18-3
「このアホがーっ!!」
「ぎゃあす!!」
強烈な拳骨が牙谷の脳みそを揺らす。
「あれほど問題起こすなって言ったよな?幼稚園の時から!」
月明かりが照らし出されるその日の夜。
牙谷は学校での一件を橘樹に責められていた。
「な……なんですか一体?」
「電話があったんだよ教師から。学校で喧嘩があって鉄明が怪我をした。それはいい。お前も知ってる」
「ええ。遅いなと思って向かったら騒ぎになってて。もしかしたら何かトラブルがあったんじゃないかって。それで爪島達と学校に突入したんですよ。そしたら坊ちゃんが倒れてて」
「普通の学校で怒声上げて突っ込むなや。周囲の生徒ギャン泣きだったぞ?」
「……すみません」
学校で騒ぎを聞いて駆けつけた牙谷の目に映っていたのは、倒れていた陸島の姿。
身体中に傷や服に出来た泥の靴跡。そして遠くから見てたそれをやったであろう者達の顔。これにキレた牙谷が激昂し、彼らに突っかかって事の詳細を全て吐かせた後、リーダー格の沼野を見つけて胸ぐらを掴んで話を聞き出した。その間に爪島と羽田には陸島の手当てをお願いした。
「学校の保健室を勝手に使うバカが何処にいるんだ?」
「すみません。俺が急げって言ったばかりにそうなりました」
「ったく……で、鉄明の具合は?」
「あ、もう大丈夫です。今は爪島達と食事をしてます」
「そうか。ちなみになんでやられたんだ?」
「気に食わないと言ってました。休みとかは良いところに連れてってもらって、成績も良くて……それでイライラしてやったと沼野ってガキは言ってました」
「そうか。ちなみにそいつの親父、弁護士だぞ?」
「……マジっすか」
「まじだ」
書斎に重い雰囲気が漂う。
「一応言っておくが、俺達は表じゃ慈善団体って事で通してある。まあ何かあっても機関が上手いことやってくれるさ。だが流石に今回の件は今後に備え、手を打っておくぞ」
「と言いますと?」
「鉄明については運動するように仕向けろ。もしここでお前と同じ仕事に就くなら尚の事だ」
同じ仕事。
牙谷の仕事は主に魔女に仕える眷属である。その仕事の日々が脳裏に流れるように思い出された時、牙谷は渋い顔を浮かべた。
「こっち側ってことは……やっぱ眷属の子供なんすか?」
「そうだな……魔女の子って話はしたと思うが――」
橘樹は牙谷に信用を見せたのか、陸島鉄明という子供の正体について自分の知っている限りの情報を牙谷に話した。それら全てを話し終えた時、牙谷の顔は凍りついていた。
「ま、待ってくださいよ、それがマジなら坊ちゃんは……」
「そうだな。だからこそだ。頼めるか?」
「……はい!」
牙谷は少し考えたから勢いよく返答をした。
そして陸島は知らぬうちに魔女の世界で生きていくための演習を小学生ながらやっていくのである。一例としては身体作りのためにジョギングなどの有酸素運動。それから剣道や柔道などの武道。これは橘樹龍弦の趣味ということで通した。陸島は過去のリンチの件もあってこれに意欲的に取り組むようになった。その中には弓道も含まれていた。
陸島に修練をやらせようと決意した牙谷。
その頃、沼野の家では激しい罵倒が家に広まっていた。
「この馬鹿が!!俺がわからないと思っているのか!!」
沼野の父が学校からの連絡を聞いて激昂し、ビンタで床に突っ伏せた沼野に数発の力のこもった蹴りを浴びせていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
泣きじゃくる子供に父は容赦なしに制裁という名の暴力を振るった。
「貴方もうやめて!!」
止めに入る母にすらビンタを叩き込んで父は息子を殴る。
「いいか?お前がどれだけ正しくてもリンチなんてクズのやる事だ!!お前のせいで俺の仕事が減ったらどうなるんだ!!ええ!?言ってみろこのクズ!!」
腹に数発蹴りを浴びせて返答を伺う。
「お、お父さんの仕事がなくなります……」
「ぶー。ハズレ!!」
蹴りが一発。
子供は悶える。
「答えは『お父さんが無職になってお母さんとお前がご飯を食べられなくなる』だ!!わかったか!!」
「……はい」
「よし。わかってるなら今日は外で過ごせ」
息子の胸ぐらを掴んで玄関まで引きずる父はそのまま息子を外へ放り投げた。転がる息子を見て鼻息を鳴らして家のドアを勢いよく閉め、鍵をかける。
「貴方、もうやめて!」
「黙れ!!あいつのせいで俺の地位が揺るいだらどうなるんだ!!弁護士の息子がイジメだなどふざけるな!!」
怒り狂う父の怒声に母はただ縮こまるばかり。
「俺がどれだけ苦労してると思ってるんだ!!誰のおかげであいつとお前が飯食えてるか言ってみろ!!」
ドスドスと音を立てて自分の部屋のドアを轟音を立てて閉めた。
そして外に放り出されたズタボロの沼野は寒空の下で震えていた。
(なんで……なんで俺がこんな目に……)
答えを見出す日はまだ遠い。
そんな家族を遠くから見ているものがいた。
「へえ……噂の弁護士、面白そうって思ったけどまさかここまでとはね」
その者はニヤリと笑ってその場を去っていく。
企みを胸に夜の闇にその姿を消していった。




