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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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16-1 鉄の精霊 -数多の悲しみを刻み、それを振るう者-

「お、おい。何だねあれは……?!陸島は一体何をしたんだ!?あの詠唱はなんだ!?」


 蛇島は陸島の上に現れたその存在に恐れおののく。


「詠唱……まさか――」


 目を見開いて陸島の頭上にいる怪物と見間違うそれを見た。


「お嬢様!!」


 燦央院の下に駆け寄る一人のメイド。吉川である。


「吉川。あれは一体……いや今はそんな事より――」


「避難してください!今すぐに!あれは鉄の精霊です!」


「なんですって!?」


 吉川の報告に驚く燦央院。


「く、くろがね……の精霊?」


 鼠川はその存在を知らなかった。


「嘘でしょ?何であいつに!?」


「わかりません。調査したところどうやら以前に逆奈義家とのいざこざがあったらしく覚醒したらしいのですが……。逆奈義家の者が言ってました。奴は鉄の魔術を振るったと」


「馬鹿な……ありえませんわよ」


 鉄の魔術は呪われている。

 振るうものに深き怨念と消えぬ叫びを与え、狂い殺すと燦央院はかつて教わったことがあるのだ。


「ちぃ!とにかくあれを何とかしないと相原さんがやばいんじゃないのか!?」


 そばに置いてあった自作のレールガンを準備しながら蛇島は周囲に声を上げる。

 相原紫苑は先ほどの戦いで既にほとんどの体力と魔力を使い切ってその場に崩れていた。

 一方で精霊に憑依され暴走している陸島はその目を紅く染め上げて相原の方を見ていた。


「ええ。これはもう決闘どころじゃ――」


 燦央院が武器を手にした時、すでに一人が闘技場の相原に駆け寄っていた。

 そのそばには大きな蛙がいた。


「流山さん!?」


「鼠川君はそこにいて!いや逃げて!!」


 相原の下に駆け寄るのは流山椿。

 親友の危機にいてもたってもいられなかった。


「だね。あんたはここにいな」


「ああ。避難してもいいぜ!」


 続いて外崎と準備を終えた鴉田が闘技場の舞台に降りる。


「吉川は周辺の人に避難を促して。蛇島君。準備はできておりますの?」


「ああ、今こそ修行の成果を見せる時だ!」


 燦央院もいつの間にか持っていたハルベルトを手に、蛇島とともに戦いの舞台に飛び込む。


「二人も!?」


 鼠川はぽつんとその場に残る。

 戦えない自分への罪悪感とともに。


「鼠川さん。こちらへ」


「え……あ、はい!」


 一瞬戸惑ったものの、吉川の案内を受けて一度彼はその場を離れることにした。


(皆……気を付けて。あの陸島君、何かおかしい!)


 皆の生還を願いながら彼は吉川とともにその場を離れた。


「ふむ。地上に久方ぶりに表れたが、これは中々」


 一方、鉄の精霊は周囲を見渡す。

 決闘によって大地のめくれ上がった闘技場。 そして目の前には膝を折ってこちらを怯えた目で見る少女の姿。


「ああ、君のおかげで我は久方ぶりに外に出られたよ。感謝する」


 精霊の言葉に相原は怯えた目から一転して驚愕の表情を見せる。


「嘘、でしょ……?」


「嘘ではない。我がこの者を動かすには……今は陸島と言ったか?ようはこやつに目いっぱい傷ついてもらう必要があったのだよ。その役割をお前が果たすとはな」


「なんで……どうして陸島君に?」


「それは簡単だ。この者は普通のウォーロックではない。我を宿せる悪意と憎悪。悲しみを知り、惨劇の中心にて嘆くものであるが故よ!!」


 精霊は笑う。


「貴様は考えていなかったか?この者が何故鉄の魔術を使えたのか?存在してはならない鉄の精霊を宿せるのか?なぜ今までこうしていたのかを」


「それは……どうして?」


「我の願いの為だ」


 蝋燭の火のように揺らめく精霊は語り続ける。その時だった。


「今だ!!」


 精霊の周囲に細く鋭い風を纏った槍が顕現し、それが一斉に陸島に降りかかった。


「む?」


 精霊は槍に目もくれず頭上を見る。

 降りかかった槍は全て陸島に命中し、彼は叫んだ。


「よし。命中!」


 鉄の精霊の視界の先で陸島の周囲を取り囲むようにその部隊は宙に浮いて現れる。

 いずれもが黒のスーツを着た女性の集団。その中にいた黒髪のポニーテールの女性がその手に持った剣を陸島に向けて語る。


「さて……どうだい今のは。聞いたんじゃないのかい?」


「グウ……アア……」


 膝を折ってその場に苦しんでうずくまる陸島に思わず相原が立ち上がる。


「だめ!それ以上は!!」


 声に気付き、一人の女性が相原に近づく。

 スーツにポニーテールで長い髪をまとめたその女性は相原の前で膝を曲げて挨拶をした。


「こんにちは。相原さんだよね?」


「え?あ、はい」


「私はこのグループを率いているエメラルド・ナイフのリーダー、根岸よ。で、先に謝っとく。ごめんね。あの子には最悪……死んでもらうから」


「……え?」


 根岸が申し訳なさそうに相原に告げた。相原は自分が何を言われたのか分からなかった。

 陸島鉄明を殺すという者たちが現れた。その事実を飲み込めずにいた。


(精霊を呼び出しているのはあの子。呼び出し元の人間は精霊とこの場所を繋ぐ楔になる。ならばあの子を倒せば精霊も自然に消滅する。とはいえきついわねこの仕事……まあ校長先生のお話通りならあれは魔女……いえ、全人類にとっての災いになる!)


 覚悟を胸に根岸は精霊と彼に刃を向ける。


「だめ!やめて!!」


「いいんですか根岸さん!?本当に!?」


 金島が最後に確認を取った。

 彼女は陸島との戦い……その果てにある彼の命を摘み取ることに躊躇いがあった。


「いいわよ。責任は私が取る。みんな、行くわよ!」


 叫んで止めようとする相原の後ろで根岸が苦虫を噛み締めたような顔で決意。


「かかれーっ!」


 集団でいっせいにその魔女たちが陸島に襲いかかる。


 一歩も動けずうずくまる陸島。しかし――


「あまいな」


 精霊は自らの揺らぎを、存在の揺らぎを気にすることなく己が魔術を振るってみせた。

 直後、大地より現れたのは敵を串刺しにするための無数の刃。それが術者に一斉に襲いかかる火の粉を振り払うために勢いよく召喚された。


「おおっと!!」


 その攻撃を予知していたかのように根岸は、集団はその刃の大地から飛び上がって回避した。


「誰も刺されてないよね!?」


「大丈夫です。今ので刺されるバカはウチにはいませんよ!」


 金島が大声で伝える。

 エメラルド・ナイフはそう簡単には折れない。


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