15-6
「す、すごい叫びですね……!?」
「ええ。陸島君ここまでやるとはね……!」
西側のゲート近くから覗くように見ていた布塚と三田川の二人にも、その聞く人すべての耳を裂かんとする声は届いていた。初めて直接目にした陸島の戦い。
(凄いわね。若い時の私もあんな風に振舞ってたっけ……?)
放たれた叫びに三田川は耳を抑えることはなかった。
彼女の左の手のひらを前に向けて猿叫を抑えていた。そして猿叫によるかつての自分が思い起こされて思わず笑みが浮かぶ。
「う……ああ……」
一番近くで聞いていた相原もついには杖を持ったままの手で耳を塞ぎ、陸島を捉えていた。魔術の構えを解いた。
(今だ!!)
根の檻がついに完全にしなって、陸島は脱出に成功。好機とみてそのまま一気に走り抜ける。
(ああ、確かにお前は強かったよ。だがそれだけだ)
まっすぐに駆けて彼女へと迫る。
刀を拾うことはなく、そのまま陸島は地面にうずくまる相原に向けて反撃を優先した。魔術の行使よりも走って殴る。それが一番だと理解していた。というよりそうせざるを得なかった。
――さっきの攻撃で魔力はほとんどない。だから直接攻撃で潰す
距離は十分に詰められる。
拳に力を込めて構える。
「だめ!!にげてぇー!!」
流山の泣きそうな叫びも届くことはない。
陸島の握った拳が振り下ろされようとしていた。
「じゃあな」
その時、うずくまって苦しんでいた相原がまっすぐに陸島を見た。
「まだよ」
「何!?」
――しまった。フェイントか!?
陸島が気づいた時にはもう遅かった。
相原は真っ赤になったその目に涙を流しながら、一気に彼女は息を吸い込んだ。その体に魔力を集中して。
「ウアァァァァーーーっ!!」
「しまっ――」
大きな叫びが陸島を襲った。
その大声に思わず後ろずさって耳をふさぐ。相原もまた猿叫を繰り出したのだ。
「うそぉ!?シオンちゃんもあのインケンの真似を!?」
「そうか!同じ大地の魔術か!!」
流山が親友の行動に驚き、鼠川は気づく。
「いや確かに出来ますけど、あのシオンちゃんが大声を上げるなんて!」
「でもこれで状況はまた変わる」
外崎は笑った。
評価したのだ。この状況をあっさりと返したその行動を。
「どうしてそうなの!!」
叫びを止めて杖を振るう。
大地より招来される根の群れが陸島を直接捕まえる。
「またこれか――」
「いつもいつも一人で!」
さらに杖を振るって囚われの彼を吊り上げると、右に左に彼を振り回す。
「私の事をないがしろにして!」
そして一度陸島を地面にたたきつける。
「ぐはっ!!」
大地がへこむほどの衝撃が彼を襲う。
「私の何が嫌なの!」
そのまま勢いよく放り投げられ、彼は地面にぶつかって転がった。
――お前に興味がないからに決まってんだろ
そう言いたかったが、転がり叩きつけられた今の彼にはそんなこと言う気力などなかった。
そしてその一部始終を見た鼠川たちは唖然としていた。
――め、めちゃくちゃお怒りでいらっしゃる……!
相原のお怒り具合に一同は恐れ、固まっていた。
一方で陸島は返答することなく、ゆらりと立ち上がる。
「げっ!まだ動けるのか!?」
鴉田は思わず後ろに引く。
未だ底知れぬ彼の異常な体力に。執念に。
「うう…ぐ」
ふらついている陸島の足。
「いやでも限界みたいですよ?もう少しです!」
涙目になりながら、彼女は立ち上がって再び陸島を捕まえた。
先ほどの檻とは違って今度は根で直接触れる形で。
「なんだこれは……くそ!離せ!!」
「絶対にいや」
杖を向けてその根の一本一本に魔力を送る。
締められるその中で陸島は未だに暴れ続けている。
「うわー……ここまで動けるっていうのは引きますね。ってゆーか、何で泣いてるんですシオンちゃん?というか怒ってません?」
「そりゃあこれまでも気になる子に散々突っぱねられてたからでしょ。おまけに今度は自分から痛めつけてるから。心中お察しするよ」
半笑いで外崎は流山の疑問に答える。
『そーですかね?』と流山は不思議に思う。
「まあこれで陸島のヤツも懲りたか?まさか相原さんが自分で解決するとは思ってなかったが」
蛇島が眼鏡を上げつつその光景を目に焼き付けるように見る。
根の群れに捉えられた陸島。それを操る相原は自分の目をこすって杖を向けたまま。
「ええ。相原さんったら何も決闘を受けなくてもよかったのに……にしてもこれは大金星ですわ!」
燦央院が笑う。
決闘は終わりへと近づいていた。
「勝負ありましたねこれ。あの坊やもたいしたことなかったですね。燦央院さんに勝ったのはやっぱ偶然。わざわざ私たちが来る必要なかったんじゃないんですかね」
一方、鼠川たちとは違う場所で集まって座っていた魔女の集団の内の一人がこの試合における相原の戦い方について感想を述べていた。
その女性は着ていたスーツのポケットからスマートフォンを取り出して時刻を確認する。
一方で話しかけられていたポニーテールの女性こと根岸はしかめっ面で試合をただ見ていた。
「……根岸さん?」
「寒気がする」
「え?」
「金島。準備して。何か変」
何かに気づいた根岸は金島に目を向ける。その目を見て金島に不穏が走る。
「わ、わかりました」
金島に合わせて周囲も各々杖や武器を手にする。
根岸の言う寒気という言葉から感じたもの。それが何なのかを根岸自身、口にすることはできなかった。行ってしまえばそれは本当にただの予感でしかなかったのだが、彼女のこれまでの魔女としての経験がそれを知らせていた。何かが起きようとしていることを。




