17-1 Five years ago -出会い-
「う……ううん……」
相原紫苑の意識が次に覚醒した時、彼女は見知らぬ場所にいた。
「え?ここって……?」
辺りを見渡す。
そこは畳の敷かれた部屋で周囲には桐箪笥に掛け軸、さらには襖に廊下側には閉じた障子が並んでいた。部屋の大きさは八枚の畳からしてそこそこの大きさがあった。
「私、どうして……ここに?そもそもここはどこなの?」
「ここは橘樹の屋敷だ」
声がした。その方を向く。
そこにいたのはスーツを着たオールバックの髪型の男性。
年は相原から見て若くは見えなかったが、木下ほど老けているようには見えなかった。
「あなたは――」
ぼやけて見えるその者を注視しようとした時、彼女の脳に痛みが走る。
「う……」
「何故ここに君がいるのかはわからない。恐らくは君が振るった魔術のせいだろう」
「私の……魔術?」
先ほどまでの光景を思い返す。
暴走していた陸島を抑えようと一人彼の下に飛び込んで魔術を振るおうとした自分がいたのを。
「もしかして……あの時の?」
「心当たりがあるようだね。ならば良い機会かもしれない」
「どういう……こと?」
痛みがひいてゆらりと立ち上がる相原。
スーツの男性は部屋のある箇所を指差す。
「知りたいのだろ?彼の……陸島鉄明の過去を。ならば流れに沿って行きなさい。そして五年前に何が起きたのかを……彼の悲しみの全てを見るんだ」
揺らぐ男の虚像が彼女の前で一つになろうとする。
相原はそれをじっと見つめる。
「あ……え!?嘘!?」
目を凝らしてはっきりと見えたその姿に相原は驚愕した。思わず彼に触れようとする間際に男は消えてしまった。
「なんで……どうして?」
驚き、困惑する相原の内が収まらぬ内に男が指差した先で物語は幕を開く。
(あ、あれ……?)
その方角を見た時、同時に相原は何かに引っ張られるように意識を掴まれる。何が起きているのか彼女には知る由はなかった。
「待って!どうしてそこにいるの――」
声が響く前に相原の意識は深く沈み、今いる世界の中でその情報をただ享受するだけとなる。そして時は動き出した。
男が指さした先にいたのはゲーム機に夢中になっている幼い一人の男の子がいた。髪は短く整っていて、服装は幼いにも関わらずスーツを着ていた。
「くそ……こいつ……!」
しかめっ面で画面の向こうの敵にひたすらに戦っている坊やは必死に指を動かしながら夢中だった。
この坊やは陸島鉄明。当時、まだ五歳だった。
「坊ちゃん、失礼します」
部屋に入り込んできたのは黒髪の男性。
「きのした?どうしたの?」
部屋に入ってきたのは木下と呼ばれた男性。
今の木下とは違い、顔立ちに幾分か若さが見える。
「ああ、親父さんのことですがやはりしばらく離れると――」
「じゃあいいよ!どっか行っちゃえよ!!」
「そう言わないでください。親父さん、泣きますよ」
「うるさい!!僕は結局一人なんだ!!」
叫んで怒る坊やの目は赤くなって、涙がポロリとこぼれ落ちる。
それを見て木下は申し訳なさそうにしたが、すぐに幼い陸島に向き直る。
「それでなんですが……一人紹介したい人がいるんです」
「……しょうかい?だれ?」
泣き出す陸島に木下は廊下の方を向いてそこにいた男に声を掛けた。
「入っていいぞ」
木下の呼ばれる声に合わせてその男は入ってきた。
「こんにちは。君が鉄明君だね?」
部屋に入ってきた男は髪をオールバックにし、しわ一つないスーツで彼の前で正座をしてにこやかに笑った。
「……だれ?」
「この人は親父さんの代わりに鉄明坊ちゃんの隣にいる事になった牙谷です。牙谷、自己紹介を」
「はい。牙谷って言います。これからよろしく!」
牙谷は迷わず陸島の前に手を伸ばした。
握手を求めるその手を陸島は何を示唆するのかわからず、ただその手を見ていた。
「……こいつしんじていいの?」
陸島は木下の方を見る。
「大丈夫ですよ。親父さんみたいにそうそう裏切りはしません」
「裏切り?親父さん、何かやらかしたんですか?」
「おやじ、俺とずっと一緒にいるって言ったのにしごとだなんだでいなくなった」
陸島は膨れた面で坊やなりの事情を口にした。
それを聞いた牙谷は『あー』と声をあげて納得した。
「確かにそれなら人間不信にもなりますわな。うん、親父さんが悪い」
「そーだそーだ。アイツうらぎりものだよ。こばやかわひであきって奴と同じだよ」
「牙谷、あまり悪ノリしない。あと坊ちゃん、どこで覚えたんですか小早川って」
「え?おやじと見てた関ヶ原の戦いをやる映画」
「関ヶ原!?渋!!」
木下は突っ込まずにはいられなかった。
親父こと橘樹龍弦の趣味をそのまま幼い陸島に見せるというのは如何なものかと。
「ハッハッハ!!こりゃあすごい!大物の予感しますよ木下さん!」
「そうかなあ……」
「まあ何はともあれ、これからよろしくお願いしますね坊ちゃん!」
疑問に思う木下の横で牙谷は親指を立てて笑う。
「……わかった。今は信じてやる」
「また渋い言い回しですな、木下さん」
「これは違うと思うぞ」
バッサリとしたツッコミ。
牙谷と陸島の出会いは意外と楽しげな者であった。
十年前、牙谷と陸島が出会った日の事である。
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