくドアを閉めて離れた。


「あ……」


「しょうがねえよ。まだ子供だからな」 


 かける言葉を見つけれなかった牙谷。

 彼を励ますように龍弦が言葉をかける。


「でも親父さん、別れというのは辛いものですよ」


 木下がそう言うと牙谷ははっとなって部屋の戸を開けて急ぎその場を去った。


「……まあ言わなかった俺も悪い。しばらくしたら離れるって言わなかったもんな」


「呪いの解除がここまでかかるとは思ってなかったですし……」


 残った木下と龍弦は暫く考え込んだがこのことに関するベストアンサーはなかった。


「坊ちゃん。すみません。言うのを忘れました」


 陸島を追って彼の部屋の前に立つ。


「自分にはその……親父さんの言う通りで次の仕事があって。しばらくしたら坊ちゃんと別れます。でも二人が、爪島と羽田が残るので――」


「なんで言わなかった?」


 陸島の言葉がドア越しに伝わってくる。

 小学生の陸島が発したその言葉には重みがあった。


「すみません。いつ伝えるべきかわからなくて……」


「……いつ別れる。ここからいなくなる?」


「今のところは来月ですかね」


「……そうか」


 暫く沈黙が両者の間に走る。

 ドアを開けようにも牙谷には開けられずにいた。


「わかった。もういい。下がって良いから」


「……すみません」


 ゆっくりとその場を去っていく牙谷。

 重い空気だけがその場に残っていた。


「で、おめおめ帰ってきたわけっすか」


「……そうだな」


 夕刻。

 牙谷は爪島と一緒に竹月組の食堂で食事をしていた。


「坊ちゃんは今日は一人で食うと?」


「ああ、部屋から出てこないらしい」


「ショックだったんっすかね。別れるのが」


「ああ」


「……牙谷さん。どう言う事情があるのかは自分も羽田も知りません。でもちゃんと向き合うべきでしょう」


 夕飯のシャケ定食を口にしながら、爪島は牙谷にアドバイスする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ