16-5
「皆も早く逃げて!急いで!!」
三田川は離れた位置にいた。相原達に大声で指示を出す。
「ウオォォォォッ!!」
「させるかこんちくしょー!!」
流山が大蝦蟇のフロウとともに彼に立ち向かう。
大蝦蟇が自らの体に纏う放つガマ油を前の方に集中させると、それをそのまま陸島に向かって放つ。
「グウ……!!」
ガマ油の弾丸を直前に避ける。
だがそれが間違いだった。
「そこ!」
一本の苦無が流山の手より放たれていた。
それがガマ油の弾丸に命中するとそれは爆発して陸島を吹き飛ばす。
「グオッ!?」
吹き飛ばされる陸島は空中で体勢を戻して地面に着地する。
しかしその足元は震えが見えていた。
「よーし。もう少しでトドメですよ皆さん!!」
「いやトドメ刺したらダメだよツバキちゃん!?」
「ああそうでした……えーっと気絶とか?」
「それ!それでお願い!!」
慌てる相原の提案に親指を立てて了承する流山。
それを見て三田川は笑い、確信を持った。
「よしそのまま抑えてて!すぐに駆けつけるから!!だから――」
「ほう。我の前で自由に振る舞えると――」
「今私が喋ってんだよ!!」
後輩達の成長に笑っていた三田川は即ブチ切れた。
そして杖は勢いよく振るわれた。
直後、精霊の周囲に根の群れが檻となって、そしてさらに精霊自身に強く絡みつく。
「これは……!」
精霊は目を見開き、認めざるを得なかった。
三田川の持つ魔力に。技能に。
「なるほど。どうやら貴様、本当に只者ではないな?」
「ええ。どっかの誰かさんが舐めた真似してくれたおかげで誰も死なさずに済んだからね」
「舐めた真似だと?」
「ええ。……あら?ひょっとして全力だったの?さっきの精神攻撃が?」
三田川は精霊に向かって申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「だったらごめんなさいね。あなたの事、過大評価してたわ。精霊さん!」
根は勢いよく締め上げ、精霊を絞り殺す勢いまでその身を締め上げる。
「舐めるなよ。魔女が」
精霊は顔色ひとつ変えずに絡んでいた根の群れに対し、魔術を行使する。根の群れは周囲に現れたぎらつく鉄の刃によって勢いよく裂かれて大地に散って行く。
「嫌になるわね本当!」
自由のみとなった精霊に直後、三田川は飛びかかって勢いある鉄拳を叩き込む。強烈な衝撃が精霊を襲った。
「グハァ……!」
それによって精霊は後方に勢いよく吹き飛んだ。
闘技場の壁に激突し、悶え声を上げる。
「ふう。困ったわね。あと何発叩き込めばいいのやら」
「……え?み、三田川さんってあんなに強かったのかね!?」
蛇島が大きく目を見開いた。
実力者という話は何処かで聞いた。しかしその実力は蛇島の想定を上回る魔力と実技で彼に衝撃を覚えさせたのだ。
「だな。あれなら陸島を宥められたんじゃね?」
鴉田は考える。
あの一撃なら陸島を大人しくできたのではと。
「男子寮が血に染まるが……まあいいか」
「いいんかい」
蛇島に突っ込みを入れる外崎。
「避難できました三田川さん!」
「よし。それなら――」
三田川は自身の後方に杖を振るった。
魔力によって大地は呼応し、一枚の大きな壁を起こす。闘技場は二つに分かれた。片方に陸島と相原達。もう片方に三田川と鉄の精霊。
「こっちは抑えるから皆は陸島くんを抑えて!」
「ウオォォォォッ!!」
「げっ!来た!」
その時だった。陸島の姿が消えたのは。
「え?」
相原は驚く。確かにそこにいたはずの陸島が消えたのだ。
次の瞬間には彼は相原達の後方にいた。
困惑する一同は落ち着く間もなく、突然血を腕や足から噴き出す。
「うあぁっ!!」
相原、流山、蛇島、燦央院、鴉田、外崎のいずれもがダメージを受けていた。信じられないことに彼は高速で移動し、その最中に両手の鉄の凶爪を勢いよく振るって周囲に斬撃の群れを引き起こしていたのだ。
「皆さん立てますか!?」
膝を降りながらも燦央院は大声で叫ぶ。
声に呼応して皆もフラフラとではあるが立ち上がる。
「どうにかな……だがアイツ、倒れる気配がないぞ!?」
「精霊のせいでしょうね。体力も大地の魔力である程度は補填できている。だから精霊を倒すかあるいは陸島を完全に殺すか。もしくは――」
さらなる一撃が燦央院に振るわれる。
彼女はそれを迎撃しようとするが足に力が入らずにいた。
「な――」
再び地面に崩れる燦央院。
腕だけでなく足にも傷があったのだ。
「燦央院さん!」
叫ぶ蛇島。
手を伸ばし走るも、陸島の振るう凶爪には彼女への距離からして間に合わない。
(やめろ……やめろくれ!!)
蛇島の脳裏に、最悪のシナリオが浮かぶ。
それは再現されることはなかった。
「やめて!!」
陸島の後方に勢いよく蔦が伸びて彼に絡んで動きを止める。
蔦は彼の四肢を関節を抑えるかのように絡んで、陸島の自由を奪ってみせた。
「相原さ――」
蛇島が彼女の方を向いた時、そこに彼女はいなかった。
正確には蛇島の視界から彼女は離れて、そのまま陸島の方に駆け寄っていた。
「何をする気だ!?」
「もういいの……もういいのよ!!」
彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
駆け寄る彼女は陸島の体に触れて直接彼を抑えようとする。
「シオンちゃん!?何を!?」
「直接抑えるの!これ以上戦ったら大変なことになっちゃう!!」
今の陸島の体は精霊によってある程度魔力が送られて振るう魔術を支えていた。
しかし限度はある。
「グアアアアアっ!」
左腕より血が流れ出す。
それまで彼らが与えた攻撃とは無関係の場所である部位から。
「これ以上はダメ……やめて!!」
泣きながら必死に願う相原。
――お願い。助けて……お母さん。お父さん!
その時だった。
相原が光に包まれたのは。
(え!?)
包まれたのは相原だけではない。
陸島もまたその光に包まれている。
(何……これは?!)
困惑し驚く彼女の元に声は届く。
――戦う。戦うんだ!散っていった三人のためにも。俺は戦わないといけないんだ!
「え?」
相原の意識は光に飲まれていく。
逆さに落ちる意識を誰も止めることは叶わなかった。
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