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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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117/152

18-5

 陸島鉄明が小学四年生になってから暫く経った日の事。


「ん?」


 陸島が自分の部屋の中で本を読んでいた時にそれは耳に入ってきた。

 子供の泣き声だった。


(子供……?)


 耳に響くような高い泣き声が外の方から陸島に向かって聞こえてきた。子供が泣くと言うのは別に珍しくはない。だがそれが自分の今いる家の近くというのはよくよく考えれば珍しいのだ。


(ここに俺以外の子供がくる事あったか?)


 小学生ながら違和感を覚えた陸島は少し考えた後、部屋の外に出た。


「こっちからか……」


 歩いた先には竹月組の屋敷前に作られた石造りの道の先でスーツを着た大人に囲まれて泣いている一人の子供がいた。陸島から見てその子は同じ男子で背丈は陸島よりも一回り小さくて陸島はそれを見てますます不思議に思った。


(どうなってんだ?迷子?)


 歩いて近寄る。

 その間も泣いている男の子に周囲の大人はどうしたもんかと困っていた様子だった。


「どうしたんだ?」


「あ、鉄明坊ちゃん。実はですね――」


 大人の一人が陸島に向けて説明を始めた。

 泣いている男の子の名前は橘樹隼人。小学二年生でそれまでは両親と一緒に過ごしていた。だが一週間前に両親が事故で他界。孤独の身となってしまった。そこに橘樹龍弦がやって来て、彼の身柄を保護したのだと言う。


(なるほど……親がいなくなったのか。それもいきなり。そりゃあ気の毒というか可哀想だ)


 橘樹隼人の方に目を向ける。

 服装はフォーマルのスーツを着ていた。これは近くの大人曰く、両親の葬式があった後の帰りだという。


(突然一人になったってことだよな。そりゃあ泣きたくなる)


「パパとママに会うんだ!!お家に帰してよ!!」


「えーっとだね、ボク。お父さんとお母さんは天国に行ってしまって――」


「ちがうもん!!帰ってくるもん!!!」


 泣きじゃくる隼人の叫びは凄まじく、思わず大人達と陸島は耳を塞ぐほどだった。


(すげ……こりゃあてこでも動かんぞ?)


 顔を歪める陸島は隼人の叫びを胸に刻みつつそれを確信した。

 親想いの良い子だったのだろう。それが突然いなくなったのならショックもそれ相応である。その近くにいた大人達はひそひそと小声で話を始める。


「どうする?この坊や、かなり傷が深いぞ?」


「ああ、ご両親がいきなり亡くなったんだ。そりゃあ深い傷になる」


「親父さんは今どこに?」


「急に呼ばれたらしい。多分――」


 周囲がざわめく中で陸島はその間に何かを決心したのか、一歩前に出た。そして周囲の大人が気づくよりも前に隼人の前に立つ。


「ぼ、坊ちゃん?」


「まかせろ」


 いきなり目の前にやって来た自分と同じとまではいかないが、子供がいきなり来たのだから不思議に思ったのだろう。隼人は泣き止んだのだ。


「お前、お父さんとお母さんのいるところに帰りたいのか?」


「……うん」


 完全に泣くのを止めて隼人は陸島と会話を始める。


「もし帰りたいと言うのなら……そうだな。そこの屋敷だ。そこで待って大人達から指示がある。それに従って暫くはここにいろ」


「……かえれるの?」


「お前次第だ。じっと待ってれば家には帰れる。両親についてはわからないが家ならいきなり吹き飛んだりしない限りは大丈夫だろう」


「……うん」


 隼人がようやく落ち着いた雰囲気を見せた時、陸島はすぐに周囲の大人に向かって小声で指示を出す。


「何か飲み物とか出してやれ。あとお菓子。後は親父が上手くやってくれるはずだ」


「ええ。助かりました坊ちゃん」


 周囲の大人は陸島にお辞儀をした。

 そのお辞儀を背に陸島は去っていく。


(なんだろう。すごい子供がいるんだなここ……)


 その様子を見て隼人の目に映っていたのは頼りになる背中だった。

 これが陸島鉄明と将来弟分になる橘樹隼人の出会いである。







「助かったよ鉄明。周りの大人ベタ褒めだったぞ?」


「すごいうるさかったからねあの子。で、誰なの?いつまでここに居るの?」


 その日の夕方。

 陸島は橘樹龍弦の書斎にてやってきた子供、橘樹隼人について聞き出そうとしていた。


「ああ。隼人は……俺の孫でな。年はお前と二つ違う七歳だ」


 説明を始めた龍弦の顔は苦虫を噛み締める様であった。


「もう十年以上前になる。俺には息子がいた。だが息子は駆け落ちしたのさ」


「か、駆け落ちって……」


「ああ、すごく好きな人がいたんだよ。俺はそいつとの結婚に反対した」


「なんで?タイプじゃなかったとか?」


「そうじゃねえよ、なんだタイプって。俺が狙ってたみたいじゃねえか」


「爪島から借りた本でそう言う展開があった」


「よしわかった。爪島は後で〆る!!……じゃなくてだな」


 話が明後日の方角に飛びそうになったのを深呼吸で阻止し、龍弦は話を続ける。


「結婚に反対した理由は兎も角、あいつはその好きな人とずっと一緒にいたくてこの家を出た。そして暫くして子供を授かった。それが隼人だ」


「なるほど。それで……事故があったと」


「ああ、調べた限りじゃ交通事故だ」


「交通事故……」


「うむ。それで、あいつについてだがこの家に居てもらおうと思ってる」


「この家に?」


 陸島は眉を大きく動かした。


「不満か?」


「いや、別にいい。部屋は?」


「ああ、お前の部屋の近くに空き部屋を作る。ものおきにしちまってるから掃除を頼まないといけないな。後、前に住んでいた家の道具も色々やらんとな……」


 龍弦がスマートフォンを手にしてどこかに連絡を始める。


「すまん。あいつについての電話するからちょっと自分の部屋に戻ってろ」


「わかった」


 すぐに返答して陸島は書斎を後にした。

 自分の部屋に戻る途中の廊下で陸島は牙谷に出会う。


「あ、坊ちゃん!聞きましたよ。泣いてる子を助けたとかで」


 嬉しそうに近寄る牙谷。

 陸島はそれが隼人の件だと理解する。


「ああ、不思議なことに俺が話したら直ぐに泣き止んだよ」


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