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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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100/118

15-5

(くそ……こいつをどうにかしなくては!)


 陸島の周囲をうごめく生命力あふれる茶色の根っこの群れは、彼を中心に檻のような形を作り、その中で彼は今にも怒りを爆発させる勢いだった。根っこの一本一本には相原の魔力が内に送り込まれ、それによって太く丈夫だった。


「随分と良い趣味してるじゃねえか。なあ!!」


「……ッ」


 檻の中で荒れ狂って叫ぶ陸島の気迫はたとえそこにいて安心できるとしても油断できぬものがあった。まるで今にもそこから飛び出してきそうなそんな勢いが。しかしその檻に魔力を送り込み続けることである程度の丈夫さはまだそこにある。


(大丈夫……あの籠が出来たのなら、そう簡単には出られない。私が何かのはずみで解除しなければ――)


 冷や汗を流しながら、杖をその檻に向ける。

 中にいる陸島は状況をどうにかしようと檻を形成する根の一本に魔力を込めた両腕でちぎろうとしていた。しかしその根びくともしない


「無駄よ。それはそう簡単にはほどけないから」


「ああそうかい」


 杖を向けて陸島から視線を決して放そうとしない相原。

 観客席では今の陸島の状況を笑っている者がいた。


「ケケケ。ざまーです。動物園のサルみたいにもがいていりゃあいいんですよ」


「流山さん。その言い方はないよ」


 あざけり声をあげる流山に鼠川はドン引きだった。


「そうですね。動物園のお猿さんに失礼ですね」


「わー絶好調だね」


 『そっち!?』とかではなく彼女の毒舌のキレを褒めた。

 かれこれ何度目かわからなくなったが今日の流山はどこか調子がいいらしい。


「……このままいけば相原さん。勝てるのではなくて?」


 そう口にしたのは燦央院。


「それはどういう事だね――」


 蛇島が何故と問いかけたその時、陸島は再び膝を折った。


「なんだ?どうしたんだアイツ?」


「……あの檻、まさか」


 不思議に思う鴉田。一方、外崎は何かに気づいた。


「聞いたことがあります。大地の魔術には高等な戦い方があると。それは相手を蔦や根っこで覆って支配することで、その中にいるターゲットの魔力や体力をすする魔術があると。あの檻は恐らくそれをなしているのでしょう。だからこのままであれば相原さん、勝てますよ」


「流石シオンちゃん。やっぱ天才ですよあの子は!」


 にやりと笑った燦央院、親友を褒める流山。


――怖ぇ!!


 一方、男子一同は怯えていた。

 何もできずに搾り取られて死んでいく恐怖を想像し、震えたのだ。


「えげつないね。趣味が悪いとまではいわないけど結構やってること恐ろしいじゃん」


 男子三人と同じ意見だったのは外崎。

 青ざめた顔こそしなかったものの、その内心は引いていた。


「だよね!?ふつーに考えてあぶないよね!?」


「だな。相原さんめ、こんな技を隠し持っていたのか……」


 外崎の意見に鼠川、蛇島は同調。


「でも相原さんに搾り取られるのはありかも」


 呟く鴉田。

 それにドン引く一同。蛇島がぶちこむグーパンで転がる鴉田。


「ぐはっ!!」


「皆、あれはスルーしたまえ。変な方向に話が持っていかれる」


「いたた……搾られる側より搾る側が良いとか、鬼畜気取りのつまらんやつめ」


「誰が鬼畜だ!」


「蛇島君。さっき自分の言ったセリフ思い出して」


 突っ込む流山。

 その間にも陸島は魔力と体力を吸われていた。


(くそ……外野はにやにやして俺をあざけりやがって)


 観客席の燦央院達に視線を移し、彼女たちが時折こっちを見て笑っていることに腹を立てる。その間にも、自分の内から何かが取られているのがわかる。

 それが魔力と体力であることは理解できていた。だがだからと言ってそれをどうにかする機会はなかった。


(畜生。この根っこ、思ったよりかてえ)


 目いっぱいの魔力で力を込めた。だが根っこはびくともしない。

 檻の外にいる相原をどうにかしないといけなかった。


(大地の魔力による蔦や隆起する大地での攻撃……これも不発に終わってる。この檻のせいか?)


「言い忘れていたけど、その檻がある以上そう簡単には蔦や大地は使えないわ」


 杖を構えたままの相原が丁寧に説明した。

 それに対し、陸島は舌を打つ。


(ならどうする?檻の向こうにいるアイツとの距離は数メートルはある。あの杖をどうにかしないといけない。魔術も一瞬で近づいてやるのなら――)


 その時、陸島の脳裏に閃きが走る。


(ああそうだ。なんでそんなことに気づかなかった?いや、こいつが言っていないだけか。気づかせないためにな)


 閃きを悟られないように陸島は抜ける力を体に集めるように、ゆらりと立ち上がる。

 呼吸を整えながら。


(さあ、勝負は一瞬だ。この方法ならいける!!)


 相原に向けて構え、そして彼はその行動を実施した。


「え?」


「キエェェェェェェーーーッ!!」


 大声が周囲に響き渡る。

 大地の魔力によって強化された喉による猿叫。二人のいる闘技場の舞台……それどころか観客席、控室までにそれは響いた。


「ぎゃあああああうるせー!!なにこれー!?」


 耳をふさぎながら鴉田は叫ぶ。


「え、猿叫です猿叫!ああもうどこまでお猿なんですかアイツは!?」


 聞くのが二回目になった流山。

 舞台ではなく、観客席ではあったがそれでもその声を耳にしたとき苦しくならずにはいられなかった。


「ま、まずいですわねこれ!」


 燦央院が焦りを見せた。

 彼女の視線の先には杖を落とし、耳を抑える相原の姿。

 魔力の途絶えた根の檻の結びは緩やかに、そしてしなびていく。


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